「和食器産業の市場は25年で約80%縮んでるんですよ」
こう語るのは、うつわ演出家を名乗る吉村聡さん。小さい頃から慣れ親しんだ食器と3代にわたって継がれてきた会社に貢献したいという思いから、30歳で家業の食器卸会社を引き継いだ。日々、奮闘する吉村さんが業界で生き残っていくために取り組んだのが、珍しい鶴のうつわの開発だ。

群馬県の形をした鶴のうつわ

鶴のうつわは、吉村さんが家業を営んでいる群馬県の形をしている。地産地消に力を入れてる飲食店の「料理を盛るときに、ひと目で群馬と分かるものがあれば嬉しい」の言葉をきっかけに開発された。

山と平野の起伏が特徴的な群馬県の立体感が反映されていて、焼物ならではの質感を表現するために窯元にもこだわって作られた。現在は、飲食店や観光地の旅館などで多く使われている。

ちなみに、鶴の形のうつわを作るアイデアは、群馬で育った人みんなが親しむ郷土かるた「上毛かるた」のかけごえ「つる舞う形の群馬県」由来だ。

しかし、うつわとして考えたときには、いびつで使いにくく、群馬県でしか通用しないため、市場は小さい。他県での販売は厳しいため、商売として継続していくのは難しいようにも見える。

使いにくく、商売の発展性も大きくなさそうな鶴のうつわを、どうして開発して、作り続けているのだろうか。

反対を押し切って、鶴の形をしたうつわを開発した理由

吉村さんが鶴のうつわの開発に乗り出したとき、従来の食器開発とは力の入れどころが異なっていたため、反対の声が上がることもあった。

「こういういびつなものは合理的じゃないので、『こんな使いにくいもの作ってどうするんだ』と言われることもありました。ただ、市場が縮小して競争が激しい業界なので、存在意義の部分でも他社と違ったことをやっていかなければと思っていて。家業に入った当初は話を聞いてもらえないことも多く、『コミュニケーションのきっかけになれば嬉しい』という思いで開発しました。地元の会社が泥臭くやることで、うつわの意味を強められたらと思います」

もともと業務用に販売していた鶴のうつわ。販売を続けてるうちに、珍しさが話題を呼び、メディアで何度か取り上げられることになる。その露出がきっかけで、家庭用に使いたいと問い合わせを受けるようになった。

そこで、吉村さんはブランド「つーーーる」を1年かけて立ち上げ、インターネットで誰でも購入できるようにした。ブランド名の「つーーーる」は、「鶴」と道具・手段の「ツール」の意味が込められている。

客の声で気づいたツールとしての使い方

鶴の箸置

地産地消を表すために開発された鶴のうつわだが、次第にうつわ以外の使い方をしてくれる客も出てきた。

「鶴のうつわをインテリアとして壁に飾ってくれる人もいましたし、飲み比べセットを提供するときにお酒を置くお盆のように使ってくれるお客さんもいました。飲み比べセットは、提供する地酒を蔵元の場所に置いていて、こだわりを感じましたね。鶴の形をした磁器の箸置もあるんですが、それの裏面にネクタイピンのようなクリップをつけて、アクセサリーとして使ってる方もいらっしゃいました」

 鶴のうつわも箸置きも重厚感があるので、インテリアやアクセサリーとしても相応しいように見える。

 「『こういう使い方できるんじゃない?』と目から鱗のアイデアをお客さんが出してくれるんですよね。使い方を定義しないことで、可能性は広がるのかなと思います」

だるまの縁で広がる海外への道

 高崎だるまをモチーフにした「ふらっとだるま」(FLAT DARUMA)

鶴のうつわを開発した吉村さんは、新しい陶磁器の開発にものりだした。テーマは、だるま。地元群馬の名産かつ全国でも意味が通じるうつわだ。

「選挙でよく見かける『高崎だるま』なら、県外の人への認知度も高いですし、海外への認知度も徐々に上がっています。大きく広がるかもしれないと思い、『ふらっとだるま』を開発しました。地元のだるま屋さんとコラボしただるまの酒器と一緒にサンパウロに送ることもあって、少しずつ広がりを実感しています」

「継いだ理由に繋がるのですが、もともとこの家業の食器屋を生業として、僕は育ってきました。どうなるかわかんないですけど、向き合って厳しい業界に一石を投じたいです」

厳しさが続く和食器産業。新しいうつわの価値を創り出すために、吉村さんは奮闘し続ける。

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