北海道札幌市の手作り弁当専門店「弁太 南16条店」には、容器のふたが閉まらないほど大量のから揚げが入った「MAXから揚げ弁当」という名物弁当があります。作っているのは、以前は割烹で一品料理を作り、カウンターでふるまっていたという遠藤良美(よしみ)さん。「やるからには売り上げを延ばして、新店舗を出したいですね」と目を輝かせます。

元料理人の作る自慢のから揚げ

元々は和食の料理人として、東京や大阪を転々とし、割烹で働いていた遠藤さん。

働く場所を変えつつも、和食一筋で20年続けたのち、弁当や食品を取り扱う会社に入社。食材の仕入れ先のパイプができたのをきっかけに、元々弁当屋だった貸店舗を借り、2012年に「弁太 南16条店」をオープンしました。

「和食の世界にいた時はカウンターに立って、自分の作った料理を美味しそうに喜んで食べてくれるのが一番うれしいことでした。今はお弁当を買ってくれるお客さんの喜ぶ顔が一番です。その思いは変わってないですね」と遠藤さんは話します。

弁太 南16条店と遠藤さん

料理人としての経験を生かし、弁太で提供しているおかずの、およそ7割ほどは店舗で仕込んだ食材で、弁太の看板メニューのから揚げも、特製のタレに漬け込んでいます。

「手間はかかりますが、既製品を調理して出すよりも、仕込みからやったほうが美味しいし安いんです。料理をやってた人が食べると、手間がかかってるということが伝わるんじゃないかなって思ってます」と、味の自信を覗かせます。

MAXから揚げ弁当の誕生は客の一言だった

オープン当初は、普通のから揚げ弁当だけだったという遠藤さん。MAXから揚げ弁当が生まれたのは、客の一言からだったといいます。

「普通サイズでもから揚げの量が多くて、容器のフタが完全には閉まらなかったんです。でも、から揚げは多い方がいいだろうと、数は減らさず提供していました。するとお客さんから『唐揚げが容器からこぼれ落ちる』という言葉をいただいたんです」

この言葉を聞いて遠藤さんは、容器を変えるのではなく、逆転の発想に至りました。

「から揚げ弁当にから揚げを追加するお客さんも多くいたんで、じゃあ唐揚げを増やして上手く組み合わせていけば落ちないだろうって考えたんです」

弁当箱からあふれんばかりのボリューム。1つの弁当で20個以上から揚げがのっている。(筆者調べ)

数を大胆に増やす方向へシフト転換し、MAXから揚げ弁当は誕生しました。

「容器代も1つで済むし、つけあわせも弁当1つ分でいいから、2つ弁当を買うよりは安く提供できる。その方がお客さんも嬉しいんじゃないかなと思いました。メディアでも取り上げられるようになったし、喜びの声もいただいています」と遠藤さんは笑顔で語ります。

安く美味しいものを提供したい

開業当初から値上げには慎重で、あまり値段は上げてこなかった遠藤さんでしたが、2022年に入って数年ぶりに値上げを実施しました。

ですが、現状は厳しいといいます。

「値上げをしたので売り上げ自体は増えましたが、値上げ分では原材料の高騰した額を補えていません。なので利益は下がりました。ウチは家族経営ではなく従業員を雇っていますし、やるからには新店舗も出したい。ただ、それで値上げばかりするのも違う。そこは腕の見せどころですね」

デカ盛りチャーハン&唐揚げ弁当 620円

「おっ、こんなにいっぱい入ってる」と弁当を見た時にでる、客の喜んだ顔が心の支えとなっているという遠藤さん。

取材中、言葉の節々から「作るからには安くて美味しいものを出したい」という、料理人としての意地が感じられました。

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