岡山県奈義町にある通の間で人気を呼んでいるカフェ、その名も『そばカフェ木楽』。そばをメインに提供している店で、木工職人である草苅元践(もとふみ)さんが自らそばを打ち、自身が制作した家具などを使用・展示している。

絶品そばを求めて県内外からのリピーターが多く来店し、土日には予約なしだと待ち時間が大変長くなるという大盛況ぶり。3時間に100人超の来店者が訪れることもあるという。

カフェ厨房にて、そばを盛り付ける草苅さん

思いを込めたそばカフェ

カフェは、2011年に作業場の横に木工作品の展示場として建てられた。そこに食事ができる空間も併設したいと考え、草苅さん自慢のそばを出すことにしたのがそばカフェのきっかけだった。1万2000個以上のビー玉を使って那岐山を描いたというお手製のガラス戸が出迎えてくれる。

ビー玉であしらった玄関扉 

店内の机や椅子はもちろん、店内に設えられているモダンなタンスや両面から使える棚、特許を取った木皿などは全て草苅さんの作品で、オリジナリティー溢れるオンリーワンが並んでいる。

「一つとして同じものはないんです」
店内はまさに草苅さんワールド一色だ。

両面から使用できる棚

そばカフェの一番人気は木楽セット。奈義ビーフ丼と熟成ざるそばのコラボは、美味しさ間違いなしの組み合わせだ。

一番人気 木楽セット 2200 円(税込)

岡山県北に馴染みのないそばをどう伝えるか、のれんをくぐるような敷居の高い店ではなく、カフェ感覚で入ってもらえる店を考えていた草苅さん。“WOODYLIFE”木を楽しむという由来から名付けた『そばカフェ木楽』は、気軽に入れ、本格そばを食べられるという草苅さんが描いた理想の店である。

木工職人がなぜそばを?

岡山県南と奈義町で木工の個展をしていた草苅さん。元々そば打ちやそば屋巡りが趣味だったこともあり、屋根付きトラックに木工作品とそば打ちの材料を詰め込み個展会場へ。作品を展示している傍らでそばを打ち茹で上がったものをお客さんに振舞っていた。

その後、草苅さんは荒れた田んぼや畑にそばを植えたいという農家に、町づくりグループを通じて出会った。花を見て楽しむ、食べて楽しむそばは奈義町の特産品になるのではないかと考え、町づくりグループの15人でそば打ちの修行に行ったのがきっかけで、趣味の領域から本格的なそば打ちが始まったのだ。

修行先は、そば巡りをしていた時に出会った蒜山のそば屋で、味に感動し毎週奈義町から通って食べていたほどだった。

カフェ厨房にてそば茹で

こだわって作った独自のものを

「そばは同じ品種でも産地によって味が全く違います。 粉が違えば水の量も硬さも違うんです。奥が深い。自分がこれだと思う好きな味を提供しています」

さまざまな種類のそば粉を使い、水加減を調整、そばを打っては味や触感の確認を何度も繰り返し、自分好みのそばを追求すると話す草苅さんのこだわりは計り知れない。

そこまでしてそばを作る理由を聞くと、「こだわって作った独自のものに仕上げないと世の中に残らない。こだわれているおかげで、100%充実しています。“生きている”気がしますね」と言う。こだわり抜いて作る木工の仕事と、そば打ちは共通していたのだ。

店横のテラスにて 草苅さん夫妻(多朱子さん・元践さん)と看板犬の楽くん

「趣味が仕事であって、楽しいが一番。好きなことができるのは幸せです。妻と趣味も合い、一緒にできるのもいいですね」と話してくれた草苅さん。妻の多朱子さんもサイドメニューを考え一緒に店に立つ。それを幸せと感じる草苅さんの人柄も、店の人気の秘訣ではないだろうか。

コロナ禍で休業を余儀なくされたが、「木工の作業に集中できて良かったです。休みもめったに取れないし、カフェが忙しくて作品がなかなか作れずにいたんです」と草苅さん。休業中の店の現状は暗いものばかりだと思っていたが、楽しく話してくれる草苅さんを見て救われた気がした。

粗挽きで香ばしいそばを楽しむため、またオーダー制作にも応えてくれる店内に並ぶ美しい木工作品を楽しむために、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

この記事の写真一覧はこちら