映画やドラマのロケ地になることが多い岡山県は、いまや「人材の宝庫」としても注目を集めている。お笑いコンビの千鳥、YouTube配信からメジャーデビューした藤井風、プロゴルファーの渋野日向子、プロ野球・オリックスのエース山本由伸などなど、ここのところ岡山県人の活躍は目覚ましい。そんなすごい人を数多く輩出する岡山の県民性と人をテーマに掘り下げた書籍が、9月に発売された。

発売されたのは、『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!(以下、岡山はすごいんじゃ!)』(マイクロマガジン社刊)。岡山県出身の著者・昼間たかしさんが、その地道な取材と資料収集による膨大な情報をもとに、なぜ岡山県からすごい人物が数多く生まれるのか、その謎に迫る。

岡山県の気質を5つに分類し、そこに含まれる人々についてさまざまなエピソードや、くすりと笑える情報とともに紐といていく。岡山県人は「あるある」とうなずきながら、他県出身者は「なるほど、そうなのか!」と膝を叩きながら読むことになる興味深い1冊だ。

「知識欲」がすごい岡山県人

自身も岡山県出身の著者・昼間たかしさん、編集担当の岡野信彦さんに企画の趣旨や執筆のエピソード、岡山の魅力などを聞いた。

著者の昼間たかしさん

―そもそもこの企画が生まれたきっかけは?

岡野(敬称略):岡山県は中国地方の県ですが、地方と地方の狭間にあって、独特な地域性を持っている県の一つ。関西、四国、中国、九州などの影響を受けているせいか、多様性がある面白い地域です。最近は特に社会全般で活躍する人が多く、しかも中途半端な出世ではなく、トップランナーとして確固たる地位を築いている人が出てきています。でもなぜ岡山にそんなに集中するんだろうと。そこで地域性を含めて掘り下げたらおもしろいのではないかと思いました。

弊社の別シリーズである『地域批評シリーズ』は一つの県や政令指定都市などをテーマに本質や歴史、県民性、社会問題から探っていくもので、そこでも岡山県は何度も取り上げ、好評を博していました。今回の『岡山はすごいんじゃ!』では岡山県民でも知らないようなことをまとめたらおもしろいのではと思い、岡山県のすごさを伝えたいと考えました。

地域批評シリーズ24『これでいいのか岡山県』(提供:マイクロマガジン社)

昼間(敬称略):さらに、メジャーな人以外の異才鬼才にもスポットを当て、そういう人も含めてより掘り下げていけば、岡山らしさが出てくるのではと思いました。

―単刀直入に、岡山はどんな県民性でしょう。

昼間:「知識欲」がすごい。その気質の特徴が最も現れているのは、岡山文教出版が発行している岡山文庫シリーズです。これは1964年創刊の『岡山の植物』に始まり、『岡山の○○』というテーマでそのジャンルが得意な著者が丸々1冊まとめるもので、これまでに300巻を超えています。その中に『岡山の中学校運動場』というのがあり、岡山県下の中学校運動場がいつできたか、広さはどれくらいかといったデータがすべて載っている。この目的は何なんだろうか、もはや意味がわかりません。とりあえず全部知っておかないと我慢できないみたいなところがあるのは岡山県人の特性です。なおかつ、自分が一番知っていなければいけない。

岡野:岡山県出身の昼間さんはまさしくそんな気質です。正直、すごいなと思いました。

本の執筆秘話

―どのように資料収集をしたのですか。

昼間:僕自身岡山は生まれ故郷ですから知っていることも多いのですが、正確を期すために資料を大量に集め、足りないものは雑誌から探します。雑誌記事は歯に衣着せぬことが書いてあるので資料としては重要で、それを丁寧に拾っていくのが大事な作業なんです。
現地に行かなければ聞くことができない話や見つからない資料も積極的に探します。特に図書館はそこにしかないものもある。そんな地道な作業の積み重ねが執筆のベースになっています。

岡野:ネットで調べればなんでもわかる時代に、昼間さんの情報はネットで検索しても出てこない情報ばかり。それでこれだけの本ができるというのがすごいですし、そこが強みでもあります。徹底した資料収集と取材に裏打ちされているだけに、「かもしれない」口調ではなく断定口調で書いているため内容に説得力もあります。

『おもしろ県民論 岡山県はすごいんじゃ!』より 千鳥について述べているページ(提供:マイクロマガジン社)

―苦労したのはどんな点ですか。

昼間:まず、持ち上げるだけの本にはしないということです。岡山県人は悪口を言われるのが好きなので、すごいと言いながら皮肉めいた話も盛り込んでいます。

「先進性」「突破力」「あきらめない」「知識欲」「立ち回りが上手」の5本の柱に合わせて書いていくのですが、この気質はともすればマイナスイメージにもなります。でも、今回はできるだけネガティブなことは書かないよう試みました。そこが結構難しかったですね。5つに分けてはいるものの、岡山県人はみんなこの気質を持っているので、どの特徴が際立っているかで判断し、途中で入れ替えもしながら分類していきました。

楽しいエピソードを拾うことも案外大変でした。昔は雑誌などのメディアにも人はおおらかで、取材でもざっくばらんに話してくれました。最近はプライバシーの問題もあり、なかなか欲しい資料が見つかりません。今回の執筆にあたり情報源はほぼ資料でしたから、それらをじっくり読み込み、「これだ」と思うものを見つけるのに時間がかかりました。

偉大な変人たちのおかげでできた

岡山のすべてに造詣の深い昼間さん

―書き終えて今、改めて岡山県人に対して思うことは。

昼間:とにかく岡山県人の「知識欲」はすごいということです。自分が知っていることを必死で書き残そうとする点は、全国47都道府県でも岡山がピカイチです。先にお話した岡山文庫シリーズでは、自分しか知らなものを見つけ出すことに価値を見出しているし、しかも本になるくらい知っている。昔の人はすごいです。こんな気質だから変わった人や異質な人がたくさん出てくるんでしょう。

もう一つ。参考文献を語る上で忘れてはならない人がいます。昭和初期に生まれた岡長平(おかちょうへい)という郷土史家で、明治大正をメインに江戸時代に至るまで、岡山には昔こんな奇人変人がいたということなど自分が見聞きした情報をすべて記録し、まとめて本にしています。木下サーカス初代の話も明治生まれの創業者本人に聞いたそうです。

岡山文庫にしろ岡長平の書物にしろ、こんな資料は他県にはありません。「この話は世の中に広めなければ」という謎の使命感に駆られて書いてるんです。こうしてちゃんと伝わっている情報があるからこそ『岡山はすごいんじゃ!』はできた。今までの先人の積み重ねの結果を僕が役立たせてもらったのです。

岡野:そういう昼間さんも使命感で書いていますよね(笑)。

『おもしろ県民論 岡山県はすごいんじゃ!』の表紙(提供:マイクロマガジン社)

―読者にメッセージをお願いします。

昼間:岡山県人は本の内容が自分のことだと思って読んだ方がいい。かつ「自分もここに取り上げられるよう頑張ろう」と思ってもらえれば、本としては成功ですね(笑)。また、他県の読者で今自分の状況に悩んでいる人がいるならば、世の中にはこんな調子でやっていても成功する人がたくさんいるということを知って欲しいです。自分にやりたいことがあるならどんどんやればいいし、岡山県人のような気質の人は岡山県に来て何かを成し遂げて欲しいですね。

岡野:成功のヒントは岡山県人にありそうですね。

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