大阪メトロの北巽駅を降り、大通りから細い道に入った路地裏に“小さな沖縄”があります。漆喰シーサーを制作する工房で、店内に入ると、親しみやすい表情をした漆喰シーサーたちと、作家であり店主の宮下祐紀子さんが優しい笑顔でお出迎えしてくれます。

シーサー工場(コーバ)の前でお出迎えしてくれる宮下さんと屋根の上の漆喰シーサー

展示室と喫茶スペースを併設していて、喫茶スペースでは、4と3のつく日(シーサー)に沖縄そばも味わう事が出来ます。

自家製の手打ち麺と、とろける大きなソーキがたまらない美味しさです。

おおらかで自由な姿と表情の漆喰シーサーとは?

工房で作られている漆喰シーサー

一般的に獅子像は世界中で守り神として王宮や寺院などの特別な場所で多く見る事が出来ます。それに比べて沖縄のシーサーは民家の玄関や屋根に乗って人々の生活を見守っています。神様というよりも、身近でお地蔵さんの様な、そこにあれば、自然と拝んでしまう様な存在です。

宮下さんの家を楽しそうに守っている漆喰シーサー

そんなシーサーの中でも、漆喰シーサーは沖縄の屋根職人が民家の屋根を葺いた後に、余った赤瓦などの材料と漆喰を使って作り、家主へのお礼に屋根に据えたのが始まりなのだそうです。余った材料で形を作っていくので、その時々の瓦の割れ方や漆喰の盛り方も様々で、大きさも表情も屋根職人の気分次第です。

迫力ある漆喰シーサーもいます。

宮下さんの作る漆喰シーサーもみんな愛嬌があり、微妙に大きさや表情も違います。

「古い家の解体などで出る古瓦を使っています。今は機械で作っている瓦が多いのですが、昔の瓦は手捻りで作っているので味わいがあります。古材なので割れ方、形、色が違います。それがいい味を出していて私は好きです。瓦も思うように割れたり割れなかったり。生まれた形の成り行きに任せるというか、そうなる運命だったのかなと思います。だから仕上がりもそれぞれ違うものになるのです。というより、同じにならないんです」

ひしめき合うシーサー達は沖縄好きの7人家族のためのオーダー(宮下さん写真提供)

漆喰シーサーに、ふっと笑えたり、ほっこりするのは、このおおらかさと力の抜け具合からなのでしょう。

漆喰シーサーとの出会い

海が好きだった宮下さんは、会社員時代にダイビングで沖縄を何度か訪れている中で、漆喰シーサーに出会いました。おおらかな沖縄の人たちが育んできた、そっと近くで見守ってくれている姿に惹かれたそう。

昔からもの作りが好きだった宮下さんは、漆喰シーサーを作りたくて石垣島に渡ります。あるとき、市場のはずれに小さな漆喰シーサー工房を見つけ、なんとなく惹かれて入ってみると、漆喰シーサーを作りながら、手作り体験のお客さんに教えている女性に出会いました。話している内に意気投合し、一緒に働ける事に。この出会いから3年間の修行を経て、宮下さんは大阪で漆喰シーサーを作り始めます。

数珠つなぎで広がっていく幸運な出会い

宮下さんの作業場

マイペースに制作をしていた宮下さんに、転機が訪れます。兄の知人から「友人がお店を開店するので開店祝いに漆喰シーサーを作って欲しい」との依頼が舞い込みました。そして、納品先の店が宮下さんの作るシーサーを気に入り、店で作品を販売してくれることになりました。

その縁から、同じく店に作品を置いている作家さんとも知り合い、一緒に手作り市に出店させて貰える事に。さらにその作家さん経由で滋賀の店にも置いて貰える事になりました。現在、宮下さんのシーサー工場に様々な作家さんの作品を置いていたり、ワークショップを始めたりしたのも、この数珠つなぎの出会いからでした。

滋賀のお店の繋がりで、ワイヤークラフトを製作している“ぱふ”さんが、シーサー工場で開催しているワイヤークラフトのワークショップ(ぱふさんは右手前)

「石垣島の工房の出会いもそうですが、流れに任せた方がうまくいく時ってあるんだなと思います。自分で積極的に動いても進まなかった事が、自分の思いも寄らないタイミングで進んでいく。みなさんとの出会いのおかげです。本当に感謝しています」

日々起こる事や人、物を受け入れて、感謝して暮らしている宮下さんと話をしていると、自身を無条件に受け入れられているような、居心地の良さを感じます。数珠つなぎが広がって行く意味が分かった気がしました。

喫茶スペース兼展示室でちょっと一杯のお客さんと店主の宮下さん

見ているだけで癒される漆喰シーサーが待つ大阪の小さな沖縄。ぜひ一度、足を運んでみませんか。

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