生まれてすぐ難病と診断された男性 2年間の不登校を経験し…その後、25歳となった今。夢に向かって挑戦し続ける生き方に迫る

生まれてすぐ難病と診断された男性 2年間の不登校を経験し…その後、25歳となった今。夢に向かって挑戦し続ける生き方に迫る
ハンドメイドイベントでのなみきさん(@namiki_handmadeさんより提供)

あるハンドメイドのイベントで、自身の手の形を“手羽先”にたとえ、器用に裁縫をしながら「いらっしゃいませ~」と元気に呼びかけている男性がいました。

その男性は、なみきさん。
「手羽先ハンドメイド作家」として、障がいの特徴が表れている手を使ったハンドメイド作品を作っています。

生まれたときに国の指定難病である“VATER症候群”と診断され、たくさんの手術を受けていました。現在は、ハンドメイド作家のみならず、イベントMC、テレビ出演などのさまざまな活動や挑戦をしています。

そんななみきさんに、病気のことやハンドメイド作家になったきっかけなどについて話を聞きました。

※VATER症候群(VATER連合)…複数の先天性奇形が同時に見られる疾患群。椎体異常(Vertebral abnormalities)、肛門閉鎖症(Anal atresia)、気管食道瘻(Tracheo-esophageal fistula)、橈骨異常(Radial anomalies)、腎臓の異常(Renal anomalies)の5つの症状の頭文字をとって名付けられています。

生まれつきの障がいと向き合って

なみきさんは、生まれてすぐに国の指定難病“VATER症候群”と診断されました。消化器・泌尿器・四肢・背骨など、全身にわたる先天的な障がいが複合的にあり、生後すぐから複数の手術や治療を受けてきました。

乳児期は嚥下機能に障がいがあり、生後1日目に食道がつながっていない状態(食道閉鎖症)のため吻合手術を受けました。その後も、幼い時期は胃ろうで直接栄養を摂っていたといいます。一方、排泄機能にも問題があり、ストマや膀胱瘻の造設手術も経験しました。転倒による頭部手術や感染症による入院もありましたが、小学校・中学校は通常学級で学び、周囲の理解と支えのもとで学校生活を送ってきました。

なみきさん(@namiki_handmadeさんより提供)

15歳を過ぎる頃からは体調も安定し、風邪やインフルエンザでも重症化しなくなり、現在25歳。医療的な処置は継続しているものの、健常者に近い日常生活を送れています。

嚥下機能も徐々に改善し、現在は「食道が細く食事に時間がかかる」程度で、日常的な支障は最小限です。また、右手の指が少なく左手の親指が機能しないため握力はなく、物を挟んで持つなど工夫しながら生活しています。重い物や人を運ぶことは困難ですが、日常動作には慣れています。

排泄は現在も膀胱瘻からの留置カテーテルによって行い、月1回の交換処置を続けていますが、外出先などで障がいを意識することは少なくなったそうです。

「これが僕のデフォルト設定なので、あまり気にしていません」と、穏やかに笑って語ってくれました。

支えと葛藤が交錯した思春期

幼稚園・小学校時代のなみきさんには、両親や先生、同級生など多くの人が寄り添い、手助けをしてくれました。そのおかげで、普通学校の普通学級で成長することができたといいます。

「ただ、僕がその環境に甘えてしまって(笑)」と、当時を振り返るなみきさん。

思春期に入ると、徐々に同級生と距離ができたり、高校選びの際には「手がかかるから」と進学先に断られた経験もあり、周囲との関係に悩みを抱えるようになります。
「現在も人との関係に慎重になることがあるし、未だに周りと揉めることもあります」と、正直な胸の内も明かしてくれました。

幸いなことに、障がい者であることでの差別や深刻ないじめはありませんでしたが「ちょっと机を離される」など、距離を置かれているように感じる場面はあったといいます。

中学校では気力を失い、2年間の不登校も経験しましたが、その後は定時制・単位制の高校に進学。パソコンを学び、卒業後は正社員の事務員として3年間勤務しました。通院日への配慮をお願いする程度で、職場では健常者と同じように働き、“できることはやれ”という周囲の励ましを力に変えて、自分自身でも実行してきました。

ハンドメイドイベントでのなみきさん(@namiki_handmadeさんより提供)

独学で編み物に挑戦

現在、なみきさんは「手羽先ハンドメイド作家」として、マルシェの出店に加え、狂言やMC、ドライブなど多方面で活動しています。
「好きなことをやらせてもらえてありがたい時間を過ごさせていただいてます」

ハンドメイド歴は10年。
ハンドメイド作家として活動するようになったきっかけは妹さんが生まれたことでした。

妹さんが生まれたのは、なみきさんが15歳のころ。歳の離れた妹さんが唯一の兄妹で、そのとき不登校で時間だけはあったというなみきさんは、おくるみとベビーキャップ・ベビーミトンを、YouTubeの動画などを見ながら独学で編み物を覚えるところから始めてみたのです。

なみきさんの作品(@namiki_handmadeさんより提供)

最初は妹さんに向けておくるみを編み、帽子やおもちゃのガラガラを作り、小学校入学前には、上靴袋、体操袋、ナフキンや巾着などを作りました。それは今でも妹さんが使ってくれています。
「本当に嬉しく、作り直しを頼まれるときもあるので、家族が喜んでくれるのは創作において一番の栄養だなと思います」と語っていました。

勇気をだして自分を出すことに

なみきさんは、もともと狂言で舞台に立ったり、祖父母の露天で呼び込み接客をしたりなど、人から注目されることが好きでした。

そこで、事務員を辞めて何をするかと考えたときに、以前から料理を投稿していたインスタグラムとTikTokで、マルシェの出店告知をするための投稿を増やしていく、一般的なハンドメイド作家と同じような作品や料理中心の投稿で人と繋がろうと思っていました。そのため、障がいのことなどはあまり表に出さずに発信をしていたのです。

狂言で舞台に立つなみきさん(@namiki_handmadeさんより提供)

その後、地元・福岡のタレントさんが主催する障がい者・健常者問わず交流できる芸術イベントに、物販で参加しました。それをきっかけに「ここで繋がれば、兼ねてからの夢の表舞台に立って人に注目してもらう活動ができるんじゃないか」という考えを持ったのです。

喋りの動画を見てもらうなどをして勉強し、そしてマルシェでの呼びかけ動画がきっかけで注目され、自信がついたことから、自分を出す方向に活動の舵を切って今に至るといいます。

「これあんたの手の形とそっくりやね」と母の言葉がきっかけに

「手羽先ハンドメイド作家」として自身を表現し始めたのは、小学生のときに、母が調理していた手羽先を見て「これあんたの手の形とそっくりやね」と話題にしたことがきっかけでした。

なみきさんの手(@namiki_handmadeさんより提供)

その表現を気に入ったなみきさんは、自分の手の形を指摘されたときに、ユーモアで返すようなやり取りを学生時代から続けてきました。その姿勢は社会人になっても、ハンドメイド作家として活動を始めてからも変わりませんでした。

当初は「障がい者ハンドメイド作家」や「Nami’s crocheter shop」など、ストレートな表現や洒落た英語の名前を使っていましたが、もっとインパクトがあり覚えてもらいやすい名称を、と考え「手羽先ハンドメイド作家なみき」と名乗るようになりました。今では名刺や自己紹介でもこの名前を使っています。

いろいろなことに挑戦し、明るく前向きであるなみきさん。
そういった活動ができている理由には、このような動機がありました。
「周りで支えてくれる家族、芸能界で尊敬している方、脳性まひの障がい者ながらパフォーマーとして活躍している師匠、芸能の道に導いてくれた芸人さん、SNSで応援してくださる皆さんや、実際に買い物に来てくださる方々など、多くの人に見守られて、時には激励してくださる温かい方がたくさんいることが、僕の幸運なところで、そこに感謝してもっと大きくなりたいです!」

なみきさんの作品(@namiki_handmadeさんより提供)

また、人から「できないやろ」と言われたら「しれっとできるようになったらおもろいやろなぁ」という思いで、できないことを一つひとつできるようになって身につけていく、という生き方をしています。
「人を見返して、人に驚いてもらって、せっかく生きているのなら1人でも多くの人に記憶に残ってもらいたい、のような動機で活動しているので前向きに見えるのかもしれません」と語ってくれました。

「福岡の障がい者タレントといえば、山本波輝だよね!」と言われることを目指して

この1~2年で、YouTube生放送番組のMC・博多駅前のイベントMC・ショートホラードラマで主演、地元の地上波番組での密着取材の特集でのテレビ出演、イベントの運営の中枢で立ち上げつつMCなど、おかげさまで、少しずつ活動範囲を広げているなみきさん。

イベントのMCを務めるなみきさん(@namiki_handmadeさんより提供)

司会経験や、講演会、役者など表舞台に立っていろいろ方とのご縁を広げながら、ゆくゆくは「福岡の障がい者タレントといえば、山本波輝だよね!と言っていただけるような存在になりたいです!まだまだスタート地点ですが、上を目指してこれからも頑張りたいと思います」と今後について話してくれました。

「ハンドメイドを絡めるのであれば、狂言や歌を披露できるステージ付きの喫茶店を経営しながら、いろいろ作家さんを集めてマルシェの主催や委託販売しつつ、ステージでイベントもやるみたいなこともやってみたいです」

ハンドメイドのイベントを行っている動画には「いらっしゃいませ~。こんにちは~」とアクリルたわしを編みながら、なみきさんは元気な呼びかけをしていました。元気な声と笑顔、そして器用に編み物をする姿には驚きと同時に、元気をもらえる気がします。障がいがあってもできることをするというなみきさんの前向きな生き方に、元気をもらった方も多いのではないでしょうか。

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