岡山県真庭市の最東部の集落、余野地区。美しい田園風景が広がる人口300人程度の地域で、地域の人たちと一緒に古民家を改装してシェアハウスをつくるプロジェクトが進んでいます。たくさんの人を巻き込みながらプロジェクトを進める藤田亮太さんに、田舎生活の魅力と、田舎でシェアハウスを作るわけを尋ねました。

田舎での暮らし方と働き方を実験中

「毎日の生活にはりがありますよ。いろんな人とシェアハウス作ったなぁと、人生の思い出づくり、老後の楽しみに作っています」と笑いながら話すのは、藤田亮太さん。岡山の高校を卒業後、徳島、横浜と生活拠点を変えながら、設計事務所や旅館の支配人などを経て、2020年4月に真庭市の余野地区にやってきました。

「2019年に独立してから、いろんな縁があって、美しい風景が広がる余野地区にきました。地域の人もとてもあたたかく迎え入れてくれ、この土地にもっとたくさんの人に足を運んでもらいたいと思うようになりました」

真庭市余野地区。古民家裏の小山からの眺め。

現在、藤田さんは、leal. lab(レアルラボ)の代表として、動画配信業や宿泊施管理業などをしています。leal.labとは「地域(local)の経済(economy)と(and) 生活(lifestyle)を、豊かにおもしろくする」のイニシャルをとった造語です。

「働き方改革が推進される前は、一般的には都会の仕事が面白そう、刺激がありそうと憧れがあったように思います。でも、こちらで生活を始めてみて、田舎の方が資源もたくさんあるし、自由にできることもたくさんある。もっと面白い生活、もっと面白い経済活動ができるだろうと思い、leal. labを立ち上げました」

藤田さんは、放置竹林を活用した竹炭づくりや古材をつかった箸づくりなど、地域資源を活かしながら小さな経済活動を進めています。

「いろんなトライ&エラーを繰り返さないと、何がおもしろいかも分からないと思うんです。研究所にすることで、全部実験だと思って楽しめる。失敗は実験の結果であって、失敗した結果がどうだったかを検証すれば、それは失敗じゃなくて、次どうすればいいかを考えるきっかけになる。田舎でまわす小さな経済と生活をいろいろ実験中です」

縁をつなぐ、心のよりどころ

そんな藤田さんが今進めているプロジェクトの一つに、古民家改修のシェアハウスがあります。プロジェクト名は「よすが」。「よすが」とは「心のよりどころ」「縁」を表す言葉です。

古民家裏山整備で、木を伐採

「この場所にいろんな人がきて、いろんな縁がつながり、この場所で作業したり、生活したりすることが楽しいと、ここに関わる人の心のよりどころになればいいなと思って”よすが”と名付けました」

名前の通り、藤田さんの知り合いをはじめ、小学生、高校生、余野地区の人、真庭市内の人、市外の人、県外の人など、たくさんの人が関わりながらシェアハウスづくりが進んでいます。

地元の小学生が民家で使われていた古材を磨きなおし、縁側の床として新しく生まれ変わらせる

地元の高校生も総合的な学習の時間の一環として参加。放置竹林活用として竹炭づくりに挑戦。現在は、シェアハウスのお披露目会に使う竹灯籠づくりに取り組む。

小学生が床磨きに来たり、高校生が壁塗りに来たり。一緒に床の張替えをする地域のお父さんや「きょうは何がええ?」と差し入れを持ってきてくれる人、「まぁまぁ進んできとるなぁ」と進捗状況をのぞくに来る人など、1日の作業の中で、いろんな人がプロジェクトスペースに足を運びます。

地域のお父さんも頼りになる師匠&心強い助っ人

「単なるシェアハウスとしての機能だけじゃなくて、作っている過程で、いろんな人を巻き込んで関わってくれる人を増やしたり、仲間づくりをしてもらったり、木材などは古いものを使ったり、あえて時間のかかる面倒くさいやり方をしています。なかなか進まない作業にやきもきしている人や、住む人の候補は決まっているのかと心配してくれている人もいます。いろいろ自分もハラハラしているけど、周りもハラハラしているみたいです。自分一人だけじゃなく、関わる人みんなでシェアハウスづくりを楽しむ、壮大なエンターテイメントですね(笑) ほんと、たくさんの人に助けられながら進んでいます」

完成イメージ。庭先をのんびり眺めらながら作業ができるスペースを縁側のそばに設置予定。

完成イメージ。仏壇があった場所がミニキッチンに変身。

「ここにいる人が楽しそうにしていると、自分もプロジェクトに関わりたいという人が出てきたり。そうやってここでつながる縁を大きくしていけたらいいなと思っています。住んでいる人だけのつながりだけでなく、近所の人がふらっときて、ここに住んでいる人と関わったりとか、仕事帰りによってもらったりとか。地域の活動の小さな相談場所になってもおもしろいかなと思っています。ここに暮らす外の人と地域の人をつなぐ場所みたいな感じで」

藤田さんの友人をはじめ、地域の多世代の人が「よすが」に足を運ぶ

田舎の生活と仕事が溶け込む暮らし

4月からスタートしたシェアハウスプロジェクト。12月26日には、リビングスペースとキッチンスペースのお披露目会が開かれます。

小学生が磨いた縁側の床、高校生が塗った壁や放置竹林の竹を活用した竹灯籠、地域の方と張り替えた床など、いろんな人が関わり、それぞれの思いがつまったシェアハウスプロジェクト”よすが”。最大3名まで入居できる4月からの入居者を、ホームページで順次募集しています。

作業を一緒にすすめる仲間たち

「仕事と生活が分離してしまって、日々の生活に虚無感を感じている都会暮らしの人や、今までの生活のあり方を見直して新しい生活に興味のある若い世代、または新しい価値観の生活を作っていきたい人と一緒に生活できたらと思っています。田舎には、資源がたくさんあります。草刈り、山仕事、大工、里山、竹林などを活用することで、小さいながらも経済をまわすことができます。シェアハウスに住む人と一緒に仕事をシェアしたり、田舎の暮らしを楽しんでみたい人にぜひ来てほしいですね」

「よすが」に携わった人たちの写真が飾られている。(写真中央の石原さん提供)

田舎の生活と仕事が溶け込む暮らし方を提案しようとする藤田さん。正解のない人生の生き方や暮らし方も「これは全部実験。次へ進む検証材料」と思えば、ちょっと気楽に人生のトライ&エラーを繰り返せます。

“よすが”は、そんな暮らし方の実験を楽しんでみたい人にはぴったりな場所。新しくできる地域の交流の場に「きょうはどんな縁があるだろう」と、足を運んでみるのも面白いかもしれません。

この記事の写真一覧はこちら