日本三大まんじゅうの1つ、岡山の「大手まんぢゅう」。たっぷり詰まったこしあんと、あんが透けるほどの薄皮が特徴の、地元で愛される名菓です。その製造元で、1837年創業の大手饅頭伊部屋は、近年観光地にカフェをオープンしたり、小豆の皮で染めたエコバッグを製作したりと、まんじゅう店のイメージにはない、新しい取組みを積極的に仕掛けています。そのキーマンである常務の大岸聡武さんに、取組みの狙いや見据える将来について尋ねました。

大手まんぢゅう

看板、広告塔としてのカフェ

岡山県随一の観光名所、倉敷美観地区に2020年3月にオープンした「大手まんぢゅうカフェ」。蒸籠で蒸した大手まんぢゅうをはじめ、大手まんぢゅう専用焙煎コーヒーやソフトクリーム、かき氷などを提供しています。

大手まんぢゅうカフェ 内観

こだわりは、他のカフェにあるようなメニューは置かないことです。
「おいしいものを出すのではなく、大手まんぢゅうとあわせておいしいものを出しています。『そこに関わらないものが欲しいです』と言われると、それは『ありません』と」

蒸したて大手まんぢゅうセット 税込み770円

差別化したメニューの効果もあり、普段はまんじゅうを食べない、若い世代が足を運んでくれているといいます。
「まんじゅうは主に年配の方メインのお菓子ですが、人口が減っていく中、若い層にも広げていかないといけないと思うので」

大手まんぢゅうのかき氷(ほうじ茶・トッピング付き) 税込み880円

コロナ禍の最中にオープンし、2021年も予定日数の半分ほどしか営業ができないなど苦戦しています。しかし、来店客が少なかったとしても、この場所に店を構えていること自体に意味があると、大岸さんは話します。

「一番の広告塔、看板になるので。前を人が通るだけでも、知ってもらえて、帰りに駅で買っていただけるかもしれないですし。県外の方が岡山に来て、大手まんぢゅうのことを全く知らないまま帰っていくということも結構あるので、少しでも話題に上がればと」

「観光客に知ってもらえる場になれば」と話す大岸さん

捨てられる小豆の皮を価値あるものに

大岸さんは、家業である大手饅頭伊部屋に就職して以降、まんじゅうの製造後に大量に廃棄される小豆の皮を、何かに有効活用できないかと考えていました。そこで地元企業と協力しながら開発したのが、小豆の皮で染めたエコバッグです。

小豆の皮で染めたエコバッグ

製作費、プロジェクト運営費として2020年12月から2021年1月にかけてクラウドファンディングを実施したところ、目標金額を大きく上回る資金を調達でき、手ごたえをつかみました。現在は直営店などで試験的に販売を行い、バッグの改良を進めています。

「(クラウドファンディングを)支援してくれた方の中には、『大手まんぢゅうが好きだから』という方もおられましたし、『取組みが素晴らしい』と言っていただいた方もいますし、『地元で作られた物を使いたい』という方もおられました。会社のファンになっていただけたらいいなという方々のところに届いたので、よかったなと思います」

環境への配慮や、地産地消への意識が年々高まる中、まんじゅうのおいしさとは違ったストーリーを作り出すことで、いろいろな人と接点をつくり、新たなファンを獲得することにも成功していたのです。

まんじゅうを残していくために

まんじゅう業界は今、コロナ禍によって観光や出張などでの土産としての購入が激減し、苦境に立たされています。そんなまんじゅう業界を動画コンテンツで盛り上げようと立ち上がった「まんじゅうEXPO2021」というプロジェクトがあります。大岸さんは、7月17日に開かれるキックオフイベントに、ゲスト出演する予定です。

「まんじゅうEXPO2021」のチラシ

「今あるおまんじゅうをどうやって食べてもらうか、売っていくかというところに焦点を当てているので、こういったイベントでおまんじゅうに注目していただけるのはありがたいかなと。協力できることは協力したいと思っています」

カフェの運営やエコバッグの製作、そしてイベントへの参加。こうした取組みの数々は、全てがまんじゅうの会社としてこの先も生き残っていくための挑戦です。

「うちは会社名に“大手饅頭”って入っているので、他のものを売って生きていくことができないんですよ。おまんじゅうを残していくことが会社を残していくことでもあるので。少しでもファンを作っていきたいという思いがあって、いろんな取組みをしていますね」

「おまんじゅう屋さんが元気を取り戻していくようなイベントになれば」と期待している

人々が手に取るお菓子の選択肢は年々増える一方で、待っているだけでは売上は減っていくのみだと話す大岸さん。一方で、若い世代や、認知度が低い県外の顧客を獲得していくことで、まだまだ販路を広げていくことが可能だと展望しています。

商品は変えずに、生き残る手段を模索し続ける。老舗まんじゅう会社の挑戦は続きます。

この記事の写真一覧はこちら