コロナ禍で2年中止3年ぶりに「神の島」へ 海上の橋を渡り子どもの成長を祈る

コロナ禍で2年中止3年ぶりに「神の島」へ 海上の橋を渡り子どもの成長を祈る
夏季大祭に向けて橋がかかった津嶋神社本殿(奥)と宮司の藤田泰臣さん

瀬戸内海の青い海と青い空。海風に吹かれながら橋を渡ると津嶋神社本殿に着いた。「神の島」と呼ばれる小島に、子どもの神様が祀られている。香川県三豊市の沖合にあるこの神社は、1年のうち夏季大祭の期間だけ参拝できる神秘的な空間だ。コロナ禍のため2020年から2年間は中止になった。2022年8月3日午後、4日と5日の夏季大祭を前に、子どもの成長を願う家族連れらが一足早く3年ぶりの祈りを捧げた。

津嶋神社(橋から)
津嶋神社(橋から)

海の上を歩くような気分に

午後1時ごろ、通称「しあわせ橋」を参拝者が渡り始めた。海風が邪気を払うので、通った人は幸せになれると伝わる。乳幼児を抱いたり、ベビーカーに乗せた家族連れが、写真撮影しながら次々に姿を見せた。橋の長さは約250メートル。まるで海を歩いているような気分にもなれる。照りつける太陽に海はきらめいた。

「3年ぶりに、子どもの健康を祈りに来ました」。高松市内から来たという女性は、2歳の長女と4歳の長男の母親。長女の手をひいて、一段一段ゆっくり本殿までの階段を上った。「よし、よく頑張ったね」と言葉をかける。父親を含め、家族4人でお祈りした。津嶋神社の参拝は3回目。「海の上を渡れるので特別な気持ちになります。今日は懐かしさを感じました」。2年前のお札を返し、来年もまた来ることを願っているそうだ。

津嶋神社(本殿参拝)
津嶋神社(本殿参拝)

宮司の藤田泰臣さんによると、子どもの成長や健康を祈るため津嶋神社を訪れる家族が多い。夏季大祭の一日は「普段は一緒にいなくても、家族みんなで過ごす日」と決めている家庭も珍しくないそうだ。「この日は自然にみんなが集まってくるんです」

「なんとか今年は」という地元の願い

ところが、ここ2年はコロナ禍のため夏季大祭が中止になり、子どもの成長を願うチャンスが失われた。三年詣りという言葉があるように、3年続けて祈願する習わしが途絶え、地域にも影を落とす。「なんとか今年は参拝したい」という願いが藤田さんに届けられていた。

「『子どもの成長を祈りたい』という声を無視するわけにはいきませんでした」。周囲のイベント開催状況を参考にしながら、6月末に開催を決めた。7月18日の「海の日」に橋の板を並べ、欄干の点検や朱色の塗料を塗り直した。例年以上に丁寧な準備が進んでいった。

津嶋神社(海)
津嶋神社(海)

本殿のある小島は、一周132メートルほど。一度に大勢が滞在するのは難しいため、混み合う時間帯は順々に参拝する。小さな浜もあり、海辺に下りて遊ぶ親子の姿もあった。

津嶋神社の始まりは、文禄年間(1590年代)と伝わる。付近に「この島に木を植えてまつれば、子どもと牛馬を守る」という女性の声が聞こえたことを機に、信仰が始まったという。1933(昭和8)年に初代の橋がかかるまでは、小船で小島まで渡っていたという。

次々に参拝にやってくる親子連れ

本殿が賑やかになり始めたと思ったら、橋に参拝者が連なっていた。岡山県内の親子4人は、「インスタグラムで夏季大祭の前日も参拝できることを知って、混雑を避けてきました」と話す。子どもたちは、購入したお守りを見せてくれた。

1歳8か月の長男を抱いた高松市内の夫婦は「子どもの健康を祈ろうと思って来ました」と笑顔だった。

津嶋神社(階段)
津嶋神社(階段)

「前に来た時のこと、覚えている」。2年前に参拝したことを思い出し、母親と一緒に話してくれた小学3年生の男の子もいた。母親は「年に一度しか来れないので、神妙な気持ちになります」と、家族そろって祈った。

例年5万人ほどが訪れ、普段は静かな神社一帯が一気に賑やかになる。地元の中学生女子が巫女に扮してお守りを販売したり、男子は渡橋用の切符をちぎる担当として活躍する。

臨時営業するJR津島ノ宮駅も準備万端

津嶋神社(駅長)
津嶋神社(駅長)

「安全に運行することを一番に考えていますが、『来てよかったね』という笑顔が見られたらいいなと思っています」

JR多度津駅長の藤村悦哉さんは、夏季大祭にあわせて8月4、5日の2日間だけ営業するJR津島ノ宮駅の責任者だ。津嶋神社から徒歩1分ほどの場所に津島ノ宮駅があり、関連会社の社員らが駅舎の掃除や設備の点検に汗を流していた。全国的にも珍しい臨時駅なので、鉄道ファンも注目する存在だ。

津嶋神社(駅員)
津嶋神社(駅員)

「この駅はちょうど線路がカーブしている場所にあるので、停車した列車が傾いてホームとの間に50センチくらいの落差ができます。全てのドアに駅員を配置して、お年寄りや子どもさんは抱えたりしながらお手伝いします」

周辺の駅長と多度津駅の駅員が最大25人ほど出勤し、切符販売など通常業務に加えて降乗客を手助けする。コロナを警戒して、手袋を着用し、消毒液を配備した。車内アナウンスで、手助けが必要な人は駅員に声をかけるようにお願いするという。夏季大祭は例年ほぼ晴天に恵まれるといい、熱中症を警戒しながらの業務になる。

津嶋神社(駅準備)
津嶋神社(駅準備)

藤村さんが、ちょっとした津島ノ宮駅の楽しみ方を教えてくれた。子どもに人気のアンパンマン列車が通り過ぎるのを臨時駅ホームから見学する体験だ。時速100キロで通過するアンパンマン列車を間近にできるので、迫力たっぷりなのだそう。「列車はカーブで加速するので、津島ノ宮駅のホームで見ると迫力があります」と説明してくれた。通過時刻を問い合わせる電話もあるそうだ。

花火やお神輿を目撃しよう

津嶋神社(花火)
津嶋神社(花火)

津嶋神社の夏は、8月4日夜の花火で最高潮を迎える。5日午後3時ごろには、神輿がしあわせ橋を渡る様子も見られる。藤田さんは「朝方と花火の夜は混雑するので、熱中症に注意が必要ですが、お昼が比較的空いています」と分散参拝を呼びかけていた。駐車場の台数が限られているので、列車の利用も推奨している。

瀬戸内海に朱色の橋がかかる小島には、3年ぶりの夏季大祭を告げるのぼりがはためいて、普段にも増して神秘的に見えた。待ち望んだ短い夏。子どもたちに、しあわせが訪れることを願った。

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