笠岡市街地の港から船に乗って約45分で到着する白石島。
島の港から歩いて約2分、民家が立ち並ぶ通りに、2020年7月、「菜食茶店 KUa(クア)」がプレオープンしました。

建物の外観

なまこ壁の古民家に入ると、カウンター席と2~4人掛けのテーブル席が4つ。吹き抜けからはあえて残したという屋根裏の竹簾を見ることができます。
店内には片付け中に見つかったという調度が並んでいます。

古民家から見つかった糸車が飾られている。白石島では以前、養蚕業が盛んだった。

レジの横には大豆からあげ、アーモンドミルクなどのヴィーガン食材が。ヴィーガンとは、肉・魚・卵・乳製品などの動物性食品を食生活に取り入れないスタイルのこと。

店では、白石島で採れた桑の実ジュースや、カフェインレスコーヒー、有機玄米コーヒーのアーモンドミルクラテ、日替わりヴィーガンランチなどを提供しています。食材は瀬戸内エリアで生産されたものを積極的に取り入れ、時には店主の畑で栽培した自家製野菜も使います。

日替わりヴィーガンランチ。この日はココナッツとトマトをベースにしたマイルドなカレー。

店主・ムヤ歩さんってどんな人?

店主は笠岡市地域おこし協力隊のムヤ歩(あゆみ)さんです。

ムヤさんは、大阪出身の元シンガー。2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故をきっかけに健康と環境について考える中で、ヴィーガンに関心を持つようになりました。

「できるだけ資源を使わない必要最小限の暮らしを体験したい」と、アフリカのタンザニアとルワンダへ旅した経験もあります。

店主 ムヤ歩さん

帰国後、タンザニアで出会った夫と結婚し、娘を出産。大阪で暮らしていましたが、就農の夢を抱き2017年4月、笠岡市地域おこし協力隊に着任しました。

2018年には住居を笠岡市街地から白石島へと移し、夫と1歳・5歳の2人の娘とともに畑を耕しながら暮らしています。

タンザニアの沿岸部で魚やココナッツをとって暮らしていたことがある夫も、自然のそばでの暮らしを満喫しながら、島にある宿泊施設のひとつ、白石島国際交流ヴィラの管理をしています。

「常日頃からおもてなしをしたいよね」始まりは地域の要望から

ムヤさんが地域おこし協力隊になり、白石島のまちづくり会議に参加し始めた当初から「島にカフェがあったらいいね」という声がよく出ていたと言います。

地域で不定期オープンのカフェを始めるなどチャレンジが進む中で、「島外から来た人たちのおもてなしとして、常日頃から営業しているカフェがあれば」という声もありました。

そこで、飲食店での勤務経験があり、料理が好きで食に関心があったムヤさんがカフェ営業に挑戦。観光客が滞在中に地域資源を活用した食事や体験が提供できる仕組みを作り上げようと、農林水産省の「農泊推進事業」を活用しながら進めてきました。

ムヤさんの畑。山からの水を受けるために虹のような畝(うね)をつくっている。 ハクサイ、ダイコン、キャベツ、ニンジン、タマネギ、シュンギクなどを育てている。

その中でムヤさんが特に意欲的なのは、島の閑散期と言われている秋冬の活動です。

白石島には岡山県の三大海水浴場があり、夏は海水浴を楽しむ観光客でにぎわいます。

夏以外にも瀬戸内海を眺めるトレッキングコースなど観光資源は充実しています。ムヤさんは「涼しくなった今だからこそアウトドア体験を楽しんでほしい」と、2020年11月28日(土)には「紅葉と巨石めぐりの島旅」を開催します。

「紅葉と巨石めぐりの島旅」チラシ

白石島の希望をみんなで育てる

ムヤさんは「この場がなければ生まれていなかったはずの交流を見るととても嬉しいんです」と教えてくれました。
プレオープン後、同世代の移住希望者が店を訪ね、2組の移住が決まったのだとか。

「ほかの生き物を犠牲にせず、自分も含めた環境を丸ごと大切にするという考え方がヴィーガンにはあります。ここもいろんな立場・考え方の人にとって優しい場所であり続けたい」とムヤさんは話します。

店名になっている「KUa(クア)」はスワヒリ語で「育つ・育てる」という意味です。「これまで地域の人に育てていただき、今の自分がいる。この場所も、これから皆さんに育ててもらいながら可能性を広げていきたい」というムヤさんの思いが込められています。

店内の様子

「菜食茶店 KUa」は現在プレオープン中で、フルオープンはムヤさんが地域おこし協力隊を卒業する2021年夏ごろを予定しています。

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