世の中で起きた出来事を題材に、家族など「人とのつながりの大切さ」を丁寧に描く、香川県丸亀市在住の映画監督・梅木佳子さん。

4本目の監督作品となる新作は、ある悲しい事件のニュースをきっかけに作り始め、自身の子育て経験を踏まえた“子どもを守るための話”として誕生。そこには梅木さんの「母」ならではの思いが込められていました。

1作品ごとに「家族」を深掘りする、梅木さん

子どもを守る話を書き、希望へのメッセージへと繋ぐ

2022年夏公開予定の映画『虹色はちみつ』は、幼い頃に虐待を受けた経験のある女子高校生が、自分と似た境遇の女の子に出会い、自分の人生や家族、そして歩むべき道を見つめ直すストーリーです。

『虹色はちみつ』制作に繋がるニュースを梅木さんが知ったのは、2018年3月。香川から東京へ引っ越した女の子が、両親からの虐待で死亡したという話を聞き、「子育ての経験や相応の年齢を経た私が“子どもを守る話”を書かなくては」と強い衝撃を感じました。

脚本に向かい合うため、梅木さんは地元・香川県内の児童養護施設や病院、児童相談所の関係者に取材。「事件は絶望でしかないけれど、希望を持てる映画を作ってもらいたい」と、口々に語られる“希望へのメッセージ”を受け取ります。また取材を通じて出会った人々に「例え血のつながりはなくても、人を大切にすることで幸せになれる」と気づかされ、絶望ではなく、希望につながる物語として完成させました。

「この映画はドキュメンタリーではありません。物語です。しかし取材した現実が根底にあり、そこから“真実”を描こうとしました」

『虹色はちみつ』劇中のワンシーン

子どもを守るための、希望へのメッセージ。梅木さんは何十回も脚本を書き直し、撮影の5日前に『虹色はちみつ』のシナリオを完成させたのです。

『虹色はちみつ』のシナリオと絵コンテ

「子育ては、色々な人の手が加わった方がいい」

映画の撮影は2021年7月、昔ながらの街並みが残る香川県琴平町で行われました。劇中、生みの親に会いに行った主人公が育った家に帰ってくるシーンでは、“家族のつながりの大切さ”が丁寧に描かれています。

「バスの中で主人公が幼い頃のアルバムを見ながら涙します。それは、大切に育てられた思い出が蘇っているからなのです」

『虹色はちみつ』劇中のワンシーン

愛された思い出に向き合う主人公は、家族という大切なものへ向き合っていきます。それは“愛情をもって育てた子どもは必ず、愛情をもって人に接することができる”と信じる、梅木さんが込めたメッセージの1つの形かもしれません。

「映画は、作るというより作らされている感覚。何かが待っていて、近づくために動いているようです」

「私は従姉や父母、習い事の先生たちなど、色々な人に子育てを助けてもらいました。子育ての問題を1人で抱え込まず、誰かに相談したりお願いできる関係の存在に助けられたんです。おかげで、子どもも成人して大人になりましたが、人付き合いを含め、関わった人たちから様々なことを学んだように感じています」

子育ては色々な人の手が加わった方がいい、と語る梅木さん。子育て中に、他人の一言で救われたり、はっと気づかされることもあったそうです。

「子育てを親だけに任せず、地域の人たち皆で育てる意識を持って、助け合う社会になってもらえたらと思います」

『虹色はちみつ』金刀比羅宮にて、映画監督の梅木佳子さん(左)

希望ある物語『虹色はちみつ』の一般公開は、2022年夏を予定。ストーリーに加え、“古き良き時代の街並みを記録する”願いを込めて撮影された、表参道や石畳、木造の売店などの光景も見どころの1つです。

『虹色はちみつ』琴平駅にて、エキストラと梅木さん

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