東京オリンピック聖火リレーの岡山ランナーに選ばれた、岡山県在住のボーマン三枝さん。5月、他の参加者とともに聖火の受け渡し(トーチキス)に参加し、とびきりの笑顔を見せていました。

中止になった聖火リレーの代わりに開催されたトーチキスに参加(ボーマン三枝さん提供)

そんな三枝さん、AYA(思春期・若年成人)世代のがんのサポートグループ「AYA Can!!」(拠点:岡山)の代表を務めています。自身も31歳で乳がんを経験した三枝さん。活動の背景には、同じようにがんを経験している仲間をサポートしたいという思いが込められていました。

※AYA世代とは15歳〜39歳頃までの年齢を指す言葉で、若年性のがんについては、一般にまだまだ知名度は低いといいます。

結婚してすぐ見つかった乳がん

三枝さんは2013年3月、英国出身のエドワードさんと国際結婚。幸せな未来を思い描いていた3か月後、右胸に乳がんが見つかります。同年7月に大学病院で全摘手術を受け、幸いにもステージ0と診断。しかし、再発防止のため、主治医から5年間の薬物療法(ホルモン療法)を勧められました。

「ホルモン療法を受けている間は妊娠は禁止です。結婚して子どもを持つことを当然のように考えていたので、ひどくショックを受けました」と三枝さん。

主治医や夫婦間で話し合った上で、妊孕性(にんようせい=妊娠するための力)を優先することを選択し、ホルモン療法を辞退しました。そして、2015年に待望の第一子が誕生。続いて次女、2021年1月には3人目となる女の子が誕生しました。

2021年1月に三女が誕生したときの「ニューボーンフォト」( ボーマン三枝さん提供、アサノカオリさん撮影)

生活の知恵分け合う“居場所”が必要

三枝さんは、AYA世代のためのグループが岡山になかったことから、2019年に「AYA Can!!」を発足させました。毎月開催するおしゃべり会のほか、2021年3月には展示イベントを初めて開催しました(現在はオンラインでおしゃべり会を実施)。

「同世代のがん患者同士、集まれる場所が身近にあったらいいなと感じていました。治療以外にも、例えばウィッグのケアの仕方や眉毛はどうしているのか、下着はどこで買えるのか、といった生活の知恵を分け合う“居場所”が私たちには必要です。辛いことや愚痴も言い合いますが、共感できる話で思いっきり笑い合うことも多いですよ」と三枝さんは話します。

乳房再建手術のために入院中の様子(ボーマン三枝さん提供)

たくさんの人が気軽に着られる下着を

三枝さんは「AYA Can!!」のほか、「下着屋Clove」の代表を務めます。全摘手術後しばらくして「手術前から愛用していたパット付きタンクトップの胸部分にポケットがあればいいのに」と考えたことが起業のきっかけだといいます。

再建手術をしていない場合、胸のふくらみを補うシリコンやスポンジ製のパットは必須。乳がん患者用のブラジャーはすでに販売されていましたが、タンクトップ型で気軽に身に付けられるものがなかったそうです。

乳がん患者の意見が詰まった下着が完成。このほど、レースのカラーをリニューアルしたばかり(発売日は未定)

乳がん患者仲間から意見を吸い上げながら、行政の創業支援センターからアドバイスを受け、一緒に思いを形にしてくれる業者を1人で探しました。偶然、展示イベントで出会った関東の縫製工場が引き受けてくれ、試作を重ねて、2017年4月に第1号が完成しました。

胸ポケット部分にパットが入れられる点が特徴です

完成品は、アンダーバストにゴムがないため締め付け感が少なく、強捻綿という糸を使うことで、治療の副作用で悩みが多かったホットフラッシュにも対応。汗をかいてもサラッとした着心地だと好評だということです。

三枝さんの選択 仕事も育児も諦めない

夫婦で協力して3人の育児に奮闘しながら、三枝さんは家庭菜園などの趣味を楽しみつつ、仕事も精力的にこなしています。

「がんにはどうしても暗いイメージがありますが、正しい知識を持つことがとても大事です。“びっくり離職”といって、がんの疑いがあるというだけで離職してしまうことが、いまだに問題になっています。サポートは必要かもしれませんが、治療と就労を両立させている人は少なくありません。自分を守るためにも、正しい情報を得てください」と三枝さんは話します。

ブログやyoutubeなどで個人の体験談を知ることができますが、がんの状況も治療法も人によってさまざま。三枝さんは、厚生労働省や国立がん研究センターなど信頼できる発信元から、正しく、また最新の情報を得ることの大切さを訴えています。

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