40代で突如、若年性認知症と診断された下坂厚さん。インスタグラムで日常にある美しい風景写真と詩的な文章を投稿し、タグには毎回「#若年性認知症」と付けられています。このほかにもSNSや講演などで、実名を出して病気を公表し、積極的に発信する下坂さんに話を聞きました。

下坂さん撮影の花畑

働き盛りで、突然の認知症発症

20代の頃、「ちょっとやってみよう」という気持ちで魚屋に就職した下坂さん。しかしできることが増えるにつれて楽しさを感じ、気が付くと20数年もの間勤めていました。

いつかは自分のお店、という思いも生まれていました。ところが急に、ミスが増えるようになります。当初は疲れの影響かな、と思っていたそうです。

「でも、お客様の注文を忘れたり、一緒に働いている人の名前が出てこなくなったりしたときに、これはおかしいなと思って、病院を受診しました」

医師から告げられたのは、若年性認知症。65歳未満の人が発症する認知症のことです。

当時、認知症について「何もできなくなる、何もわからなくなる」というイメージを抱いていたため「人生終わった」と感じたそう。

魚屋も辞め、落ち込む日々が続きました。それでも、同様に認知症を抱えながら、講演会をしている人に出会ったことが転機となります。

「別に隠すこともないし、自分にとってそれが当たり前だよな、と思えました。そこから、自分のなかでちょっとずつ受け入れることができるようになりましたね」

下坂さん夫妻。妻の支えが大きな力になっているという。

デイサービスで勤務し、写真のスキルを活用

下坂さんは現在、認知症の支援チームから紹介されたデイサービスで働いています。

未経験の仕事で、利用者は認知症の人が多く、最初のうちは会話もなかなか続かなかったそう。業務においても、覚えなければならないことばかりで、苦労がありました。

それでも続けるにつれてだんだんと信頼関係ができ、少しずつスムーズに。今では業務に加え、20代前半の頃にフリーカメラマンも務めたスキルを活用し、利用者の写真を撮影する機会も増えています。

散歩しながら、写真を撮る下坂さん。

SNSや講演を通して伝えたいこと

インスタグラムに投稿している、美しい写真と短いながらも思いを真っ直ぐに語った文章は、多くの人の心を捉えています。

「ほとんどは、散歩しながら出会ったもの。いいなと思ったら写真を撮っています。症状からか長い文章を書くのは苦手なので、どうしても短い詩みたいな感じになってしまうんですけれど、逆にそれがいいのかな」

初めの頃は症状のことやつらい気持ちなどを発信していたそう。しかし徐々に、認知症のイメージを変えたいだとか、認知症になっても大丈夫だよだとか、前向きなメッセージに変化していきました。

「認知症になっても終わりじゃないということ。と同時に、どうしても周りの方や家族に迷惑をかけてしまうんじゃないかという思いで、自分が本当にやりたいこととか思いとかを話すこととか、遠慮してしまう方も多くて。だからそんなことないんだよと、もっと発信していきたいなと思います」

下坂さん撮影の風景写真

魚のさばき方を1種類ずつ覚えていったように、時間はかかるかもしれない。それでも認知症に対するイメージを着実に変化させていくために、下坂さんはSNSや講演会などでの活動を続けています。

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