岡山県笠岡市、瀬戸内海に浮かぶ白石島は、周囲約10km、人口400人ほどの小さな島です。島には昔から桑の木が自生しており、その実「マルベリー」の栽培・出荷は島の産業として地域を支えてきました。マルベリーはアントシアニンや、ビタミン・ミネラルを多く含み、栄養価が高いことからスーパーフードといわれています。

しかし、コロナ禍の影響などで出荷量が減少。2021年に収穫された約800kgのマルベリーが行き場を失っていました。このフードロス解決の糸口をつかもうと、2022年8月に行われたのが、定期購入方式でスイーツを配送する株式会社スナックミーの「アップサイクルプロジェクト」との連携です。

白石島のマルベリーとスナックミー社を繋げたのは、笠岡市政策部定住促進センターの片山詩央里さん。今回の取り組みがどう定住促進に繋がりうるのかも含め、話を聞きました。

笠岡市政策部定住促進センター 片山詩央里さん

マルベリーを知ってもらう機会に

片山さんは定住促進センターで、移住希望者の案内や、空き家バンクのマッチング、市のプロモーションといった業務を行っています。なぜ、マルベリーのフードロス削減に取り組むことになったのでしょうか。

定住促進センターでは、国の移住支援制度である地域おこし協力隊の受け入れも行っています。笠岡諸島に移住する地域おこし協力隊も多くいるため、片山さん自身、島の人と話す機会が多く、白石島のマルベリーの収穫を手伝ったこともありました。

笠岡市定住促進センター

無農薬で育つ美味しいマルベリーの魅力も、草刈り・収穫・選別・袋詰めなどマルベリーにかかっている手間と愛情もよく知っています。収穫したマルベリーの販路の一部が途絶えたことを聞き、「なんとかできないか、常に頭の中にあった」と話します。

スナックミー社の「アップサイクルプロジェクト」については人づてに知り、マルベリーを使ってもらえないかと、ダメ元でメールをしたといいます。その結果、マルベリーケーキの商品開発が決まり、スナックミー社からの販売の提案をもらいました。

マルベリーケーキ(提供:株式会社スナックミー)

マルベリーケーキは8月9日から9月2日まで計4回、販売。それぞれ、1日で完売という人気ぶりでした。

片山さんも注文して食べ、「クッキーとケーキの間のようで、マルベリーのプチプチ感も楽しめて美味しかった」と話します。購入者からも「栄養価の高いおやつ、紅茶と美味しくいただきました」、「マルベリーのつぶつぶ食感が楽しい」、「また食べたいです」といった声が寄せられました。

マルベリーケーキ(提供:株式会社スナックミー)

こうして、今回のプロジェクトで、約100kgのマルベリーが出荷されるとともに、地域食材やアップサイクルに関心がある人に向けてアプローチすることができました。

マルベリーのアップサイクルから見えてきたこと

白石島のマルベリー生産者は「マルベリーを知ってもらう機会になった。草刈りや袋詰めなど人手がかかる分、マルベリーは原価が高いからこそ、売り先ができて地域にお金が落ちるのはありがたい」と話しているといいます。

マルベリーを収穫する様子(提供:笠岡市)

ただし、プロジェクトはあくまで期間限定の取り組みです。継続的な出荷先が見つかったというわけではありませんが、取り組みで見えてきたことは多いと、片山さんは話します。

「これまで、小さい単位で出荷先を考えるイメージを持っていましたが、一気に大量に販売するという方法についても検討できると感じました。ただ、民間企業と協働で取り組むには、民間企業にとって使いやすい形で出荷する必要性など、スムーズに連携できる仕組みを整えていくという、一歩先の課題も見つかりました。『地域課題の解決に取り組みたい』と考える民間企業は増えており、地域食材のフードロス削減は相性がよいと思っています。そのためには情報を発信していくことも大切と感じています」(片山さん)

マルベリーの選別の様子(提供:笠岡市)

また、定住促進としては、SDGsやアップサイクルに取り組むまちとしてのPRに可能性を感じているといいます。

「私と同世代の若い人は、まさに地域に関わってほしいターゲット世代なのですが、既存ではない新しいやり方を模索していく姿勢や、SDGsにどう取り組んでいるかに注目している人が多いと感じています。地域の思いに共感してもらえるからこそ、伝わる価値があると思います。彼らがチェックしているメディアや注目しているものを大切に、これからもまちのプロモーションを行っていきたいです」(片山さん)

笠岡市政策部定住促進センター 片山詩央里さん

今後も、マルベリーの購入先や活用アイデアの募集を引き続き行うとともに、笠岡市周辺でお菓子の製造事業者を探していくとのことです。

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