高知県高知市にある土佐塾中学・高等学校で勤務する野崎浩平先生は、「会いに行けるセンセイ」という個人事業と、一般社団法人ハンズオンの代表という3つの顔を持つ。神奈川県出身だが、妻の実家である高知に移住し、教育をテーマに多彩な活動をされている野崎さんのこれまでの歩みやその活動について伺った。

高校生の頃、神戸児童連続殺傷事件に衝撃を受けた野崎さん。教育について関心を持つようになり、学校ではかっこいい大人、楽しく働いている大人が見えてこないと気づいたという。東京学芸大学卒業後、母校での非常勤講師を経て教育関連事業を展開する大手企業に入社した。

「理想的な職場でした。6年ほど在籍しましたが、私は新規事業である実験教室の立ち上げ、展開に携わりました。でも、そんな時に東日本大震災がありました。電車が停まっているのに必死で会社に行こうとする会社員たちを見て、この人たちは自分の頭で考えているかな、こんな大人にするために教育をやっているのかな、と思ってしまいました。」

退職した野崎さんは、まず環境を変えようと妻の実家がある高知へひとまず移住することにした。民間企業の事務の仕事を見つけ、働き始めた。その後、私立の中高一貫校での勤務や、小学校の立ち上げなどを行った。

2019年より土佐塾中学・高等学校へ。創造活動・探究活動に特化し、個別最適化された学習環境の提供を目指した「まなび創造コース」の立ち上げから関わった。そんなタイミングに、野崎さんが新たに始めたのが、「会いに行けるセンセイ」だ。

「転職してすぐコロナで、世の中みんな困っていました。もともと土佐塾には1人1台タブレット環境があったので、コロナ禍でも普通に授業をしていたんです。それもあって、相談したいという問い合わせが多く、2020年の夏休み前くらいに、その要望に応える形で始めました。」

毎日空いている時間をオンラインで公開し、希望時間や相談内容などを入力して相談を予約できるようにした。教員、保護者、企業など、様々な人から絶えず相談を受け、辞めるに辞めれなくなっていまに至るとのこと。

講演をする野崎さん

「やっている中でわかったことは、保護者には相談相手がいないということです。どうも学校とか塾の先生にはいい顔をしたいみたいで、聞きたくても聞けないことがあるんです。だから、正解かどうかわからないけど、先生が言っているのでとりあえず信じている。私は医者のように、学校の先生にもセカンドオピニオンが必要なんだと考えています。」

「また、勉強の相談と子育ての相談が混在していることがよくあります。先生は勉強の相談には答えられるけど、子育ての相談には答えられないことが多いです。うちの子どうやったら勉強しますか、というのは勉強の相談ですが、うちの子とうまく話せません、どうしたらいいですか、というのは子育ての相談ですよね。みなさん両方とも先生に相談してしまいがちです。そこを整理してあげられるだけでも大きいと思います。親業のサポートという感じですね。」

2022年3月には一般社団法人ハンズオンを設立した野崎さん。中高生たちが学べる場づくりに取り組んでいる。

「Kochi Startup Baseというコワーキングスペースの運営を主に行っています。この場所を拠点に、中高生たちが大人も含めた多様な人々と交わり、アントレプレナーシップを身につけてほしいと考えています。でも、起業させたいわけではありません。アントレプレナーシップって、すぐ起業と結びつけられがちですが本来そういうものではないと思います。学校や地域など、もっと身近な取り組みでもよくて、それらを主体的に行う、そういうことだと思います。」

Kochi Startup BASEの様子

中高生は無料で使うことができ、大人が払う利用料で運営するというスキームだ。大人たちの恩送りを見える化したいという意図もあるという。オープンしてまだ日が浅いが、学生による講座や企業によるワークショップ、大学の説明会など様々なイベントも行われている。レポートや課題をするために気軽に利用する中高生たちもいる。

「高知は、人との距離が近く、人とのつながりでいろんなことができる。すごく素敵なことだと思います。でも、そのつながりができるのは、アルコールを介在した場であることが多く、中高生が入れなかった。そこで、ノンアルコールで中高生と様々な人々が繋がれる場を作りたいと思います。また、その旗振り役を教員が務めることで、教員の役割の再定義をしたいと思います。中高生を大学生や企業などとつなぐ役割を教員は担うことができると考えています。」

ワークショップを開催する野崎さん

現在、運営メンバーの持ち出しで運営している状況であるKochi Startup Base。現在コワーキングスペースの入居者募集や、クラウドファンディングを行なっており、なんとか持続可能な運営を模索している。まだまだ道のりは険しいが、野崎さんが仕掛けるこの場所が、新たな高知の起爆剤となるのではないかと期待したい。

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