私のロボットは思い通りに動いてくれるかな。小中学生がオリジナルロボットを作って試合に挑む「みとよロボットコンテスト(以下、みとよロボコン)2022」が8月21日、香川県三豊市の香川高専詫間キャンパスで開かれた。今回からガールズクラスが新設され、2チームがチャレンジ。笑顔と涙、そして真剣な表情があふれた夏の一日を追った。

姉妹のロボットは軽やかで豪快

「豪快に2本のペットボトルを一度に運びます。すごく気持ちいいですね!」。試合を実況する女子学生の声が弾んだ。ロボットのコントローラーを握るのは、小学3年生の安藤凪咲(なぎさ)さん。表情は真剣で集中しているのがわかる。すぐそばで妹の小学1年生、千遥(ちはる)さんが見つめていた。

凪咲さん(右)の操作を見守る千遥さん

ガールズクラスに参加した2チームのうち、この「チームちはなぎ」は姉妹2人で結成。普段はゲームやアニメが好きという。母の裕子さんが見つけたコンテストに、「やってみようか」と応募した。凪咲さんは前年の小学生部門に参加しており、2回目の出場。千遥さんは初挑戦だ。

「去年は体験を第一に考えて、ロボットを作ることや動かすことの確認をした年でした。今年はアイデアを含め、子どもが中心になってロボットを作りました」と父の壮一さん。香川高専の卒業生でもあり、アドバイスを担った。

参加チームは、香川高専が準備したモーターやコントローラーなど部品4種類を使って、自由な発想でロボットを作る。製作期間は20日間で、学生がオンラインでサポートした。

4種類の物体を運ぶ競技

自作ロボットを使って、フィールド上の物体を得点エリアに運ぶ

試合ではガールズクラスなど3部門ごとに、ロボットをスタート地点から動かし、フィールド内に置いてある4種類の物を選んで得点エリアまで運び、合計点を競う。試合時間は2分で、50点が満点。4試合中の最高得点で勝敗が決まる。運ぶ物ごとに配点が異なるので、各チームはそれぞれ作戦を組み立てていた。

「挑戦する人は手を挙げて」。司会者の呼びかけに、千遥さんが手を挙げた。第1戦は千遥さんがロボットを動かし、凪咲さんはサポートに回った。小さな手が操るロボットは、ペットボトル2本と球体1個を得点エリアに運んだ。13点獲得だ。

千遥さん(右)が最初の試合でロボットを操作

しかし、物体が一度フィールド外に出たら得点対象にならないルールが適用されてしまう。結果は5点だった。「ごめんね」と気づかう審判。思わず壮一さんに抱きついた千遥さんから、涙がこぼれた。

昼食を挟んで試合が続いた。チームちはなぎの得点は、18点、16点と伸び悩む。自宅での練習では、26点が最高点。「26点以上取りたい」と千遥さん。「私はそうでもない」という凪咲さん。「親は25点以上を期待してます」と壮一さん。それぞれ目標は異なったが、親子3人は気持ちをひとつにして最終戦に挑んだ。

「教えない」から生まれた発想

「それでは始めます。3、2、1、スタート」。チームちはなぎにとって「最後の2分」が始まった。凪咲さんは、まず配点が高いペットボトルを2本同時に運ぶ。

まず、ペットボトルを一度に2本運んだ

次に、複数の球体を得点エリアに押し込む。すかさずスッとアームが上がるので、球体はそれ以上は転がらずエリア内にとどまる。「うまい」と感じる場面だ。

この円形アーム型ロボットは、姉妹のアイデアで実現した。当初、壮一さんはショベルカーのように物体を持ち上げるロボットをイメージしていた。だが、姉妹は輪になったアームで物体を捕らえる構造を思いつく。壮一さんにとって、想定外の発想だった。

「正直、びっくりしました。大人が教えてしまうのではなく、子どもたちの発想力を大事にしたいと改めて思いました」

姉妹のロボットは大きな円形アームが特徴

さらに姉妹のロボットは進化した。最初は小さな輪のアームだったが、上手に運べない。「もっとたくさん点数を取りたい」という気持ちが芽生え、大きな輪のアームを持ったロボットが完成した。

教えない方針は、アドバイザー役の学生も同じ。香川高専4年の間部帆乃夏(まべほのか)さんは「二人がどうしたいのかを第一に考えました。『それじゃあ、うまくいかないだろうな』と想像できても、まずトライする体験を大事にしました」と話した。

壮一さん(中央)も真剣な表情でサポートした

最終戦の終了を告げるブザーが鳴った。「チームちはなぎ」の得点は21点。自己最高点には届かなかったが、点数は伸びた。クラス優勝だ。

壮一さんは姉妹のロボットを「じゃじゃ馬」と呼ぶ。大きなアームが当たって、周りの物体を散らしてしまうためだ。でも、このロボットは時に「バレリーナ」にも見える。得点エリアでバレリーナのようにアームを上げる場面がきれいだった。

「挑戦する子どもたちが増えてほしい」

全国高専ロボットコンテストでの優勝を誇る香川高専。指導教官の三﨑幸典教授は「まず、ものづくりを体験してもらうことが、みとよロボコンの目的です。そして、自分で考えて工夫することを重視しました」と話す。

「高得点を出したロボットに子どもたちが集まって、学ぼうとしていましたね。いい光景です。『もっと挑戦したい』という子どもたちが増えて欲しい。私たちも頑張ります」

みとよロボコン2022は、参加した19人が記念撮影して幕を閉じた。「来年も出たい」という凪咲さんと千遥さん。文系だった筆者もロボットを作ってみたくなった。

表彰式で賞状を受け取る凪咲さんと千遥さん(右)

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