聴覚障害があるつばささんは、そこから手話を広めるべく、動画投稿アプリ「TikTok」で多数の動画を投稿中。自身の日常や聴覚障害に関するエピソードを発信し、ろう者が生きやすい社会になるよう尽力している。

聴覚障害に気づき、教師の言葉に傷ついた学生時代

正常な聴力は0dB近辺であり、この値が大きくなるほど難聴の程度は強くなると言われている。つばささんの場合は、両耳とも120dB。生まれつき、音がほぼ聞こえない。

音は補聴器をつけると聞こえるが、どんな音なのかをすぐに判断することは難しく、周囲の人が話していることを理解するのも困難。だが、相手の様子を見たり「口読み取り」をしたりすれば、話の内容が分かることもあるという。

つばささんのTwitter(@basatu10)より引用

自分が聴覚障害を持っていると気づいたのは、小学生の頃。ろう学校に通っていたつばささんは、初めて他の学校と交流した際、言葉を伝えたい時に、他の人は口が動いていることに衝撃を受けた。

「私は手が動く。違うなと感じた。違っていて恥ずかしいので、健聴のみんなと関わりたくありませんでした」

高校生の頃には、夢を踏みにじるような教師の心ない言葉に傷ついたこともある。

「サッカー選手か俳優になりたいって言ったら、教師から『耳が聞こえないから、厳しいし無理だ』と言われたんです」

高校生の頃

自分は普通の人とは違う。そんな苦しみを抱え、夢を見ることすら奪われたつばささんは人見知りで、コミュニケーションが苦手な性格に。自分は障害者だから健聴者には勝てないと、自暴自棄になってしまった。

単調な日々を変えたくて始めた「TikTok」が人生を変えた

その後、工場へ就職。だが、仕事へ行き、家に帰って寝るだけの日々を繰り返すうちに、このままでは人生がもったいない、やりがいがないと感じた。

そこで思いついたのが、TikTokで自身の障害に関することや手話を配信すること。最初の動画は軽い気持ちであげたが、予想以上に反響があり、嬉しくなった。

「自分を伝えること」の面白さを知ったつばささんはYouTubeでも手話や自身の日常を配信。聴覚障害への理解や手話という言葉を広めるため、本格的に活動しはじめた。

動画を配信するようになり、単調だった日常は一変。ろう者が集まって結成されたTikTok劇団「空の旅団」のメンバーとして、かつて夢見ていた俳優業もこなすようになった。

「根本にあるのは、手話をもっと広めたいという気持ち。私より手話を広めている人は、ライバル。いいライバルがいるからこそ、もっと頑張って手話を広めるんだという気持ちが湧いてくるんです」

TikTok劇団「空の旅団」舞台公演の様子

近頃は聴覚障害をテーマにした恋愛ドラマ「silent」が話題になり、手話に興味を持つ人が増えた。そうした社会の変化も、つばささんは嬉しく感じている。

「ドラマは手話が丁寧で、ろう者のあるあるシーンもたくさんあってよかった。ドラマによって、聴覚障害や難聴者のことを理解してくれる人は確実に増えたと感じます」

有名になりたいのではなく、自分自身や同じろう者のために手話を広め、ろう者が生きやすくなるよう、活動を続けていきたい。そう意欲を燃やすのは、自身が健聴者とろう者の間にある壁を感じることが多々あるからだ。

プライベートも思いっきり漫喫

「以前、健聴の人から話しかけられたので耳が聞こえないことを伝えたら、『あ、大丈夫です。何でもないです』と去られてしまいました。耳が聞こえないから話すのが面倒くさいのかなと、すごく苦しかった。筆談とかでも会話できたら嬉しいです」

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