日本を代表する伝統芸能、歌舞伎。岡山県奈義町には、江戸時代後期から受け継がれてきた「横仙歌舞伎」があります。横仙とは、奈義町の辺りを指す古い地名で「山の横」という意味です。県の重要無形民俗文化財にも指定されている横仙歌舞伎は、農村歌舞伎の姿を現在に伝えるものとして、地元保存会や多くの人々今も大切にされており、年2回の定期公演を中心に、保存伝承活動が続いています。
4月下旬、2年ぶりに横仙歌舞伎四季の公演「春」が行われました。会場は公演を待ち望んだ町民であふれ、久しぶりに観客を目の前に舞台に立った役者が、大胆な身振りと繊細な演技で生き生きと演じる姿がありました。
「舞台に立つのも、舞台の裏で黒子をするものどちらも楽しいです。舞台上の演者を黒子として陰で支えることで、演者を目立たせることができるのが喜びでもあり、楽しみでもあります」
そう話すのは、高校生の髙橋涼成さんです。鮮やかな化粧と華やかな衣装を身に着けた子ども歌舞伎教室のメンバーの横で、黒い衣装を身にまとい裏方を務めていました。
現在高校1年生の涼成さんは、横仙こども歌舞伎教室に小学4年生から中学校卒業までの6年間、参加し続けてきました。
高校生になっても歌舞伎を続けていきたいと話す涼成さんに、歌舞伎の楽しさや横仙歌舞伎を続ける思いを聞きました。
横仙こども歌舞伎教室
「横仙こども歌舞伎教室」は、奈義町で小中学生を対象に開催されている歌舞伎教室で、現在14人で活動しています。春と秋の定期公演の他、地方公演等に向けて、公演の数か月前から放課後に約1時間程度練習をしています。
希望者が参加することできる横仙こども歌舞伎教室とは別に、奈義小学校では、伝統文化を後世につないでいくために、歌舞伎を学ぶ授業があります。
「小学3年生の時、学校の授業で歌舞伎体験がありました。横仙歌舞伎を教わったのがとても楽しくて、歌舞伎の先生に褒めてもらえたのがすごく嬉しかったです」
涼成さんは、学校で横仙歌舞伎について学んだ後、歌舞伎に魅了され、横仙こども歌舞伎教室生のメンバーとして毎年舞台に立ち続けています。
歌舞伎の楽しさと歌舞伎を続ける思い
「歌舞伎の独特の口調を出しながら、いろいろな役になりきるのが難しいです。初めてしたおばあちゃん役は、すごく緊張したけど、歌舞伎は男性が女性の役を演じることもあるので、女性役を演じるのはひとつの挑戦だなと思いました」
「今までやって楽しかった役は、自分の権力を振りかざす悪人の役。ぼくはコミュニケーションをとるのはあまり得意じゃないけれど、歌舞伎を通じていろんな役を演じることで、自分ではない人をなりきることができるが楽しいです」と話す涼成さん。
歌舞伎教室の練習が始まると、独り言のようにセリフを言ったり、ノートに書いたりしながらセリフを頭の中に叩き込み、家族にも協力してもらいながら動きの練習などをするそうです。
幼い頃から、祖母がしてくれていた昔話や民話を聞くのが好きだったという涼成さんは、今でも、各都道府県の歴史や民話を知るのが好きで、歌舞伎を習い始めてからは、昔話を伝えていきたいという思いが強くなっていったそうです。
「横仙歌舞伎をやってみて、それぞれの地域の伝統文化を継続していく大人たちを見て、それらを未来へ受け継いでいくことの大切さを知りました。これからも歌舞伎を続けて、歌舞伎を教えてくれた人たちのように、将来はぼくが歌舞伎を伝える立場になって、これからの子どもたちに還元していきたいです」
公演後の見送りで、町内外の観客から「よかったよ!」「がんばってね!」と応援してもらえることが、歌舞伎をしている中での一番の喜びであり思い出と話す涼成さん。
横仙こども歌舞伎教室を卒業したメンバーは、今後、横仙歌舞伎保存会メンバーとして舞台に立つ予定。江戸時代から伝わる伝統芸能「横仙歌舞伎」を引き継ぐ若手エースたちの今後の活躍が楽しみです。