香川県小豆島にある古民家カフェ、「珈琲とおやつ タコのまくら」。窓の外には海が広がり、夏の間は島で採れた素材を使った自家製シロップのかき氷を楽しむことができます。

と、いかにも観光客に喜ばれそうな雰囲気ですが、意外にも客の半分以上は地元の人だとか。それは、オーナー夫妻が模索とチャレンジを繰り返してきた結果でした。

オーナーの柿崎貴道さんと未佑紀さん。

最初はお客さんの8割が観光客

「2014年のオープン以来、この店はいろんなスタッフに支えられてきました。最初に料理担当になった人が、野菜中心の、動物性のものを使わない料理を作りたいということで、お店の方向性もそっちへ。お菓子も乳製品や卵を使わないものを提供していて、ヴィーガンカフェのような感じでやっていました。その後、料理を引き継いでくれた人も同じ路線で続けてくれて。この頃は島の人より圧倒的に観光客が多かったですね」

その後、2代目の料理人が辞めた後にやってきたのが未佑紀さんでした。山形出身の未佑紀さん。海のある場所で働きたいと思っていたところ、この店の求人情報を目にしました。

焼菓子作りが未佑紀さんの担当。夏の間は焼菓子をお休みし、かき氷のシロップ作りに励みます。

「料理もお菓子作りも素人だったので、最初はこれまでのスタイルを引き継いでやっていました。でも元々バターを使ったお菓子が好きだったこともあって、だんだんと自分の作りたいものができて。家でラムレーズンのレアチーズケーキを作ってみたら評判がよくて、それがきっかけとなって店で出すお菓子も少しずつ変わり始めました」

このお菓子は「海うさぎ」と名付けられ、カフェの看板スイーツとなっています。

貴道さんはコーヒー担当。少量ずつ焙煎し、ネルドリップで豆のおいしさを引き出します。

コロナが自分たちのスタイルを変えるきっかけに

その後、ふたりは結婚。未佑紀さんが出産・育児で店を離れている間は、ホールのスタッフだけでなく貴道さんの両親にも手伝ってもらってなんとか続けていましたが、この頃から「二人でやっていける形にしたい」と漠然と思っていたそうです。そこで子どもが1歳になったのを機に保育園に預け、未佑紀さんが店に復帰しようとしていた矢先、突然のコロナ禍に。

古民家を、貴道さんが友人たちとともに6年かけて改装しました。

「観光が完全にストップしたのでお客さんが激減して。当時スタッフが2人いたんですが、彼女たちの方から『そんなにシフト入れなくていいよ』って言ってくれたのはありがたかったですね。それに高齢の両親に無理をさせるのも申し訳なかったので、少し前から考え始めていた“夫婦ふたりでできる方法”を具体的に検討し始めました」

ネルドリップで入れたコーヒーは、ほのかな甘味と芳醇な味わいが特徴です。

“二人が今後も続けていきたいこと”を軸に考えた結果、それまで続けていた食事の提供をやめることに。すでにファンがついていた未佑紀さんのお菓子と、貴道さんの自家焙煎コーヒーの二本柱で店を続けていくことになりました。さらに、夏の3か月間だけかき氷を出そうと発案したのも未佑紀さんでした。

かき氷は500~600円と比較的安価。子ども用の小さいサイズにも対応してくれます。

「夏は生地がだれてしまって焼菓子のクオリティが落ちてしまうんです。だったら、いっそ焼菓子をお休みしてかき氷を作ろうって。そうしたら、島のお客さんがたくさん来てくれるようになりました。家族連れで来てくれたり、なかには毎週来られるリピーターさんもいらっしゃいます」

未佑紀さんはさらにアイデアを出します。

カラフルなイラストがかわいい、コーヒーのパッケージ。

「焼菓子の詰め合わせの需要は、コロナ禍でもなくならなくて。だったらちゃんと箱もデザインして、オンラインでも販売したいなって。補助金制度を使って焼菓子の箱とコーヒーのパッケージのデザインをしてもらい、2020年の秋に完成しました」

分散させることで状況の変化に対応

実店舗とオンラインショップ、さらには貴道さんによるコーヒー教室も始めました。「収入を得る場所を3つに分散させたことで、状況が変わってもブレずに続けていける基盤ができたと思います」と貴道さん。2021年の夏には、島の素材を使ったクラフトコーラも完成しました。

自家製のクラフトコーラ、その名も「タコーラ」。

「以前は8割が観光客、2割が地元の人という印象でしたが、今や半分以上は島のお客さんに支えられています。それがとてもよかったなって。コロナがきっかけとなって、自分たちの理想の形に方向転換することができました」

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