皆さんの生まれ育った町は、今どんな町ですか?子どもが少なくなったり、シャッター街になったり……ひしひしと変化を感じている人も多いのではないでしょうか。

「ふるさとを変える力になれたらなぁ」と感じたときには、ボランティア活動や余暇の時間を使ったサイドビジネスを思い浮かべるかもしれません。しかし、長崎で起業したイグアスの中村あきらさんは、「地方を変えたいと思うならビジネスで戦うべき」と断言します。そう語る理由を聞いてきました。

中村さんがめざすのは、「人生を変える環境をつくる」こと。女性向けにはパートナーシップ領域(婚活・夫婦問題解決)のサポート。そして、長崎で起業をめざす人のためのシェアハウス「亀山社中スタートアップ(通称:亀スタ)」の運営をしています。1年間で100名前後の学生が起業イベントを行い、10人前後が起業を目指し、泊まったり住んだりしています。長崎で多くのテレビに取り上げられ話題になっています。

卒業後すぐ起業家に。そこで痛感したことは?

起業をめざす大学生たちとディスカッションが盛ん。和やかだけど、みんな真剣。

中村さんがこの2つの事業に取り組む最初のきっかけは、大学生の時に起業家たちと一緒に住んだ経験でした。「長崎はつまらない」と上京し、理系の経営学であるマネジメント工学を学んでいた中村さんは、大学4年のときに起業家のコミュニティ「ゆかい村」にインターンを通じて出会います。起業家たちと一緒に住みはじめ、ビジネス本をシェアしたり学び合ったりする日々。「同じ方向を向いている人と一緒にいるのって幸せだ」と気づいたそうです。

売り手市場の就職活動が始まっても、「周りの人が起業しているから」と周囲の反対を押しのけて「就職しない」という選択をした中村さん。最初はホームページの制作などをしていましたが、自分のビジネスを持ちたいと考え、勧められて家具の通販をはじめました。

2年ほどで最高月商5000万に達し成功を手にするも、そこからの道のりは平坦ではありませんでした。震災を機に東京から沖縄へ社員全員で移住。沖縄でオフィスを借り、従業員を30~40人雇っていましたが、はじめての組織運営がうまくいかず「だんだんオフィスに行きたくなくなった」といいます。そして、「家具が好きなわけではない、情熱がなくなった」と感じ、会社を閉じました。

従業員を抱えていたため、事業をクローズすることの大変さや責任の重さを知った中村さんは、「今度は自分の情熱を注げるものでビジネスをしたい。経営を学び直さなきゃ」と決意を新たにしたといいます。

その後、世界中でビジネスを見て回って気づいたのは、「人生を変える環境をつくる」ことの大切さでした。とくに女性が生き生きと働ける世界にしたいと考えた中村さんは、女性向けのパートナーシップカウンセリング&トレーニングを行う「parcy’s」というサービスをはじめます。「どこでもできるけど、愛される場所で、自分しかできない場所でやりたい」という気持ちから、本拠地を長崎に決めました。

起業をめざす学生たちが切磋琢磨

また、起業をめざす人のためのシェアハウス「亀山社中スタートアップ(通称:亀スタ)」の発起人になりました。「亀山社中」は、坂本龍馬が長崎の「亀山」という地で起こした日本初の株式会社。大量の小銃や蒸気船ユニオン号の購入が薩長盟約締結へとつながり、新しい時代をひらくための足がかりとなりました。長崎のベンチャー精神・起業家スピリットを育てています。取材時に会った大学生たちは、「アーティストとコラボしたアパレルを発信したい」「AIテクノロジーで世界を変えたい」などと目標を語ってくれました。

起業をめざす学生の皆さん

長崎の「流れ」を、ビジネスで変えていく決意

「長崎でビジネスすること」への強いこだわり。そこには、長崎の未来を見据えた思いがありました。
「起業家を育てることで、彼らが上場していってリーダー層ができ、雇用が生まれていく。20年、30年かけて長崎という町を豊かにしていく」

物腰のやわらかい中村さん
 

柔和な笑顔の中村さんですが、キッパリと「地方を変えたいなら、ビジネスをやってください」と言います。ビジネスを地方でやることで、お金の流れ、人の流れ、仕組みが変わっていく。ボランティアなどを否定するわけでは決してありませんが、まちを根本的に変えていくには、時間をかけて「流れ」を変えていくことが必要なのです。

中村さんが立ち上げた会社の社名「イグアス」は、世界最流量の水が流れる「イグアスの滝」に由来しており、世界から日本に人材、愛やお金の流れを構築できる会社にしたいという思いを込めたそう。

「まちを変えたい」というとき、「まずは無理のない、リスクの少ない範囲で」と考えてしまいがちです。しかし、20年、30年先のまちを思い描いた時、起業をその地で行うことのインパクトは多大。これを機に、「自分がこのまちで本気でビジネスをするとしたら」と考えてみませんか?

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