ムスリムの留学生に聞く、ラマダン期間中の過ごし方 断食をする意味とは

ムスリムの留学生に聞く、ラマダン期間中の過ごし方 断食をする意味とは
広島大学大学院で学ぶムティアさん(写真中央)と留学生仲間と大学生協留学生委員会の職員

イスラム教徒にとってのラマダン月(断食月)が2022年4月上旬からはじまり、まもなく終わりを迎えようとしています。ラマダン月はイスラム教徒にとって最も神聖な月。日本に留学中でインドネシア出身のムティア・クスマ・ワティさんに、ラマダン期間中の過ごし方や断食について話を聞きました。

広島での生活が6年目を迎えるムティアさん。幼い頃に日本のアニメに興味をもち、高校から本格的に日本語の勉強をはじめました。現在、広島大学大学院日本語教育学科博士課程に在籍しています。

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1か月断食をするラマダン月

ラマダンとはイスラム暦の9月のことで、2022年は4月3日から29日間または30日間を指します。新月の日にラマダンを開始するため、国や地域によって、開始時期が異なる場合があります。また、月の満ち欠けに基づいたイスラム暦は1年が約354日でカウントされるため、ラマダンの開始日は毎年異なります。

「イスラムにおけるラマダンの代表は断食です。断食はイスラム教の経典、聖クルアーン(以下、コーラン)に書かれている五行(五つの信仰行為)のひとつで、明け方から日没まで飲食をはじめとするさまざまな欲望を断ちます。ラマダン中、いいことをするのも、悪いことをするもの個人の判断にゆだねられていて、この期間に自分の信仰心を高めていきます」

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ラマダン月の断食は、イスラム教徒の義務。飲食を断つだけでなく、たばこや性的行為なども完全に断たなければなりません。また、断食をしているイスラム教徒は、言い争いや悪口、不適切な行動も慎まなければなりません。ラマダン月には、寄付や奉仕などがいつも以上に積極的に行われ、この期間に、食べ物のありがたみ、貧しい人の苦しみを知り、他者への思いやりの心を呼び覚ますという意味もあるそうです。

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ラマダン中の食事と礼拝

約1か月間、明け方から日没まで飲食を一切しない断食ですが、1日に2度「サフール」と「イフタール」という食事をとります。

サフールとは、夜明け前に食べる食事のこと。たとえば、日の出時刻が午前5時の場合、サフールは朝の最初のお祈りが始まる時間(日の出1時間半前)までの午前3時30分までに済ませることとなります。

「朝早いので、インドネシアでは、子どもたちが太鼓や鍋の蓋などを使って音を出し、近所の住民を起こして回っています。日本では、目覚ましをかけて起きています。サフールでは、パンや果物を食べ、水をたっぷり飲みます」

イフタールとは、断食中の日没後、初めてとる食事のことです。水とデーツ(なつめやし)を食べ、日没後の礼拝をした後、みんなでメインの食事をとります。ラマダン中は、朝が早くスタートすることから、いつもよりも早く学校や仕事が終わり、イフタールまでの時間を家族でゆっくり過ごします。

「インドネシアでは、テレビを家族みんなで見ながらイフタールまでのカウントダウンをします。日中、何も食べたり飲んだりしないので、イフタールで最初に口にするものは、びっくりするくらいおいしく感じます。食べ物をおいしく感じるだけでなく、食べられることに感謝の気持ちがでてきたりもします」

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イスラムの五行のうち、最大の柱となるのが礼拝です。イスラム教徒は通常、ファジュル(早朝)、ズフル(正午過ぎ)、アスル(遅い午後)、マグリブ(日没後)、イシャーウ(就寝前)の合計5回の礼拝を毎日決められた時間に行うことが義務となっています。

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ラマダン中は、タラーウィーフという夜の特別礼拝を行う人もいます。5回目の礼拝イシャーウから1回目のファジュルが始まるまでに行う任意の礼拝です。普段よりの長くコーランを読んだり、モスクで祈りをささげる時間に費やしたりするそうです。

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日本とインドネシアでのラマダンの違い

赤道直下の亜熱帯気候地域に位置するインドネシアでは12時間程度の断食も、日本だと季節によって15~18時間くらいの断食になります。また、インドネシアは国民の9割近くがイスラム教を信仰しているため、ラマダン中の日中は、飲食店が店を閉めていたり、ブラインド等をして中が見えないようにして営業していたりするなど、イスラム教徒に対して配慮されている場面もあるそうです。

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「インドネシアでは周囲のみんなで断食をするので、そこまで大変じゃありませんし、断食明けにみんなで特別な食事を食べたり、楽しいこともいっぱいあります。でも、日本は自分の周囲で断食をしている人がいないで少し孤独です。ラマダンを理由に、周囲の人に気を使わせたり、怠けたりはしたくないので、そこが少し大変です」

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断食明けのカウントダウンを楽しんだり、ラマダンにしかない行事や特別な料理を食べる機会があったりと日本のお正月のような感じで、子どもはお年玉をもらったりもするそうです。

コロナ前とコロナ禍中のラマダン

ムティアさんの暮らす東広島市は、インドネシアをはじめ、バングラディシュ、アラブ首長国連邦、アフガニスタン出身等、多くのイスラム教徒が生活しています。東広島市には、インドネシア出身の在留外国人は約200名、イスラム教徒が利用する礼拝所や飲食店などもあり、とても暮らしやすいとムティアさんは話します。

コロナ前のラマダンでは、ムティアさんは東広島市内にあるイスラム文化センターに集まり、みんなと一緒にお祈りをしたり、食事をとったりしていました。

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「料理担当が毎日かわって、月曜日インドネシア、火曜日アラブみたいな感じで、いろんな国の料理を楽しんでいました。インドネシアコミュニティは、イスラム教徒じゃない人もイフタールに呼んで、一緒にご飯を作って食べたりもしていました」

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新型コロナウイルスが流行しはじめた2020年からは、ラマダン中のイベントや集まりは制限され、みんなが積極的にモスクに集まることはなくなったそうです。

「1日の断食明けにあるイフタールをみんなで集まってすることは今年もたぶんありませんが、インドネシア人コミュニティでは、イフタール用のお弁当つくって、みんなに配ったりしています」

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ラマダン終了を祝うイード・アル=フィトル

ラマダン月の翌月の新月が目視されると、約30日続いたラマダンも終わり。無事に断食の月が終わったことを祝って、”イード・アル=フィトル”というラマダン明けの祭りが盛大に行われます。

断食明けの休暇レバランになると、イスラム教徒たちは、着飾って家族総出でお祭りの礼拝に行ったり、親戚や友人を集めてご馳走をふるまったり、各家庭にあいさつにまわったりするそうです。

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「イスラム教徒は、この断食明けの大祭時に”Mohon maaf lahir dan batin”という言葉で、家族や親戚、友達などにあいさつをしてまわります。これらは、”過去の私の過ちを許して下さい”という意味で、日本の新年のあいさつみたいな感じです」

今年のラマダンも終わりを迎えようとしている頃、広島大学の学生の間で、文化体験イベントとして”1日ラマダン断食”が行われました。朝2時以降無料通話アプリで互いに起こし合い、断食開始前の食事サフールを夜明け前の3時~4時頃オンラインで一緒にとりました。参加者は、バイトや授業などそれぞれの場所で、日が沈む午後7時前までの約15時間の断食を体験しました。

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「馴染みのない文化を体験でき、とてもいい機会だった。空腹よりも、のどの渇きを耐えるのとても大変だった」「今回は、みんなでやっているという一体感があったのでなんとかできたけど、一人だけで断食をするにはとても強い意志が必要だと感じた」と1日ラマダン断食のイベントに参加した学生は感想を述べました。

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「みんなと一緒に集まってイフタールをしたり、普段は食べない食べ物を食べたりする楽しみもあるので、断食をするラマダンはつらいだけではありませんよ。今回、みんなにも断食体験をしてもらえてよかった。もちろん苦労もあるけど、大変だという部分に集中すると大変に感じるけど、楽しいに集中すると楽しく感じます。また、ラマダンの時は、みんないいことをたくさんするので、もっといい自分になるきっかけになります。断食を通じて食べ物へのありがたみを感じたり、貧しい人々への気持ちを身をもって体験する一年で最も神聖な月です」

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新型コロナの影響がまだ残る2022年のラマダン。サフールやイフタールの集まりは、イスラム教徒のみなさんにとってコロナ前までと違う部分が多くあり、断食明けのイード・アル=フィトルも縮小して行われる可能性があります。

ラマダン月はイスラム教徒が心と身を引きしめ信仰心を高めるだけでなく、断食を通じ人種や民族、国境を越えて同じ経験をすることで、食べられないことのつらさや食べられることの素晴らしさを知ること、他人に思いを馳せることなど、大切なことを体感できるように感じました。

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