「usaginingen(ウサギニンゲン)」という、不思議な名前のパフォーマンスユニットがいます。自作の映像機と楽器を使い、アナログとデジタルを融合した独特な世界観を音楽と映像で表現するのが特長です。2011年にドイツ・ベルリンで活動を開始し、2014年にはアイスランドの音楽祭でライブシネマ部門のグランプリを受賞するなど、各国で高い評価を得ています。

ウサギニンゲンとして活動する平井伸一さん・絵美さん夫妻に、活動内容と最新作『トンビ 魂の鼓動』について取材しました。

幻想的なパフォーマンス。

ウサギニンゲンの活動の始まり

「これをやりたい、これで何とかしよう、という気持ちで始めた訳ではないんです」

東京からドイツのベルリンに渡ったのは、広告デザイン業で様々な受賞歴を持っていた絵美さんのキャリアアップのためでした。しかし、すぐに広告デザインの仕事に結びつくことは困難でした。

そんなある日、知り合いのミュージシャンから「あなたたちの世界観で、ライブをしたい」と依頼が入り、絵美さんは「TA-CO」というオリジナル映像機を、そして伸一さんは「SHIBAKI」という楽器を開発します。この2つは分解可能で、スーツケースに収まるほどの大きさになります。

「TA-CO」は、絵美さんが担当。

「TA-CO」はアクリル板が4枚重ねられ、絵美さんが音楽に合わせてアクリル板に様々なアイテムを置いていきます。刺繍やオリーブの葉、貝や写真など、手作りの素材が絵美さんの手によって、新たな佇まいを生み出していきます。

素材は一つずつが手作り。これを絵美さんが一つずつ手で動かし、投影します。

その様子は投影機で壁に映され、「SHIBAKI」が奏でる不思議な響きの音楽とマッチして、唯一無二の世界観を生み出しています。

幻想的な世界観が生み出される。

音楽に映像をつけたい気持ちと、「ゼロから自分たちの物語を描きたい」という思いから、依頼を受けて作ることをやめ、2012年、正式に2人で「ウサギニンゲン」としての活動を本格化しました。

「パフォーマンスを行うと想像以上にみんなが喜んでくれるんです。それがとても嬉しいですね」

2014年にReykjavik Visual-Music Festival(アイスランド)のライブシネマ部門でグランプリを受賞し、それから一気に活動が開けたというウサギニンゲン。ヨーロッパ、ロシア、北米、中国等23か国に公演の舞台を広げていきました。

最新作『トンビ 魂の鼓動』への思い

ドイツを拠点にしていた2人ですが、2016年にドイツから香川県の豊島に移住しました。

「環境を変えたら自分の中の何かが変わる、新しいものが動き出す、ということをこれまでの経験で知っていました。僕の地元が香川県だったので田舎にしよう、とさまざまな島を巡ったのですが、ご縁があったのが豊島だったんです」

大都会から、島暮らしへ。振り幅の大きい生活を楽しもうと、豊島にあった倉庫を使って「ウサギニンゲン劇場」をオープンしました。(※現在はコロナ禍のために休館中)

2人は、豊島で住み続けることで気づいたことがありました。それは豊島の歴史です。

「豊島はかつて、日本で最大級の産業廃棄物不法投棄事件が起きてしまった場所。瀬戸内国際芸術祭でアートの島とも称されていますが、豊島の歴史に何らかの形で触れてもらいたくて、4年近くかかって『トンビ 魂の鼓動』が出来たんです」

最新作「トンビ 魂の鼓動」

ドイツで出会った現代アートに関わる人たちは「社会に対して何ができるのか」と訴えていたそう。平井さん夫妻も、自分たちでできることをしようと、豊島の産廃問題をライブパフォーマンスのテーマとして選びました。

「押し売りをしたい訳ではないんですけど、何人かでも、少し、豊島の歴史やテーマについて思ってもらえたら嬉しいです」

9月から始まった国内ツアーでは、北海道から沖縄まで全28会場を巡ります。

「いつもライブの最後に『ぜひ豊島に来て、島の空気を吸いに来てください』と伝えています。作品がどう影響するか、僕たちは見る人たちに全てをゆだねていますが、島の歴史を知るきっかけになればいいなぁと思っています」

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