岡山県を代表するブランド牛「千屋牛」の生産法人に就農した黒田建太朗さん(30)は、JAが担い手として期待を寄せる若手の牛飼いです。和牛の親子放牧を通じて地域の活性化に貢献する、会社の方針を基に、新見市内で牧場を切り盛りしています。3年間で繁殖牛を80頭に倍増させるなど、子牛の安定生産に着実に実績を積みます。

 高校で和牛に初めて触れ、「経済動物として収益を上げるためには十人十色のやり方があり奥が深い」と興味を抱きました。県農業大学校に進み、畜産を専攻。牛を飼う仕事に就きたいと考えましたが、個人での単独就農は膨大な初期投資が課題となりました。収入面で一抹の不安もあり、会社に就職して牛飼いに携わる手段を選びました。

牧場の整備から携わり、耕作放棄地を活用した繁殖牛と子牛の周年放牧スタイルに取り組む

 市内の牧場で3年間、種付けや削蹄(さくてい)、人工授精、分娩などの経験を積み重ねました。その知識と技術を生かし、異業種から参入した株式会社いろりカンパニーの「くまのファーム」の開設に汗を流しました。耕作放棄地を活用した繁殖牛と子牛の周年放牧スタイルは前人未踏の挑戦でした。

冬場の粗飼料を確保するためケールの栽培を試す

 牛舎飼育に比べて作業労力を減らせる一方、子牛の運動量が多いために栄養不足となり発育が遅れました。当初は経験の未熟さから手なずけたり、発情期を見つけたりするのもままならなく、「とにかく人の目でよく観察すること」を心がけました。牧場内での早期離乳の確立や冬場の自給飼料の確保のため、ケール栽培なども試行。今年度は子牛の出荷40頭以上を見込むなど、目標とする年1産に近づきつつあり、肥育素牛(もとうし)に求められる胃袋の仕上がりも良好です。

焼肉で味わう千屋牛は、牛肉本来の濃厚な旨味が口の中に広がる(あしん広場「焼肉 千屋牛」)

 経済動物を管理する責任の重さに気が抜けない毎日です。それでも黒田さんは「自分で考えて試したことが受胎率や発育となって見えた時はうれしい。1年1年を勉強と思って技術の確立を進め、集落単位で親子放牧を普及したい」と展望します。

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