香川県でヴィーガンキャラメルを開発

 近年、動物愛護や健康の観点から、肉や魚を食べないベジタリアンへの関心が世界的に高まっています。

さらに、ベジタリアンの中でも、乳製品や卵も食べない完全菜食の「ヴィーガン」は、乳製品・卵アレルギー対応の面からも注目されています。

 

7種類のヴィーガン生キャラメルを開発

こうした中、ヴィーガン生キャラメルの開発に取り組んでいるのが、香川県三豊市の農家、細川貴司さん(35歳)と未恵さん(35歳)の夫婦。

二人は現在、キャラメルの試作品を開発するとともに、商品販売サイトを立ち上げるための費用調達に向け、クラウドファンディングに取り組んでいます。

なぜヴィーガン?

細川さん夫妻と子どもたち(写真提供:ハラシモベース)

農家が自ら商品開発をすること自体は近年、珍しくありません。しかし、ヴィーガン食品となると、あまり聞かないのではないでしょうか?

細川さんたちがヴィーガン食品を開発した直接のきっかけは、2011年に生まれた長男の晴雅君に乳製品アレルギーがあったことです。

晴雅君は、生まれつきの重度のアレルギーで、旅行先の料理に含まれていた乳成分で、救急車で運ばれるといったこともあり、貴司さん・未恵さんともに心を痛めていました。

もっとも、こうした晴雅君の事情に加え、細川さん夫婦が今回のヴィーガン食品開発に行き着いたのは、これまでのさまざまな取り組みの中で得た気付きもあったということです。

「お金じゃなく面白いことを!」に至った3年間

果樹園で働く貴司さん(写真提供:ハラシモベース)

夫の貴司さんは、三豊市の麻地区で100年以上続く農家の生まれ。果樹園や畑で働く祖父を見ながら育ちました。

両親が農業を継ぐことに反対したため、大学卒業後は自動車整備士として就職。しかし、母が怪我により畑仕事が難しくなったのをきっかけに「やはり農業をやろう」と決意。30歳で就農します。

その後、キャベツや柿、桃といった果樹の栽培を進めますが、「最初の3年間は、どうすればうまく行くか分からず、毎日が本当にしんどかった」と振り返ります。

未恵さんと一緒に売上目標を立て、昼夜問わず働きましたが「目標を達成できない自分のふがいなさに、ますますイライラが募る。そんな悪循環の日々でした」。

「三豊鶴」で2019年5月に開催されたイベント

ところが、就農から3年が過ぎたある日のこと。貴司さんの胸にふと、こんな想いが浮かびました。

「やりたいはずの農業をやっているのに、お金のことばかり考えてイライラしているのは馬鹿らしい。心から面白いと思えることをやろう!」

憑き物が落ちたように感じた貴司さんは、売上目標を立てるのをやめてしまいます。そして、自分が関心のあることに積極的に参加するようになりました。

その中には、三豊市の仲間たちと一緒に始めたレストラン・宿・イベントスペースの「三豊鶴」や、資源循環型農業で暮らせる農家ハウスをつくる「Farm Field」など、ユニークな取り組みが多くあります。

「本当にやりたいこと」を考え続けて

キャラメル開発中の未恵さん(写真提供:ハラシモベース)
 

貴司さんと並行して、妻の未恵さんも、さまざまな挑戦を続けていました。

フードロス問題に関心のあった未恵さんは、加工用の桃で捨てられてしまう部分を生かし、2016年に桃シャーベットを開発。

これは評判になり、多くの注文が入ります。ところが、製造時の負担があまりに大きく、事業として続けることができませんでした。

その後、ドレッシングや甘酒の開発にもチャレンジしますが、今度は既製品との差別化が十分に図れず、やはり挫折します。

そんな中、「自分が本当にやりたいはなんだろう」と考え続けた未恵さん。

キャラメルを試食する子どもたち(写真提供:ハラシモベース)

「これらの商品を開発する中で、自分の根底にあるのは、『アレルギーのあるわが子が安心して食べられるものを作りたい』という想いだったと気付きました」

日本の食品の多くには、乳成分や卵が目に見えない形で使われています。近年ではアレルギー対応食品も増えてきていますが、その数はまだ多くはありません。

そんな中、シャーベットや甘酒、ドレッシングは「ヴィーガン」「アレルギー対応」などを特別に意識はしなかったものの、どれも乳製品を使わないよう工夫したものでした。

それと同時に、ドレッシングや甘酒の失敗を経て、商品開発には「誰を喜ばせるか」をしっかりイメージすることが大切だと学んだ未恵さん。

「アレルギーで苦しんでいるのは、自分の子どもだけではない。だったら、他のアレルギーの人たちにも喜んでもらえる食品を作ったらいいんじゃないか」

そのような未恵さんと、「心から面白いと思うことをやろう」と思う貴司さんの想いが重なり合う中で、今回のヴィーガン生キャラメルの開発が始まりました。

アレルギー対応ブランド「CHOU」立ち上げへ

「GREENMONDAY」のメンバーと(写真提供:ハラシモベース)

キャラメル開発に当たり、細川さんたちは、「三豊鶴」事業を通じて知り合ったヴィーガン料理人グループ「GREENMONDAY」にレシピ作りの協力を依頼。

さらに、他の若手農家たちとも連携し、プレーン味のほか、キャベツ、サツマイモ、金時ニンジン、みかん(小原紅早生)、キウイ、柿の全7種類を作りました。

こうして開発されたヴィーガン生キャラメルは、筆者も食べてみましたが、牛乳を使っていないとは思えないほどのクリーミーで、かつさっぱりした味わいです。

「三豊鶴」で2021年2月に行われたイベントで先行販売(写真提供:ハラシモベース)

もっとも、ヴィーガン生キャラメルは、二人にとってはあくまでスタート地点。

「アレルギーは乳製品だけではありません。今回のキャラメルには豆乳を使っていますが、大豆アレルギーの人もいます」

二人は今後、さまざまなアレルギーに対応した加工食品ブランド「CHOU(シュー)」を立ち上げ、キャラメル以外の商品開発にも取り組んでいく意向です。

クラウドファンディングは「CAMPFIRE」で3月17日まで実施中です。

また、3月6~14日には、東京・有楽町のマルイ8階で、フードロス削減の取り組みの展示イベント「CAMPFIREポップアップイベント」にも参加し、キャラメルを展示予定ということです。

いち早くヴィーガン生キャラメルを試してみたい、実物を見てみたい方は、クラウドファンディングで支援したり、イベントに足を運んでみたりしてはいかがでしょうか。

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