フリースクールとは、学校に通わない・通えない不登校の子どもたちも過ごせる居場所。学習のフォローや相談、体験活動などを行う民間施設で、規模や活動内容はさまざまです。

岡山市北区の奉還町商店街の近くの住宅で、2021年9月にスタートした「フリースクールもえぎ」は、これまで小学3年生~高校3年生を対象に運営。そして、高校卒業資格も得られる「無花果学園」を、2022年4月から開校します。オンラインでの入学も可能です(高校卒業資格を得るためのスクーリングの会場は各地域となります)。

フリースクールもえぎの代表で、無花果(いちじく)学園の学園長でもある中藤寛人さんは、自身も高校時代に不登校を経験していました。

学校でも家庭でもない居場所の大切さ

「僕の場合、第三者から家庭への嫌がらせなどで安心した生活が送れなかったことから、学校へ行く意味がない、家族のためにもならない、と時折学校を休むようになりました。友人との関係性は良かったのですが、『学校を休んでいた』と特別な目で見られる部分は苦しかったです。そんな中、塾の先生が『ただ学ぶことが好きな僕』として接してくれたことが、今の自分に繋がっています」

学校でも家庭でもない居場所が、自分らしく生きていくきっかけになったという中藤さん。社会との関係性に苦しんでいる子どもたちの居場所となり、寄り添いたいという思いから、フリースクールもえぎをスタート。通う中学生・高校生の声を聴き、高校卒業資格も得られる「無花果学園」を創設することになりました。

自身の幸せを見つけていける人を増やす

無花果学園の理念は「社会がどれだけ変化しても、この世界で、自身の幸せを見つけていける人を増やす」。幸せを感じること自体に罪悪感を持つ子も、コミュニケーションを重ねていくうちに変わっていくといいます。特に重要視しているのが、気持ちへ寄り添い方です。

① プラスもマイナスも、1つ1つの感情を大切に

無花果学園は、「好き」、「こんなことをしたい」という前向きな言葉はもちろん、例えば「嫌い」、「罪悪感」といったマイナスの感情にも向き合うことを大切にしています。

「マイナスの感情を見つめると、本当は寂しかったんだ、つらかったんだ、と理解が深まり、さらには、本当はこうしたかったんだ、こんな関係性になりたい、というプラスの欲求に変わっていきます。けれど、マイナスの感情にひとりで向き合うのはつらいもの。そこを僕たちが一緒に寄り添います」

中藤さん自身、不登校の頃は家族にマイナスの感情を抱いていたといいます。しかし、母を亡くしたばかりの親友に「ちゃんと思いを伝えないと後悔するぞ」と言われたことが、「家族を大切に思っているからこそ、本当は家族を守りたかったんだ」という前向きな気持ちの発見に繋がりました。

日頃から話を聞いてもらえるほか、無花果学園では心理学や哲学をベースにした「こころの探求」や、政治・経済・性教育・お金をはじめとするさまざまな教養を学ぶ特別授業も予定されています。

② 世界の見え方が、愛情溢れるものに

「身近な人との関係性の積み重ねで、世界の見え方は変わります。フリースクールは世界との最初の接点かもしれません。肯定的に世界を捉えてほしいんです」

ここで活かされるのが、起業家や地元企業とのネットワークです。無花果学園ではeスポーツ会社、マーケティング会社、プロスポーツチームなど、さまざまな企業・団体が提供する特別授業を受けることができます。これまでも、子どもたちのやりたいことに沿ってプログラムを作ってきました。例えば、eスポーツに関心をもつ中学3年生は、eスポーツの会社の社長とやりとりし、オンラインのイベント運営を体験。今後、オンライン交流会の主催を企画しているそう。

「『フリースクールの子どもたちの将来をつくっていきたいから協力してくれませんか』と声をかけると『力になりたい』と言ってくださる方が、岡山にはたくさんいらっしゃいます。リアルな社会との接点を活かして新たな未来を作っていけるのが、この場所の強み。これからも関係性を大切に、広げていきたいです」

進路については、総合型選抜入試(旧AO)での国立大学合格者が出たほか、就職という道はもちろん、周りに起業家が多いため起業も身近な選択肢のひとつ。アーティストや旅人といった進学・働く以外の生き方など、多様な進路に寄り添う姿勢が特徴的です。

「今まで過ごしてきた学生生活に違和感があったり、今後の学生生活に不安を感じたりする人に、こんな選択肢もあるよと伝えていきたい」と話す中藤さん。個性あふれる人生がここから花開いていきそうです。

この記事の写真一覧はこちら