昨今のキャンプブームを背景にアウトドア道具やスキルが注目される中、「たき火の精神」を大切にする人がいます。アウトドア歴40年の寒川一さん。アウトドアライフアドバイザーという肩書で、アウトドアの魅力を伝える幅広い活動を行っています。

「心に残る良いたき火をしよう」と語る寒川さん。話を聞いていくうちに、多くの人が惹かれる、たき火の魅力が見えてきました。

寒川一さん。アウトドアライフアドバイザーとして、防災キャンプからたき火の哲学まで幅広く活動。

なぜ人はたき火に惹かれるのか

寒川さんが1日1組限定の「焚火カフェ」を始めて、2021年で16年目。拠点は、神奈川県南東部にある三浦半島です。日没のひと時を、たき火と共に海辺で過ごすシンプルなサービスは、広告や宣伝もなくクチコミで拡散。訪れる人が絶えることはありません。

寒川さんが準備したたき火やコーヒー、焼きマシュマロなどを味わいながら、人々は思い思いの時間を過ごします。毎年必ず11月22日(いい夫婦の日)に来る夫婦もいます。暮れていく海辺でたたずみ、たき火を囲み、「炎以上に温かい」ものを感じ取ります。

寒川一さんが神奈川県南東部にある三浦半島で行う、1日1組限定の「焚火カフェ」。2021年で16年目を迎えました。

「火は火ですが、崇高なもの。今起こしている火と何万年前の火は、同じなのです。火は裏切らないし、ゆるぎない。その一方で、現代社会はうつろうものばかり。何を信じていいか分からないという苦しさや、身を寄せられるものがないという不安があると思います。『ゆるぎないものに対して身を寄せたい』と言う気持ちがあるのではないでしょうか」

焚火カフェは2名以上から。

火は裏切らない、確かなもの。その思いを人は潜在的に抱いており、火を囲む行為に安堵するのかもしれません。

たき火の文化から学ぶこと

寒川さんがアウトドアに目覚めたのは14歳の時。地元の香川県を自転車で出発し、2週間かけて四国を一周した旅がきっかけです。

「当時はキャンプ用品なんてものはありません。普段使っているものを鞄に詰め込み、丸腰で出発。でも僕は、衣食住をまかなえていたんです。14歳の時の自分の方が、完成されているような気がします」

現在はアウトドアライフアドバイザーという肩書で、幅広い活動を行うように。アウトドアでのガイドや指導、メーカーへのアドバイザー活動、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルの指導などしています。

「時々、14歳の自分が傍にいて『ちゃんとやってるか?』と問われるような気持ちになるんですよ」

焚火カフェにて火のお世話をする、寒川さん。

寒川さんはさまざまな地に赴き、交流を深めながら、アウトドアの知恵や考え方を学んできました。なかでも、アイヌの人々や、北欧のサーミの人々のことが、大きく印象に残っていると言います。「彼らは全てを知り尽くしているんです」と、尊敬の念を抱いています。

「彼らは、生きるために火をたいています。趣味や嗜好の『たき火』ではなく、暮らしの中の必然。厳しい自然に味方になってもらうためのものなんです」

五感を刺激される、たき火の魅力。

寒川さんのたき火には、こうした長年培われてきたマインドが宿っています。火がおこるのも、地球上の酸素濃度が絶妙なバランスで成り立っているから。寒川さんはたき火を通し「人が火をたくことの大切さ」を思い出してもらえたら、と話します。

原体験を次世代へ繋ぐ

また寒川さんは、次世代への『循環』も大切にしています。ワークショップを通じて、幼稚園児に火のたき方を教えたり、ナイフを使って木を削ることを教えたりしています。

「5歳児たちは素直で、冷静で、どこか達観しています。ピュアで何でも吸収します。火の虜になったような子もいるんですよ。この体験は、彼らにとって火をたくことの原体験になるんです」

寒川さんは、活動を通して自身がストーリーテラーとなり、様々な人たちと『共有』することが、自分の役割だと考えています。10月に出版した著書『焚き火の作法』では、寒川流のたき火を紹介。火のおこし方からたき火をする意味や理由、哲学的な面にまで広がって、たき火を語っています。

右が寒川さんの『焚き火の作法』。中・左は寒川さんが手がけた、たき火台プロダクトブランド「TAKIBISM(タキビズム)」の小冊子。

「どうせやるなら、美しい火をたき続けよう」
寒川さんのあたたかなメッセージは、五感をくすぐるかのように、私たちの心に響いてきます。

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