「ただいま!」玄関を入った瞬間、思わずそんな言葉がでてきそうな「ゲストハウス若葉屋」。市内や観光地へのアクセスも便利な香川県高松市観光町で、ゲストハウスを経営する若宮さん。開業のきっかけやコロナ禍での取り組みを聞いた。

ゲストハウス開業の道のり

大学時代、途上国の発展や開発協力等について学んだ若宮さんは、卒業後会社勤めを経て国際協力の分野で経験を積むためにJICA海外協力隊に参加。任期終了後は、大学院に進学し開発コンサルタントというキャリアプランを予定していた。

しかし、協力隊として2年間現地の村人と生活を共にし、彼らの仕事に対する考え方や家族との距離間に触れたことが、ゲストハウス若葉屋の開業につながった。協力隊に参加しなければゲストハウス若葉屋の道はなかったと語る。

セネガルでの経験と出会い

現在経営しているゲストハウス若葉屋は、「自宅=職場」。アイデアのもとになったセネガルでの生活や、そこで出会った人々とのエピソードを聞かせてくれた。

「食って行け、食っていけ」と言われるがままに、ボウルに盛られた昼食が出てくる

「暮らしていた村では、仕事と家庭のすみ分けがなく、家族との距離がすごく近いんです。ゲストハウスの運営で、仕事と生活が一緒になって大変なのでは、とよく聞かれますが、例えば掃除機をかけるとき、ゲストハウスから自宅の境目なんてないですし何が大変なの?と思いますね」

「現地で“苗木親父”と呼んでいた人は、苗木を育てるのが上手で、村人はその人にお金を払って苗木を買っていました。親父の苗木のおかげで育ったマンゴーやパパイアを、地元の女性が市場に売りにいき生計を立てていますが、親父は彼女らの売り上げには興味がない。でもそのスタイルでビジネスが成り立っている」

マンゴーやパパイアなどの果樹を中心に、苗木を育ててロバ車に乗せて売り歩く

「各家庭に水道管を引く“配管工親父”というのもいて、地域の発展に役立っている。その仕組みはいたって単純ですが、そのシステムに大きく共感・納得したんです」

そんな暮らしや出会いの経験から、将来開発コンサルタント側として働くよりは、親父側の立場になりたいという考えに至ったと語る。

旅人目線でゲストに観光地を案内

バックパッカーで世界各国をまわった経験を持つ若宮さんは、旅人目線で効率の良い観光ルートや、その人のニーズに合った観光地を案内するよう心がけている。

ゲストハウス若葉屋の玄関を入ってすぐにある木目調の大きな机。そこはまさにゲストとの作戦会議の場所だ。

ゲストとの「作戦会議」場所でインタビューに答えてくださる若宮さん

「“地域活性化”という言葉をよく耳にしますが、旅人はその地域を活性化したいと思って旅はしていないと思います。地域のごり押しであってはいけない。結果的に地域に役立ち、若葉屋の儲けにつながれば嬉しいですが」

冗談交じりに話す姿からは、本当に好きなことを仕事にしている印象だ。

 “Family Welcome”のゲストハウス

若葉屋は、2014年の開業から7周年。開業当初、香川県内にゲストハウスはほとんどなく、“ゲストハウス=外国人”というイメージが世間的に強かった。

「開業当初は、ゲストハウスに家族で泊まるイメージはなかったです。でも、畳があり駐車場を併設していることで、ファミリーの利用が意外にあるんですよ」

市内のホテルではベッド利用が多くなるため、子どもがベッドから落ちてしまうという心配をする保護者もいる。ファミリーで宿泊しやすいという点をもっと売り出そうと思ったという。

若葉屋は、防音ではないし、風呂・トイレは共同、部屋にテレビはないということをしっかり情報提供し、ホームページでもっと分かりやすい情報発信を行いたいと意気込む。

コロナ禍だからこそ立ち止まって考える

新型コロナウイルス感染症の影響は、ゲストハウスなどの観光業界にとって大打撃をもたらした。

ゲストハウス若葉屋入口

「もちろん、ゲストハウスの収入自体はかなり減りました。けれど、若葉屋の魅力は何なのか、どういう人に来てほしいのかを一旦立ち止まって考える絶好の機会になっています」

コロナをきっかけに、今まで集めた宿泊アンケートを整理し、ホームページの見直しを始めた。

「今までデータは蓄積していたけれど、それを見直して考える時間があまりとれなかったんです。走りながらは考えられないですが、今は後ろを見て振り返ることができています」

家族全員が、作戦会議の机に大集合

ゲストハウスを経営しているといろんな人の人生を垣間見ることが多いと、インタビュー終了後もゲストとの交流話や経験談を話してくれた。

アットホームで長居したくなる雰囲気、若宮さんの気さくな人柄がまさにゲストハウス若葉屋の魅力である。

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