セッターでクライミング界を支える 国際大会銀メダリストが裏方に転じた訳

セッターでクライミング界を支える 国際大会銀メダリストが裏方に転じた訳
セッターの仕事中に笑顔を見せる波田さん

2020年の東京オリンピックで正式種目として採用されたスポーツクライミング。女子複合では野中選手が銀メダル、野口選手が銅メダルを獲得するなど、日本人の活躍がメディアで大きく取り上げられました。
今回、話を聞いた波田悠貴さんは、2017年に行われた国際大会で銀メダルを獲得した経歴の持ち主です。現在は選手を事実上引退し、クライミング界でセッターといわれる仕事についています。
そんな波田さんに、選手時代の苦労や現在の仕事内容について尋ねてきました。

クライミング選手の厳しい現実

スポーツクライミングにはリード、ボルダリング、スピードという3つの種目があります。特に波田さんは15メートルほどの壁を登るリード競技に強く、ユースの頃から数々の国際大会に出場してきました。

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しかし、選手として活動していたのは約1年前まで。波田さんは現在24歳で、まだまだ第一線で活躍できる年齢ですが、選手から裏方へとクライミングとの関わり方を大きく変えました。そこにはどういう理由があったのでしょうか。

「少し現実的な話になってしまうのですが、大学を卒業して自分の生活費を稼がなくてはならなくなったのが大きいですね。例えば、ワールドゲームズで銀メダルをとっても賞金などは出ません。国際大会で上位6位以内に入らないと、大会に参加する交通費や宿泊費などは自腹になります。勝ち続けないと国際大会に出続けることは難しくなるんです」

華々しい経歴を持っていても、選手として活動するには食べていくにも困ったといいます。そこで波田さんは裏方の仕事もこなすようになりました。しかし、仕事をしながらだと、安定した成績は残せなかったそうです。

「でも、得るものもありました」と波田さんは笑顔で語ります。

「選手として関わっていたときは、“登れるかどうか”しか考えていませんでした。でも、今の仕事をするようになって、大会で登らないといけないコースにはこんな要素があって、選手たちはこんなことを試されているんだなっていうのが理解できるようになったんです。視野が広がり、さらにクライミングの奥深さを感じました」

その結果、波田さんは裏方業をメインとすることに決めたのです。

セッターという仕事

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波田さんが選んだのはセッターという仕事。ジムの壁にカラフルな突起物を取り付け、一般客が登るコースを作ります。初心者でも登れるようなものから、選手でないと登れないような難しいものまで、一日8本から12本くらい、多いときは17本つくることもあるそうです。

「リードクライミングで使用する壁は10メートル以上あることが多いので、一日中ロープにぶら下がって作業しています」

クライミングジムの壁にコースを作る場合、大切になるのは3つのポイント。安全が保障されているか、適切な難易度になっているか、面白いかどうかです。セッターが提供するコースは商品と同じなので、当然見た目も大事になります。

また、波田さんの仕事は民間のジムだけに留まらず、公式戦のコースを作ることもあります。

「選手たちの順位がばらけるような難易度、観客が盛り上がるような選手のパフォーマンスを引き出す要素を入れる必要があります。一部の選手が有利不利にならないような公平性も重要ですし、安全性も大切です。セッターが試しに登ってそれらをチェックするので、選手と同じくらいの実力が必要になることもあります」

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裏方としてクライミング界を盛り上げる

選手として、またセッターとしての苦労を知っているからこそ、波田さんはクライミング業界を盛り上げていきたいといいます。

「もっとクライミングの認知度が上がって競技者や観戦者が増えれば、大会の数も増え、規模もより大きくなっていくと思います。その結果、選手が競技に集中できる生活環境が整えられると思うので、もっと幅広い層の人に楽しんでもらえるように、微力ながら貢献していきたいです」

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まだまだ発展途中の競技だからこそ、クライミングの未来を自分たちの手で作っていこうという前向きな波田さん。これからの挑戦が楽しみです。

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