今回は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)の技術「ディープラーニング(深層学習)」を駆使したアプリケーションの開発などを行う「Panda株式会社」の代表取締役 田貝奈央さんに話を聞きました。

田貝さんは当時、全国高等専門学校プログラミングコンテストの強豪校に進学したいと考え、香川高専詫間キャンパスに入学。チームリーダーを務めて出場した2018年度の大会では自由部門で最優秀賞を受賞しました。その後、在籍中の2019年12月にPanda株式会社を設立しました。高専卒業後の2021年春には筑波大学へ編入学し、現在は大学3年生でもあります。

―「Panda株式会社」の主な取り組みについて教えてください。

自社製品の開発としてはAR(Augmented Reality:拡張現実)グラスを使って目の前にいる人のプロフィール情報を表示し、コミュニケーションを促進させるためのアプリ開発をしています。あとは一緒にやりたいと言ってくれる企業との取り組みとしてはAIを使った顧客データの分析やタブレットなどを使った認証技術を提供していたり、さらには香川県という地方の課題をICTで解決するという取り組みを行ったりしています。

ARグラスに関しては、例えば、化粧品売り場の美容部員さんがいる店舗では、いまだに紙ベースで顧客情報を管理している現状があります。お客さんが来たとき、前回の来店時に担当した同じ部員さんが接客することが前提の仕組みで、これでは新しい部員さんが来たときに初めから顧客情報を引き継がないといけないです。これからの世の中、人の入れ替わりも激しくなるはずなのに、一人に頼り切ったビジネスモデルをしていて大丈夫なんだろうかという課題提起をさせていただいています。

顔認証でプロフィール情報など登録することで、顔を見ただけで前回の購入履歴が分かれば、人の名前を覚えるのが苦手な人なども活躍できる社会が生まれます。顧客情報をもっと柔軟に活用しようよというサービスで、スマートグラスを掛けると目の前に画像とプロフィール情報を提示する「リアルプロフィール」というアプリケーションを開発しています。

―ディープラーニングを学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

夏期講習のような感じで、(AI研究の第一人者である東京大学大学院教授・松尾豊さんの)松尾研究室と香川高専で協力してサマースクールをしており、そのセミナーに参加し、まあ何とかなりそうだな、と思ったのが直接のきっかけです。

それまではゲームを制作するためのアプリケーションの開発をしていました。もともとビジュアル的に目に見えてわかりやすいものが好きだったので、それをメインに開発をしていたので、機械学習とか深層学習は、パソコンの黒い画面を眺めながら地道に開発していかないと進まないこともあり、あまり自分は好きではないかなと思っていました。でも始めてみると、今まで自分がしてきたビジュアル系のプログラミングとすごい相性が良く、楽しいという感じですね。

また松尾先生からは「高専生にはAIを使える側になってほしい。理論は後からついてくるから、とりあえず組み込んでやってみなさい」という指導をしていただきました。

―この1~2年の間、コロナの影響でビジネス的に何か影響はありましたか?

コロナの影響で自分自身の学生としてのスケジュールが狂い、それに対応する時間がとられました。あとは、起業してからの2年間で、本当はいろんな人たちと出会えていただろうに、今は出会いの機会が少ない感じはします。

―学生生活と会社のウェイトは?

高専の時は学校から帰ったらすぐ仕事に取り掛かれましたが、大学となると授業のウェイトがすごく多くなって、授業プラス課題でとなると高専にいたころよりは会社に対するウェイトが下がっているなという印象です。

―どういうモチベーションで学業と会社を両立していますか?

ARグラスの運営をどうにかして実現したいです。今までも相手の顔とその人の情報を見た瞬間に紐づかせられたら困らないのにな、と思う人がいたはずなのに、それでも実現しなかったのは、コンピューターのスペックであったり、(習慣的に)周りがそれを良く思わない流れもあったりしただろうと。でも、そろそろ自分のタイミングで実現したいなという夢があって。私自身なかなか人の名前が覚えられない人なので、それがコンプレックスでした。向こうは覚えてくれているのにこちらは全然思い出せない、それを解決するための一つの道と思っていれば、がんばれるかなと。

最終的には、ARグラスでお互いの顔から情報が取れて、例えば自分と相手にピッタリのカフェとか紹介してくれたらいいのに、みたいに思っています。それを目標にしているので、大学の研究もそれに近しい推薦システムの研究です。モチベーションは「そういう未来を作りたいな」という気持ちだけでやっている部分がありますね。

―今後、挑戦したい研究はありますか?

例えば、キノコ専門家のような人がキノコの画像をいっぱい登録した上で、(誰かが)スマホカメラをキノコにかざしたりするとキノコ専門家が「毒キノコだよ」「毒キノコじゃないよ」みたいに教えてくれたりするプロフェッショナルシステムを考えています。自分以外の誰かが情報を入れればそれがみんなに共有されるみたいな仕組みに今度チャレンジしたいと目標に決めています。

実現すれば、映画や小説の中のような近未来社会が出来上がりそうで、田貝さんのアプリケーション開発への期待が高まります。

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