2022年1月26日朝10時。香川県まんのう町長尾地区に「サニーサイドフィールズ」がプレオープンした。見たことのないような斬新な建物は、よく見るとどこか懐かしい匂いが感じられる。中には、ビーントゥーバーと呼ばれるクラフトチョコレート工場やコーヒースタンドがあるほか、自社農園や地域で採れた野菜や、それらを使った弁当や惣菜が販売される。

この建物は、かつて看板工場だった建物をリノベーションしたもの。「新しいものとそこにあった古いものが境界線なく共存するイメージで建てました」と話すのは、サニーサイドフィールズの運営会社、株式会社サニーサイドの代表、多田周平さん。

看板工場だった無機質な建物の鉄筋や大きな扉はそのまま生かしている建物。設計は高松の長田慶太設計要素が手がけた。

1階はショップスペース。2階にはキッチンを備えた多目的スペース。丸い塔が見える屋上には、東屋のような開放的な空間。庭には昔の竪穴式住居をイメージしたというトイレに、まだ工事中の池や浄化槽。微生物分解で水をきれいにする「バイオジオフィルター」もこれから作る予定だ。そして、この周囲には自社で管理する畑も点在する。

周囲にはサニーサイドの農園も点在。農場担当4人が玉ねぎ、にんにく、いも類、伝統野菜の香川本鷹(鷹の爪)も栽培。

ここはみんなの「始まりの場所」

プレオープンを目前に控えたある日、多田さんにこの場所について話を聞いた。
まず説明されたのは会社の経営理念。
「うちの会社には『個性が共生し調和が発展を生む』という経営理念があるんです」

株式会社サニーサイド代表取締役 多田周平さん。

レオマワールドなどのクリーン事業を担っているサニーサイドでは、引きこもりや障害のある人、高齢者なども皆、一人一人「個性」として受けいれ、仲間に迎えている。創業から11年目、現在は135人を雇用している。

「仲間になって、力を合わせて何かをする。そうしてきた会社が『個性ってなんだろう?』ということを改めて考え直したときに、出てきた答えは『境界線をあいまいにする』だったんです」

確かに、サニーサイドフィールズには意図的に境界線があいまいになっているところがあちこちにある。
例えば、シースルーな建物。床は地面の土のまま屋外とつながっていたり、室内だけど草が生えていたり。中と外の境界線はあいまいだ。リノベーションした建物は、もともとあった鉄筋が活かされ、地域の家で眠っていた古い建具や民具が持ち込まれ、新しいものと古いものが共存している。

床は土のまま。よく見るとあちこちに草が生えている。わざと外の草を持ち込んだ。

一見、新しくカッコいい店内には、かつて工場で使われていたドアの一部が什器に使われていたり、古いトタン板が照明器具になっていたり。

そして、サニーサイドフィールズのコンセプトは明快でわかりやすく、人にも自然にもやさしい。
・誰かを思いやること
・好きなものを好きでいること
・自然に感謝すること
「このコンセプトは、人が幸せに生きるために大切なことだと思うんです」
会社の経営理念とコンセプトがわかると、ここがどれほどこだわりの強い、そしていろいろな意味の豊かさをもつ場所であることが、だんだんわかってくる。
「小さな子どもからお年寄りまで『みんな』に来てもらいたい(笑)。この場所は単に消費の場所ではなく、それぞれがそれぞれに楽しめる『居場所』、その人にとって居心地のいい場所でありたい。それは完成状態でポンと用意して『オープンです』ではなくて、未完成なところから地域の人といっしょに作っていきたい。だから今回のプレオープンは、この『始まりの場所』をみんなといっしょに始めますよ、という意味なんです」
そう聞くと、あれ?まだ工事中?ここはどうなるの?と感じる部分もこれから少しずつ「みんなで作っていく」余白のように思えてくる。そう、これも「境界線をなくす」しかけのひとつだ。

「豊かさ」の基準を変えていきたい

続いて、ショップで販売するものを紹介してもらった。
「近隣の農家から届く野菜や自分たちの畑で採れた野菜が、入ってすぐの正面に並びます。その野菜を使って自分たちでお弁当やお惣菜も作ります。奥に見えるのは、ビーントゥーバーのチョコレート工場。こっちはコーヒー。どちらもインドネシアから直接カカオ豆6種類、コーヒー豆10種類を輸入して、ここで焙煎、加工します」

野菜は基本的に農薬や化学肥料を使わずに栽培されたもの。購入した弁当や惣菜などは、庭や周囲の畑など、好きなところで自然を感じながら食べることができる。

カカオ豆からチョコレートバーに加工する「ビーントゥーバー(bean to bar)」のチョコレート工場では、ショコラティエの八十川恭一さんが地域の素材も活かしながら一から手作りする。

「例えばコーヒーの名前ひとつにしても、ブルーマウンテンとかキリマンジェロなど、単に豆の種類を書くだけでは既成概念に引っ張られるでしょ。ここでは味や香りのチャートや、どんなときに飲むとおいしいですよ、というメッセージを伝えるようにしています」
コンセプトの「誰かを思いやること」は、こんなふうにあちこちで具現化されている。

コーヒー豆のサンプルには、香りや苦みなどがチャートで示され、好みをイメージしやすくしている。

プレオープンを間近に控え、スタッフも最終トレーニング中。

「豊かさの基準を変えていきたいと思うんです。例えば、新しいもの、おしゃれなものがいいというような従来の価値観にしばられることなく、それぞれが感じる本当の豊かさとはどういうものなのか。それをみんなで考えて行動していきたい。そういう文化を作っていきたいんです」

それを具体的に形にしていくのが、サニーサイドフィールズのプロデューサー、秋吉直樹さん。秋吉さんは2015年から3年間、香川県の地域おこし協力隊として活動してきた。その後サニーサイドのスタッフとしてこの事業の立ち上げから取り組んできたひとりだ。

秋吉直樹さん。結婚したばかりで、妻のはなさんもここのフード担当としていっしょに働いている。

「ぼくの仕事はみんなが仲良くなるためのしかけ作り、ですかね。『みんな』というのはスタッフだけではなく、ここにきてくださる方や地域のみなさんも含めてです。関わってくれる人たちのスキルや興味をコンテンツに、イベントの企画や、本気で夢中になれる遊びなど、アクティビティの充実も考えていきます」

2階の多目的スペース。古い建具や昭和が漂う吊り下げ照明も、近隣から提供されたもの。

「いろんな人が出会い、関わることでひとつの文化が育っていく場所。だから完成状態はないと思っています。未完成のままでいいんです(笑)。ここを訪れる人それぞれが、何かを感じ取って自分の居場所にしてくれたらいいですね」

多田さんがイメージするこの場所のあり方は、まさに「個性的」だった。
本格オープンは2022年4月を予定している。

地域の野菜や果物、地酒なども使ったチョコレート。※こちらはサンプル商品です。

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