春の暖かな風が気持ちよく、少し肌寒いけどピリッとした緊張感のある始まりの季節。ピカピカのリクルートスーツに身を包んだ若者の姿がまぶしい……
例年ならば今の時期はそんな初々しい就活生たちが目に留まる季節なのだが、コロナ禍で面接や説明会もオンラインのためか、ほとんどその姿を見かけない。そんな中、2021年に岡山大学法学部を卒業、同年4月にJICA本部に就職し、ちょうど1年が経った松本颯太さんに話を聞いた。
学生時代を岡山で過ごし、英・エディンバラ大学への交換留学やOne Young World(学生国際会議)にも参加した経験のある松本さんに、キャンパスライフと1年間の社会人生活を振り返ってもらい、コロナ禍で頑張る学生たちへ、先輩としてのメッセージをもらった。

子どもの頃好きだった歴史漫画を入口に

松本さんは現在、JICA本部の経済開発部、民間セクター開発グループのアジア担当のチームに所属し、企業が育つ環境づくりの支援と観光開発を行っている。

インドの支援先小児科病院で院長と話をする様子

今の仕事を選んだ原点は、子ども時代に一度はみんな読んだことがあるだろう、図書館などによく並べてある歴史漫画のシリーズ本だ。松本さんは歴史好きで、子ども時代に”めちゃくちゃ”読んだという。好きなのは日本史近代の開国後で、学校で歴史を学ぶうちに、特に1900年代以降は結局のところ外交の歴史だと感じたという。

「生まれてこの方日本が明るかった姿を見たことがないな」と漠然と思っていた中で、歴史を学ぶにつれ、外交の歴史、国同士の関係性に興味をひかれた。

地元である広島県の田舎でも人が減り衰退していく様子を見てきた中で、「日本を明るくするために国際社会から変えることができるのではないか?」「双方向的なパートナー関係を築くことができないか?」幼き頃の読書を入り口に、国際協力への関心が高まった。

大学で気づいたこと

大学での様々な人との出会いは、新たな機会を生み、多様な考え方に触れることで一気に視野が広がり、偏らず俯瞰的にみる力を身につけられたという。

先述した留学や国際会議だけに終わらず、仲間と学生団体を起ち上げ、ネパールに図書館をたてるためのクラウドファンディングも行った。これはネパールで活動するNPOとの繋がりができたことがきっかけだった。

図書館を作る為の資金集めで西側緑道公園のイベントにブース出展

ネパールの子どもたち40人~50人程度に夢を聞いた時、子どもたちの答えが医者、エンジニア、弁護士の3つに集約された。その理由はその3つ以外知らないから。

松本さん自身は子どもの頃に大好きな読書を通じていろんなことを学んだと感じていたし、日本の子どもたちの夢はもっと多様なので、ネパールの子どもたちが3つしか知らないという現実はショックだった。

「ネパールの子どもたちにも色々な仕事があること、色々な世界があることを知ってほしい」
そんな思いで、2年ほどかけて資金を集め、ネパールのシュリー・クリシュナ小学校に併設される形で作られた図書館は、地域の図書館となり市民にも活用されているそう。今もそこできっと新しい夢が生まれているだろう。

シュリー・クリシュナ小学校に図書館が出来た時の様子

また、大学生のうちに、松本さんはインターンシップにも参加した。

「実際に就職して企業の中に入ってみると、意外と地味な作業が多く、学生時代に思い描いていた想像とのギャップに驚くことが多いとはよく言われるが、自分はインターンシップを経験していたおかげで、そのギャップがなく、本当にやりたいことをみつめなおす良い機会となった」と言う。

内定後には大学のある岡山県でJICAデスクと活動を共にし、出前講座を共に実施したほか、地域のアクターの取り組みやつながりも見学。インターンや地域の現場を通して、想像と現実のギャップを埋めることが出来たそうだ。

コロナ禍で頑張る学生たちへのメッセージ

岡山城東高校での出前講座の様子

「社会人となり、下っ端のうちは、言われてやる、流れてきたものを次に流す、という業務が多く、気が付いたら上からの指示で回ってきたものを受け身でこなす世界に入ってしまいがち。思考停止にならないためにも、社会人と比べて、格段に制約の少ない、そして時間のある学生のうちに目の前のことの裏を想像する力を意識し、 “考えるクセ“を身につけることが大事」と松本さんは言う。

「同じゴールを目指していても、そのゴールに対しての関わり方、立場は様々あり、それぞれができる事や見えている世界は違う。例えば国際協力を例にとってもJICA、コンサルタント、NGO、民間企業等で出来ることは全く違う。またより広く国際連携となれば、国際協力業界に限らずあらゆるところで出来ることがあるので、どういう立場で、どう関わりたいかを考えてみる。そのためにまずは色々な人に話を聞いてほしい。ニュース一つとっても、そのまま受け止めるのではなく、違う立場の人からみたらどうだろう? と少し考えてみてほしい。そうすることで自分なりに考えて付加価値を出していけるようになるのではないかと思う。コロナ禍で情報を取るのも難しくなってはいるものの、例えば大学生向けにJICA中国が実施しているフィールドワーク合宿など、コロナ禍でも行われている事業は自分の機会としてしっかりつかんでほしい」

そう、熱く語ってくれた。

新しいスタートの季節。新しい目標に向かって走り出した人も多いのではないだろうか?

世界とつながる道は、国際協力業界だけではない。それぞれの立場で、自分のやりたいことは何なのか、考えて考えて、将来何らかの形で、一緒に世界を良くしていける仲間と出会うのを、松本さんは楽しみにしている。

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