不登校の息子のために週に5、6回自宅で”ウチ給食”を作っている田中(仮名)さん。
田中さんは父(とーと)【不登校息子に送る給食レシピ】(@toto_kyushoku)という名前で給食作りについてや不登校児のリアルについてをInstagramで発信している。

田中さんの息子であるユウキくん(仮名)が不登校になったのは小学1年生の頃。ユウキくんは言語理解が同じ年代の子と比べて高いギフテッドだ。

平均より高い知的能力を持ち、優れた才能を持つ人のことを指すギフテッド。その才能ゆえの悩みを抱えることもある。

ウチ給食についてや、不登校になった際の田中さん夫婦の考えについて田中さんとユウキくんに話を聞いた。

小学1年生で不登校に

ユウキくんは小学校入学後、すぐに行き渋りが始まった。家でもだんだんと元気がなくなっていく様子に両親は心配していた。
夜になると行きたくないと泣くこともあり、ストレスからチックのような症状も出てきてしまった。

最初は頑張って通い、楽しそうに帰ってくる様子を見ると「行けば楽しいのかな」と思いつつも、次の日には行くのが嫌になっているユウキくん。

ユウキくんは当時について「朝起きたときは行けると思うけど、玄関に立って『いざ行く』となると怖いと思ってしまう。教室に入ったらまだ大丈夫、1時間目の授業が始まって5分ほどしたら大丈夫。でも、それでも最初がこわい。学校に行って楽しくても明日は違うかもと思ってしまう」と話す。

ユウキくんの姿を見て、田中さん夫婦は無理して学校に行かなくてもいいという決断をした。5月の頃だった。

「もしかしたら今後気が合う友達ができて、学校に行くのが楽しいと感じることもあるかもしれないと思います。けど、こんだけ毎朝行きたくないと言って、頑張っていこうとしているところを見て、最後のSOSを受け止める立場として『行け!』というのは違うと思ったんです」

田中さん夫婦は”いつか学校にいけるために不登校になっていいよ”のスタンスではなく、”行けなくてもいいから休憩したら?”という意味を込めて学校に行かない決断を下した。

「多くの方が”いつか学校に行けるといいね”という考えを持っていると思います。本人がそう思っているのであればいいですが、心のどこかで我々親がそういう考えを持っていると、本人が『みんな学校に行けているのに自分だけ行けない』という負の考えになってしまうと思うんです。だからそうではないスタンスでいようと思っています。(中略)
息子は幼稚園に通っているときから楽しくなさそうだったんです。幼稚園から数えるともうすでに3年頑張っています。息子はその頃から頑張るタイプだったので、パンクしてしまったのかなって」

不登校になり、息子のギフテッドが判明

不登校になり、色んな可能性があるのかもしれないという思いからユウキくんを小児精神科に連れて行った田中さん夫婦。
先生に不登校の経緯を伝えるとIQのテストを勧められた。その結果、IQが146もあり、ユウキくんが小学1年生にしては言語理解が高い”ギフテッド”であることが判明した。

「ユウキはYouTubeの鉄道系、イスラエルやウクライナの戦争といった政治系などの大人向けの動画でも理解することができるんです。興味がある内容だと3~6時間みています。私もそうですが、周りからも『小1なのになんでそんなこと知ってるの?』と言われるくらいには内容を理解しています」

知った情報を周りに話したい性格のユウキくん。しかし、言語理解の数値が突出しているものの情報処理が追いつかず、まだ端的に話せないという。
話も長くなってしまい、尚且つ同い年の子とは会話が合わない。周りと馴染めなくなってしまったのはギフテッドであるからだとそのとき気づいた。

「同級生と話すより大人と話したほうが楽しいんです。息子のギフテッドがわかり、救われた思いもあります」

精神科の先生からは年齢とともに情報処理ができるようになってくると言われている。現在は自分が好きなことを一方的に話してしまうユウキくんだが、成長するにつれ、同級生とも会話の内容を合わせて接することが今後できるだろうとのこと。

親としてできることは何か 辿り着いたのが“給食”だった

不登校が始まり、たくさん悩みつつも学校がすべてではないと前を向いていた田中さん。しかし学校でしか体験できないことがあることも事実。父親として何かやってあげたいという葛藤の中で辿り着いたのが給食だった。
田中さんは給食作りをするため、在宅勤務ができる企業に転職した。

「例えば運動会など、学校でしか味わえないものはなにかと考えたときに、自分ができることとして給食にたどり着きました。学生時代に飲食店でアルバイトをしていたことや、自炊などで料理をずっとしていたのもあり、まずできるところから始めました」

給食の献立は、現在住んでいる横浜市の献立やSNSのフォロワーからのアドバイス、週に1回のルーレットで決めている。食材の使いまわしをしつつ栄養バランスにはもちろん気を遣い、赤、黄、緑の食材を取り入れることを意識している。

給食についてSNSで発信することで、現役で学校給食を作っている方がフォローをしてくれた。現在はDMやコメントなどで献立のアドバイスをしてくれることもあるという。図らずも、田中さんの発信がギフテッドという特性を広げることにも繋がっている。

ご当地ルーレットで献立を決めることも(@toto_kyushokuさんより提供)

また、週に1回ユウキくんが好きなものや、ご当地の料理をルーレットで決めて作っている。

「給食って楽しいものだと思うので、お楽しみ要素を入れています」
給食の献立は、様々な工夫を凝らし日々作られている。

ユウキくんに給食について聞くと「100点!いや…2000、1万点!」と答えてくれた。

ウチ給食を作る工程や、息子の不登校についてなどInstagramで紹介している(@toto_kyushokuさんより提供)

給食作りを始めてから何か変化はあったのだろうか。
田中さん曰く、家族のコミュニケーションが増えたという。

「今までは仕事が多くてあんまりコミュニケーションを取れていなかったのですが、在宅にして食卓を囲むことで色んな話をするようになりました。献立ルーレットのようにお楽しみ要素があることで、自分の好きなものの話やご当地の料理についてなど、それだけでも会話が広がります」

家では息子の「やりたい」を尊重

現在もユウキくんに合った教育環境を探している途中だと語る田中さんに、ユウキくんの現在の過ごし方について聞いた。

午前中は近くの公民館で学校でもらった宿題をして、昼食後に公園へ行ったりYouTubeやゲームをしたりしているという。家での学習以外ではフリースクールに通っている。

また、習い事を週4で通っており、YouTubeの動画制作、体操教室、レゴ教室、お絵かき教室をしている。自己表現することが好きなユウキくんが興味のあるものをしているという。

将来YouTuberになるのが夢というユウキくん。動画制作についてはツールを使いすでに制作ができるという。

「特性というか本当に好きなんだと思います。すごい集中して取り組んでいるので。今は『こういうのを作りたい!』っていうのを言ってくれます」

学校に通わなくなったことで、現在ユウキくんはのびのびと過ごせているという。

「もともとおしゃべりな性格だったんですが、不登校で辛いときは無表情でずっとYouTubeみていたんです。今は本来ののびのびとした姿が見れるので、安心しているのかなと思います」

まずは両親が前向きに

ウチ給食を作る工程や、息子の不登校についてなどInstagramで紹介している(@toto_kyushokuさんより提供)

今後、ユウキくんをどのようにサポートしていくのか田中さんに聞いた。

「まずは私たち両親が前向きにいないとなって思ってます。学校に行かないことへのデメリットはあると思いますが、好きなことや自分の個性を生かしてお金が稼げたらそれでいいじゃん!と思っています。私自身、そこそこの大学に行って、そこそこの企業入ってっていう人生を歩んでいたので、息子のような破天荒な人生は楽しそうだなと羨ましくも思います。『あなたの人生楽しいと思うよ』と息子を尊重してやりたいことをやらせてあげたいです」

田中さんのInstagramには、同じように不登校の子どもや不登校に悩む親から相談がくる。
「学校以外にも居場所があるんだよ」というのを、田中さんの発信から伝えたいと話してくれた。

※この記事は、ほ・とせなNEWSとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

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