「いちおう肩書きはジャズチューバ奏者なんだけど、クラシックじゃないチューバ奏者っていうのが一番分かりやすいのかな。ライブハウスとかでやる方です」

インタビューの冒頭、「ブラスベーシスト」のTOHOさんは自らの立ち位置について、このように表現してくれました。チューバといえば、吹奏楽やオーケストラといったクラシックの世界で、低音を支える屋台骨としてのイメージが一般的かもしれません。しかし、彼の場合は少し勝手が違います。

所属するバンド、ハチャトゥリアン楽団、Pedal Voxでの演奏のかたわら、サポートミュージシャンとしての顔も。特にユーフォニアム、チューバ、ドラムという編成の後者では、ソロ楽器としてのチューバの可能性を追い求めています。また一方で、音楽劇『三文オペラ』でのドレスコーズ・志磨遼平さんとの共演をはじめ、華やかな経歴も残してきました。

チューバを始めたきっかけこそ吹奏楽でしたが、ジャズの本場・アメリカへの留学を経て、音楽への向き合い方が大きく変化したTOHOさん。エレキベースやウッドベースに取って代わる存在を目指す彼に、チューバという楽器が持つ可能性と自身のビジョンを聞きました。

TOHO(東方洸介/とうほう・こうすけ)
1988年、宮城県生まれ、和歌山県育ち。中学校入学と同時にチューバを始め、全日本吹奏楽コンクールにも出場。愛知県立芸術大学を卒業すると単身渡米し、北テキサス大学でジャズ理論を学びながら、現地のディズニーランド・リゾートで学生選抜のバンドの一員として演奏するなど活躍した。帰国後は東京を拠点に、チューバ奏者ならぬ「ブラスベーシスト」として活動。エフェクターやサンプラーを取り入れるほか、演奏動画の制作にも積極的に取り組むなど、従来のチューバ像にとらわれないスタイルを模索している。

とんだ勘違いが「モテない」楽器を手にする運命を呼び込んだ

サンプラーを使った演奏の模様。さながら「鬼才」といった雰囲気

TOHOさんとチューバの出会いは中学校時代。強豪校ひしめく関西で、数多くの好成績を収める吹奏楽部に入部したことが契機でした。希望パートの調査では「モテたい」との理由からサックスを選択するも、あえなく選考漏れ。ホルンのことをチューバと勘違いし、第2希望を「チューバ」にしたばかりに「引き立て役」の大きな楽器を手にするに至りました。

「え、この楽器知らんし」

これこそが、実際のチューバと対面した中学1年生の偽らざる胸中。顧問からは「続けたら(パート変更を)考えなくもない」と伝えられましたが、3年生のときにはパートリーダーを任され、「オレ、先生にだまされたな」と気がついたそうです。結局3年間、チューバを担当したTOHOさん。全国大会の大舞台も経験しましたが、どうしてもぬぐえない思いがありました。

自らのこれまでを振り返るTOHOさん

「やっぱチューバ嫌いだってさ、じゃあ『なんでチューバ嫌いなんだろう』って思ったら、チューバ奏者でかっこいい人が自分の視野のなかにいなくて」

サックスはもとより、ギターやドラムを始める背景には、「バンドを組みたい」といった明確な目的意識が往々にして働いているもの。かたやクラシックの世界では、パートの選択はTOHOさんのように運命に翻弄される面が否めず、ただ漫然と演奏をしているという状況に陥ることも少なくありません。

深い森に包まれ、何を思うか

ですが幸いにして、目立ちたがりのTOHOさんは中学校生活を通して、ひとつの目標を見つけることができました。それは不本意ながら始めたチューバを、かっこよく見せるというものでした。

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