障害者はかわいそうと思われる時代は、もう終わりにしたい。そんな目標を掲げながら、自身の病気を伝えているのは、近藤姫花さん。姫花さんには、脾臓がない無脾症候群、右心房と左心房の間にある隔壁が存在しない単心室・単心房という、先天性心疾患がある。自身の疾患を「キミ」と呼び、味方だと捉えながら自分らしい人生を歩んでいる。

心疾患を「味方」と思えるようになるまで

姫花さんは生後すぐ心雑音が見つかり、先天性心疾患が判明。1歳になる前に上半身から戻ってくる血液と肺動脈を繋げる「グレン手術」を受け、3歳の頃には単心室症・単心房症では最終手術だと言われている「フォンタン手術」を受けた。

幼少期の頃

だが、その後すぐに異常血管が見つかり、再手術。小学4年生の頃には弁形成手術を受けるも、直後に状態が不安定となり、再手術。術後、状態は安定し、毎日の服薬と定期健診を受けながら、健常者とほぼ変わらない生活が送れるようになった。

「時々、脈拍がとても速くなる頻脈発作が起き、1年ほど前は深夜に救急外来を受診することもありましたが、最近は落ち着いてきています」

先天性心疾患は、術後の経過や可能な運動などの個人差が大きい。姫花さんの場合は運動制限はあったものの、全く走れない体ではなかったため、小中学校の頃は体育を見学しなければならないことや、運動会、マラソン大会に出られず周囲との違いを痛感し、苦しんだ。

「みんなができることが自分にはできないと、周りの目が気になりました。特に運動会など、たくさんの人に見られる行事での見学では、かわいそうだと思われたくないという気持ちが強かったです」

私は周りと違う。普通になりたい。その苦しみに折り合いを付けられたのは、高校生の頃。先天性心疾患があったからこそ出会えた人がたくさんいることに気づき、持病の捉え方が変わった。

高校生の頃の姫花さん

「体調が不安定になったり、人間関係で悩むことがあったり、かなり振り回されて生きてきましたが、その都度たくさんのことを教えられ、周りの方のありがたさを強く感じてきたことに気づきました。喜んでも悲しんでも先天性心疾患であることは変わらないのなら、障害を味方にして楽しんでしまったほうが、自分にとっていいのではないかと思ったんです」

「障害者=かわいそう」を変えたい

ありのままの自分を肯定できるようになった姫花さんは、ブログで自身の疾患を伝え始めた。そして、障害者の前向きな気持ちや活動をメディアで見た際、「障害者だけど」というフレーズがよく使われていることに気づき、世間にある「障害者=かわいそう」という先入観に違和感を覚えるようにもなったという。

「たしかに大変なことは多いですが、大変なことが全く訪れない人生なんてないし、楽しさもつらさも大変さも全て含めて、人生の豊かさ。障害があるから出会う大変さもあれば、障害があるからこそ出会える幸せもあるので、先入観を変えたいと思うようになりました」

そこで2年前から、先天性心疾患やダウン症、18トリソミーの子が好きなことや得意なことを発信できる「しあわせなかま広場」というコミュニティを開設。その後、先天性心疾患者が日常で感じる小さな不安を解決するコミュニティ「ココの輪」も作った。

ココの輪では質問を投げかけ、回答を募っている

また、YouTube配信もスタート。2022年3月には自身の半生を綴った書籍を発売した。

「私自身、持病を前向きに捉えられるようになるまでに様々な経験や葛藤があり、心疾患者に生まれたくなかったと思ったこともありました。だからこそ、先天性心疾患と過ごしてきたこれまでを全て綴った上で今感じている、先天性心疾患に生まれて幸せだという思いを発信したいと思ったんです」

自費出版した書籍「キミがいるから私は HEART HANDI LIVE」。心疾患を味方だと思えるまでの紆余曲折が描かれている。

私にとって先天性心疾患は、相棒のような存在。そう語る姫花さんは障害の有無に関わらず、互いに支え合える社会の実現を願う。

「私の場合は普段から疲れやすく、階段を昇る、重い荷物を運ぶ、20分以上歩くことが苦手。暑さや寒さで体調が不安定になることも多く、夏や冬は屋外活動があまりできません。でも、こういう苦手なことは疾患がなくてもある。だから、疾患の有無に関係なく、相手の苦手やできないことを受け止め、支え合えるようになったらいいなと思います」

日常はいつ変わるか分からないからこそ

YouTube配信の様子

姫花さんは今後、発信の場を広げていきたいと意欲を燃やす。

「私を含め、障害を持っている方は税金をはじめとするたくさんの支援を頂きながら生活することができています。けれど、“してあげられる”だけの存在ではなく、どんな形であれ世の中に貢献することができるようになることが、障害者と健常者が平等であるためには大切だと思う。いろいろな方と考えを共有しながら、先天性心疾患や障害者の方への理解が生まれるような発信をしていきたい」

姫花さんが積極的に行動するのは、普通の日常が当たり前のように訪れる「今」の脆さを知っているからだ。

今という瞬間を噛みしめる日々

「いつ死ぬか分からないし、日常はいつ変わるか分からないからこそ、やりたいことは思いついた時に始めています。疾患の有無に関わらず、突然日常が変わる可能性は誰にでもありますが、疾患があり、普段からそういう意識があるからこそ、今を大事にできると私は思っています」

不安があることは悪いことではないから、その不安を味方にしたい。心疾患を味方につけた姫花さんのその言葉はコロナ禍である今、深く響くはずだ。

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