岡山県奈義町に3月19日にプレオープンしたカフェ「ジャルダン奈義」。この店のランチメニューを手掛けたのは、岡山が世界に誇る超一流シェフ「ムッシュ湯浅」こと湯浅薫男さん。店を切り盛りするのは、北海道から1月末に移住してきたばかりの水島茂さん・美希さん夫妻です。この異色とも言えるコラボレーションが実現した背景には、「食べて健康になる」という両者の大切にしてきた考え方がありました。

ジャルダン奈義の店内(22日撮影)

岡山の鉄人が目をつけた「ポワソンキャビア」

 湯浅薫男さんは、岡山県高梁市出身の料理人です。フランス人シェフのミッシェル・ゲラール氏の「キュイジーヌ・マンスール(おいしく食べて太らない料理)」に出会ったことをきっかけとして、「おいしく食べて健康になれる料理」に没頭し、研究を続けてきました。2004年のカンヌ国際映画祭では晩餐会の料理を担当し、2005年の岡山国体では皇室関係の料理を担当。また人気テレビ番組に出演したり、岡山の有名ホテルで総料理長として活躍したりするなど、「岡山の鉄人」としてその名を馳せてきました。

「ムッシュ湯浅」こと湯浅薫男さん(提供:MSファーム)

 そんな湯浅さんが今、「食べて健康になれる食材」として認知度を上げようとしているのが、“チョウザメ”です。世界三大珍味のキャビアで有名なチョウザメは、海外では白身魚の中でも高級品として扱われていますが、準絶滅危惧種であり、養殖の歴史が浅い日本では、食材としての認知度が低いのが現状です。しかし、その身にはDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)などの不飽和脂肪酸が豊富で、かつコラーゲンも多く含んでいて、健康や美容に役立つ栄養価の高い食材なんです。

MSファーム(新見市)で養殖されているチョウザメ

 自身が執行役員を務めるMSファーム(新見市)は、チョウザメの養殖とキャビアの製造・販売を行っていて、現在約1万7000尾を育てていますが、オスや、キャビアがあまりとれなくなったメスをどうしていくのかということが課題になっていました。そこで、「ポワソン(※)キャビア」と名付け、料理として食べてもらう場所を作ることで、チョウザメを有効活用するともに、湯浅さんが大切にしている「食べて健康」をたくさんの人に知ってもらう発信基地にしようと、カフェをオープンすることにしました。

(※)フランス語で「魚料理」を指す

「食べて健康」を実践できる、北海道の夫妻を岡山に招く

 そのカフェの切り盛りを任せようと湯浅さんが考えたのが、知り合いで、北海道千歳市に住んでいた水島茂さん・美希さん夫妻でした。夫の茂さんは、雑穀や米の卸元を経て、千歳市の老舗洋菓子店「ニシムラファミリー」のフランチャイズを経営していました。ニシムラファミリーはマーガリンを一切使わず、バターや米油を使ったスイーツを作る洋菓子店で、茂さんはそこで健康への知識や考え方を養ってきました。妻の美希さんも一緒に店で働き、ノウハウを培ってきました。2人は、湯浅さんが探していた「食べて健康」を日々考えて実践できる人材として、最適だったのです。湯浅さんが茂さんにオファーを出したのは、2020年12月の上旬頃。わずか1か月半後の2021年1月末には、2人で奈義町に隣接する津山市に移住していました。

湯浅さんに指導を受けながら盛り付けをしていく

 「将来こういう店をやりたかったんですよ。自分たちでできる店を。ムッシュの下で勉強できると思ったら……。普通だったら絶対勉強できないですからね」そう話す茂さんから移住への戸惑いは感じられず、新しい挑戦への希望で満ち溢れていました。美希さんも、北海道に残してきた大学生の息子と猫が少し心配だそうですが、夫のチャレンジを応援し、前向きに岡山にやってきました。

ポワソンキャビアと健康なデザートを手頃な価格で

ポワソンキャビアカレー(税込1650円) 盛り付け1つ1つにムッシュのこだわりを感じる

 ポワソンキャビアのメニューは4種類。カレーや丼ぶり、ラーメンなどのセットに湯浅さんが培ってきたフレンチの技法がふんだんに盛り込まれていて、身やスープなど、さまざまな形でチョウザメが味わえます。「まずは食べて知ってほしい」という思いから、価格は抑えめで設定したということです。

ポワソンキャビアかば焼き(税込1250円) チョウザメの身は臭みが少なく食べやすい

 またデザートも販売されていて、こちらはニシムラファミリーから取り寄せたスイーツに、奈義町のフルーツを使って美希さんがアレンジを加えた、オリジナル商品です。

デザートは持ち帰りも可(税込400円から650円ほど)

 新型コロナ禍で「病」への恐怖を世界が感じるなか、「食事で免疫力を高めていく」という考え方は、今後ますます“新しい食事のあり方”として注目されるようになってくると、湯浅さんは展望します。そして、その考えに共鳴できる2人だったからこそ店を任せられたと話します。

「『食べながら生活して自分の体を維持していく』これがフランス料理なんですよ。食べて、飲む薬を減らしていこうという考え方ですよね。それをこれからの岡山のブランドにしていきたいんです」

湯浅さんサポートのもと、まずは店を軌道に乗せるのが目標

 食事もデザートも全てが「食べて健康」を意識している、ジャルダン奈義のメニュー。4月1日のグランドオープン以降は、クロックムッシュなどフランスの家庭料理も提供するということです。