コロナ禍で、コミュニケーションの機会が制限されている。そんななか、子どもたちの精神的な孤独を食い止めたい!とスタートしたのが、「たいわ室」だ。親子のコミュニケーションを学んだコーチが、オンラインで30分間、全力で子どもと向き合い、話を聴く。
今回は、立ち上げメンバーの一人、FM愛媛アナウンサーでコーチの高橋真実子さんに、なぜこの取り組みを始めたのか、利用した子どもたちや保護者の反応、そして今後のビジョンについて聞いた。

「たいわ室」コーチの高橋真実子さん

「子どもたちと向き合えない」コロナ禍、小学校教諭からの相談で奮起

FM愛媛アナウンサーの高橋真実子さん。1男1女の母であり、親子の関わり方を学ぶ「マザーズコーチング」のコーチでもある。 

現在、彼女たちが取り組んでいるのが「たいわ室」。これは、マザーズコーチングで親子のコミュニケーションを学んだコーチたちが、オンラインで30分間子どもたちの話をじっくり聴くこと。対象は、小中学生だ。

対話中はできる限り、子どもが一人で話せる環境を推奨し、コーチは子どもと話した内容を親にも伝えない。また、話の中で「アドバイスをしない」というルールも設けている。あくまでも話を聴き、悩みがあるときは「一緒に考える」というスタンスを貫く。 

この取り組みは、コロナ禍が始まった2020年5月末、有志のコーチ数名でスタートした。

「きっかけは、コーチ仲間の一人が小学校の先生から相談を受けたことでした。コロナで休校が続き、子どもたちとじっくり向き合えないことに悩んでいる、というものでした」

コロナ禍の学校では、みなマスクを着用し、目しか見えない状態。給食も「黙食」となり、人と会話したり、表情を見ながらコミュニケーショをとる機会が激減した。

「何とか、子どもたちの精神的な孤独を食い止めたいと思いました」

高橋さんたちマザーズコーチは、子どもの話を聴くことを得意としている。

自分たちコーチは、100回褒めることと1回じっくり話を聴くことは、同じくらいの効果があるといわれていること、そして、誰かが自分の話を聴いてくれるだけで、心から安心できる「居場所がある」と実感できる、ということも知っている。

「私たちに何ができるだろう…」と考えたとき、この「たいわ室」にたどり着いた。

たいわ室ホームページ(一部抜粋)

自分の言葉で話す子どもたちはキラキラしている 多くの教育機関から後援も

立ち上げが決まると、すぐに簡易のホームページやチラシを作成し、リリース。チラシを小学校などに配布したとき、先生からは「なかなか生徒一人ひとりの話を聴けないので、ありがたい」「これは、すごく大事な取り組みだと思います」などの声をかけられた。

全国から60を超える市町村・学校や教育委員会からの後援申請を得ることができ、クラウドファンディングを実施すると、目標額150万円のところ、300名以上から230万円が集まった。多くの応援コメントが届き、心を動かされたと同時に、その必要性を改めて感じた。

たいわ室スタート当時のチラシ
 

たいわ室の利用者は、2020年5月から2022年3月末までの間で累計350名ほど。子どもとの対話は、のべ800回以上にも及んだ。全国の子どもたちが利用しており、特に小学校中学年が多い印象だ。

「たいわ室」という名前だが、自分の好きなことについて話をしてくれる子もいれば、歌を歌う子、絵を描いている子、読書している子、折り紙を折っている子もいる。子どもたちは、自然体で、思い思いの30分間を過ごす。

「どんな形でもいい。私たちはその30分間、全力でここにいるよ!ということを伝えたいと思っています」

子どもたちからは「話がとまらなくて、時間があっという間で魔法みたいだった」「コーチが好きなことを、知ることが楽しい!」など、話ができたことだけでなく、コミュニケーション自体を嬉しいと感じる声も届いた。

「自分の好きなこと、得意なことを話すときの子どもって、本当に目がキラキラしているんです!」

保護者からは「話を聴いてもらうだけで、こんなにイキイキした表情が見られると思わなかった」「子どもが大事に思っていることを、大切にした関わりを意識したいと思った」など、新しい気づきについての感想も寄せられている。

目指すのは「何でも話せる近所のおばちゃん」子どもに第三の居場所を

当初9名でスタートしたが、コーチの数も40名近くなった。ただ、現在は完全ボランティアで運営している。もっと多くの子どもたちの話を聴くために、今後はNPO法人化も視野に入れている。 

たいわ室が目指しているのは「近所のなんでも話せるおばちゃん」。

「コロナ禍ということもありますが、現代はそもそも“近所のおばちゃんと、話して帰る”みたいな第三の場所を作る機会が減っています」

オンラインで話を聴くコーチ
 

子どもに限らず、人は「ただ、話を聴いてもらえる」ことで安心できる。そして、それが「親」ではないから話せることもあるという。

高橋さんは「たいわ室のコーチ仲間とも話していますが、将来は、学校から帰ったらYouTubeかたいわ室か、みたいな存在になりたいですね」と笑う。話を聴いてもらうことが、子どもたちの楽しみの一つになれば……と、今日も30分間、子どもたちの話に耳を傾けている。

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