みなさんは「もんぺ」をご存知だろうか?

最近では、ゆったり履けてサラッとした着心地からオシャレな部屋着としても販売されているが、「もんぺ」と聞いて思い浮かぶのは、田園風景の中で農作業を行う女性たちが履く野良着としての姿ではないだろうか。

作業着にも部屋着にもなる農村の万能ボトムス”もんぺ”

そんな作業着としての印象が強いもんぺと地域の先輩お母さんたちから譲り受けた割烹着を晴れ衣装として身にまとい、おんぶ紐で乳飲み子を背負ったままステージに立つ若い"母ちゃんたち"が、岡山県美作市にいる。いで立ちは、古民家の土間で家事をしている最中にそのまま飛び出してきたような姿さながら。それがこの記事で取り上げる「もんぺーず」である。

会場に響く母ちゃんたちの声

もんぺ×割烹着×サングラスでエアギター

2020年11月14日・15日の2日間、岡山県美作市上山の大芦高原キャンプ場にて野外音楽フェス「Unkai Natural Camp2020!」が開催された。40組以上のDJやミュージシャンが2日間に渡って出演、各種フードも並ぶ人気のフェスだが、森の中に設営されたステージで堂々と先陣を切ったのは、もんぺを着た母ちゃんたちだった。ボーカル、ダンサー、キーボード、バイオリンを務めるのは母ちゃんたち。そして、ドラムとベースはサポートメンバーとして女装をした父ちゃんたちが務めた。

昭和歌謡や童謡などのカバー曲が続く中、最後にはオリジナル曲「母ちゃんのブルース」を披露。カバー、オリジナル、共にくすっと笑えるような作詞や振り付けがされているが、内容は単にふざけているだけではなく聴いていて惹き込まれる。

日頃の家事や育児でたまったうっぷん。それでもやっぱり大好きな子供のこと。母ちゃんたちが日常の中で抱いているリアルな感情や思いを歌詞に盛り込んで叫ぶ姿は、どんなに飾られた言葉が並ぶ歌よりも心に響くものがある。

パフォーマンス後、観客は日頃の労いの意味も込めて、子育てに奮闘している母ちゃんたちに拍手を送りたい気持ちにさせられる。他の出演者たちとはまた違った楽しみや気づきを与えてくれるバンドだ。

どうして”もんぺーず”は結成されたのか?

ライブ終了後、写真中央で手を挙げているのが梅谷奈々さん

もんぺーずのメンバーの1人である梅谷奈々さんに、バンド結成の経緯やパフォーマンスをしていて感じていることについて話を聞いた。

Q.もんぺーず結成の経緯は?
「結成は2018年。7月に”NHKのど自慢”が美作市にやって来るということで、知り合いのお母さんたちでチームを作って出場してみようとなったことがきっかけです。結果的にNHKのど自慢は西日本豪雨災害の影響で中止になってしまいましたが、その数か月後に開催された音楽イベントへの出演のお話をいただき、初めてパフォーマンスを披露させていただきました。」

Q.なぜ、もんぺを履くことに?
「NHKのど自慢に応募する少し前のことになりますが、子育て中のお母さんたちが集まるサロンの中で、お母さん同士がやってみたい企画を提案し合いました。その中で、もんぺづくりを地域の先輩お母さんに教えてもらうことになり、好きな柄の布をそれぞれ持ち寄って自作したんです。そうしたら、もんぺづくり自体が楽しくて、柄も現代版の可愛いものができました。のど自慢大会に出ることになった時に、みんなで作ったもんぺを衣装にしようという流れになって、名前もそのまま「もんぺーず」に。バンド名はすぐに決まりました(笑)」

Q.もんぺーずの活動が暮らしに与える影響とは?
「子育てをしているお母さんたちとは、同志や戦友のような関係です。そんな”母ちゃんたち”で集まって、しゃべったり、歌ったり、踊ったりしながら楽しんで暮らすことができれば、子供も家庭もきっと楽しいものになっていく。そうした思いを込めて、もんぺーずとして活動しています。」

おわりに

もし結婚をせず、子供が産まれていなければ、別の人生を送っていたであろう母親たち。家族を得る幸せは大きくかけがえのないものだが、それと引き換えに自分だけの時間は減ってしまうもの。日々の家事や育児の合間を縫ってパフォーマンスを磨くもんぺーずメンバーの姿には、自分たちなりに工夫して息抜きしながら楽しく生きるたくましさを感じる。そして、そんな母親たちに協力する父親たちの存在も忘れてはならない。

もんぺーずは、岡山県内のイベントや福祉施設への慰問なども行っている。近くでその姿を見る機会があれば、目、耳、身体をフルに稼働させてパフォーマンスを楽しんでいただきたい。

母ちゃんたちがステージから戻ってきて子供たちも一安心

ライブを見守る父ちゃんの姿

NPO法人英田上山棚田団 水柿大地

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