「日本のウユニ湖」として、すっかり全国区の人気スポットとなった父母ヶ浜(ちちぶがはま)のある香川県三豊市。活気づく街では、次々と魅力的なゲストハウスが誕生しています。オーナーたちは皆、地元愛にあふれた人ばかり。彼らが語る宿への思いやこだわりを、数回にわたってお届けします。第3回は、仲間たちと共に地域の価値の“醸造”に取り組む、喜田貴伸(きたたかのぶ)さんです。

ゲストハウス運営の中で見えてきた、地域との関わりの大切さ

「さあ、新しい自分を醸そう!」

こんなユニークなコンセプトを掲げるのが、元酒蔵を改修した一棟貸しゲストハウス「三豊鶴Toji」。宿のホームページを見ると、施設の楽しみ方の粋な見立てに、思わず笑みがこぼれます。

酒造りのプロセスを疑似体験する形で、まず「精米」は服を脱ぐ。「洗米」ではシャワーで身体を洗い、「醪(もろみ)造り」で湯に浸かり、「貯蔵」ではぐっすり眠って自分自身を熟成させるといった具合。 

浴槽にはかつて大量の酒米を炊いていた釜を使うなど、実際の酒造りで使われていた道具が随所に活用されているので、まさに自分が醸造される感覚で楽しめそう。4人の仲間たちとこの宿を立ち上げたのが、地元で建材業を営む喜田さんです。

お湯に入浴剤を入れるのは「麹造り」、櫂棒(かいぼう)を使ってかき混ぜるのは「酒母造り」の見立て (写真提供:喜田建材)

自らの会社でも、ショールームの意味合いを兼ねたゲストハウスを何棟も運営する喜田さんですが、展開が広がるにつれて徐々に気持ちが変化してきたのだといいます。

「地域の人たちとの関わりの大切さを、改めて実感したんです。宿をつくるだけでなく、地元のいいところを多くの人に伝えたいという気持ちが強くなっていきました」

もともとのショールームという発想も、地元の優れた工務店とお客様をつなぐ、家づくりの仲人役になりたかったからという喜田さん。その豊かなサービス精神が、地域を盛り上げたいという思いに向けられた時に、大きな力となったのが仲間たちの存在でした。

「父母ヶ浜などで三豊が活気づいてきて、外部からも個性的なプレイヤーたちが入ってきたことで、色々な人たちがつながっていったんです。“飲みニュケーション”が盛んになって、地域のためにやりたいことを皆であれこれ話すようになりました」

時代に取り残された空き家を、新たな時代をつくる場に!

喜田さんと三豊鶴との出会いは2019年。仲間のひとりから、喜田さんの出身地でもある三豊市詫間町にある地域最後の酒造が「空き家になって随分経ち、近所からは取り壊したほうがいいという声もある」という相談を受けて見学に行き、ひと目惚れしてしまったそう。

「歴史ある重厚感たっぷりの建物が、めちゃくちゃカッコよくて。地元なのに今まで知らなかった町の宝をなくしたくない、何とか再生したいと思いました」

賛同する仲間たちと5人で合同会社を立ち上げ、夜な夜な議論を闘わせながら活用方法を考えたという喜田さん。まずは施設内の3つの蔵のひとつをレストラン棟にリノベーションし、イベントレストランとしてスタート。国内外で活躍する一流シェフたちが地元素材を料理する「地域食文化継承レストラン」など企画を精力的に開催し、評判を呼びました。

レストランとして蘇った酒蔵。賑わいを取り戻した蔵に、地元の人たちはすごく喜んでくれたそう (写真提供:喜田建材)

さらに、別の蔵をアート棟としてギャラリーや伝統工芸教室にするなど、活用の輪が少しずつ広がっていきました。プロジェクトが始まってからは、毎日のように地元の人たちが見に来てくれたのが何より嬉しかったと喜田さんはいいます。

「たぶん、僕たちが必死に取り組んでいる姿を見て、応援団になってくれたんだと思います」

三豊市の伝統工芸である「張子虎」の絵付け体験のイベントも好評でした(写真提供:喜田建材)

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