地域に眠る民話や神話をもとに影絵を創作するアーティスト川村亘平斎さん。ガムラン奏者として音楽活動を突き詰めていく中で影絵に出合い、音楽家の枠にはまりきらない表現を広げ続けている。

1960年代、日本でカラーテレビや車が急速に普及した時代に、ガラッと生活様式が変わるとともに忘れられた地域の民話。川村さんは日本各地をフィールドワークし、影絵を通して民話に潜む大切ななにかを浮かび上がらせようとしてきた。

『広辞苑第七版』によると、「民話」とは「民衆の中から生まれ伝承されてきた説話のこと」とある。ルーツは神話にあると言われているそうだ。一方で「神話」とは「現実の生活とそれをとりまく世界の事物の起源や存在論的な意味を象徴的に説く説話。神をはじめとする超自然的存在や文化英雄による原初の創造的な出来事・行為によって展開され、社会の価値・規範とそれとの葛藤を主題とする」とある。

地域の物語を影絵でつないでいく

福武財団が運営する福武ハウスが地域固有の文化やひとびとの生き方に焦点をあて、地域の魅力を作り出すプロジェクト「福武ハウス風土ラボラトリー」では、2020年から川村さんを招き、福武財団スタッフとともに香川県小豆島福田地区のリサーチを始めた。

掘り起こした物語は「福田うみやまこばなし」として影絵上演に向けて制作を行った。

2020年9月には観客を迎えての影絵上演予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一般公開はせず、影絵の映像収録を行い、編集した映像をウェブ上で限定公開した。(現在は一般公開) 

その後、一連の活動に対してクラウドファンディングを募り、集まった資金で2021年4月24日(一般)と25日(地域住民のみ)に改めて観客を迎えての影絵上演をした。

「福田うみやまこばなし」影絵上演の様子 影絵の幻想的な情景が広がる

「福田うみやまこばなし」影絵上演の様子 そのシーンの感情が伝わってくる

見つけた民話やフィールドワークでの体験をもとに物語を創作する

今回の影絵で目の見えない少女がメノウの洞窟を訪れるシーンがあった。

福田で、"昔、盲目の人がお遍路道を訪れ、目が見えるようになった"という民話を聞きアレンジしたそうだ。

メノウの洞窟は、川村さんが実際のリサーチで地元の方に案内してもらい訪れた場所。

ウバメガシやシダが生い茂り先に道が続いているとは思えない

誰も入らなくなった山道を登って行くと、ウバメガシやシダが生い茂り、とても先に道が続いていると思えなかったという。

ところが、さらに登り進めると地蔵を発見した。地蔵があることから、ここはかつてお遍路道だったことが分かる。

フィールドワークでメノウの洞窟を探した(撮影:川村亘平斎)

さらに進むと、近くに洞窟らしきところを見つけた。中に人が入れる大きさではなかったが、小さな穴が空いていたそうだ。穴の近くに転がっていた石を割って見ると、黄色い岩質が出てきた。その石はメノウだった。

洞窟の近くに転がっていた石を割ると、黄色い岩質が出てきた(撮影:川村亘平斎)

「まるでロールプレイングゲームのようでした」と川村さん。

今回の影絵の物語には、福田で見つけた民話やフィールドワークでの体験をもとに、古事記の引用や自ら創作したファンタジーを織り交ぜている。

「昔話をそのまま影絵にしても、あんまり面白くないですよね。やる側の僕自身もそれではあまり楽しくありません。だから、見つけた民話を手掛かりに、そこから何百年か後のストーリーを創作しました。洞窟のような普遍的なものって神話と接続しやすいんです。『洞窟』は、古来から『生』と『死』を疑似体験する場所として神聖化されていました。実際にあった福田の『洞窟』と、日本の神話の世界を接続する事によって、より普遍的な感覚にコネクトするんじゃないかと。そういうつもりで作りました」

「その時そこに何があったのか?」古いものを手掛かりに過去を想像する

川村さんは、これまで戦後を知るお年寄りから直接話を聞いて物語を作ってきたが、徐々にそれも難しくなってきそうだ。

「これからは、お年寄りたちが語る民話以外のものから、物語の手掛かりになりそうな出来事を見つける必要があります。例えば、『ここに地蔵があるのはどうして?あっ、地蔵があるってことは、ここは道だったんだ』って気づけるかどうかがすごく重要です。今は藪になっているけど、道があったということは、そこには日常的に人が通っていたことが分かります。そこから物語を立ち上げていく。福田はいわゆる有名な民話や神話はないのですが、今回の作品では、初めて『その時、そこになにがあったのか』という(民話以前の)出来事から物語を作れました。これは初めての経験でした。すごい発見です。今後の自分の創作活動の幅が広がりました」

スクリーンの裏で影絵人形を操る川村さんとスタッフ

上演では川村さんだけでなく、福武財団のスタッフや福田地区の住民が影絵を操った。そして今回は、クラウドファンディングで出演権を得た、神奈川からの参加者も登場した。

石工がノミを叩く音。コウモリのいる洞窟。打ち上がったウミガメに酒をやって返す人。音楽家の石田多朗さん、オオルタイチさんの演奏とともに、川村さんが制作した影絵人形がスクリーンを軽快に動き回る。時には影や、影絵師までもがスクリーンを飛び出した。土地の記憶が浮かび上がり、深いイマジネーションを喚起する時間だった。

大人も子供も影絵人形を自由に操る

終演後、観客はスクリーン裏で影絵人形を投影する体験ができた

「福田には、まだ物語のかけらみたいなものがいっぱいあるので、機会があればプロジェクトを続けたいです」と川村さん。

人から人へ語り継がれるたびに、少しずつ民話は変幻し、時にそれは神話に作り上げられる。今回の影絵上演から神話の成り立ちを垣間見た気がした。

神話はただの作り話ではなく、深く掘り下げていくと、神話になり得た事実がなにかしら隠れているはずだと川村さんは言う。

今の時代に神話が生まれるとしたら、どんな物語になるだろう。

時代の転換期と言える今、改めて地域に眠る記憶を見つめ直したい。