「障がいの有無を自然に越えていける場を目指して」音楽やファッションを通じて共生を目指す女性に話を聞いた

「障がいの有無を自然に越えていける場を目指して」音楽やファッションを通じて共生を目指す女性に話を聞いた
弟の文字が書かれているgoodbrokencharm

加藤海凪さんは、2004年愛知県生まれ。現在、明治大学3年生(休学中)だ。2025年にはForbesが選ぶ「世界を救う希望」100人、次代を担う新リーダーたちに選定されるなど、注目の若手デザイナー&起業家である。ファッション分野に留まらない彼女の活動の背景に迫った。

進路選択が変えた価値観の転換点

「幼少期から洋服が好きでした。途中からおしゃれな母親から貰った服を好んで着るようになりましたね。両親の影響でフェスなどの文化的なイベントにも小さい頃からよく参加していて、そこで出会ったおしゃれなお姉さんお兄さんたちに憧れて、よりファッションを楽しむようになったんです。自らがファッション好きだと明確に意識したのは中学生の頃でした」

中学3年生の頃から、どんどんファッションにのめり込んでいった加藤さん。高校3年生だった2022年8月。学校での案内をきっかけに、名古屋市主催の起業体験プログラムへ参加した。

だが、周囲が社会課題について一生懸命取り組む中で、なかなかしっくりするテーマが見つけられずにいた。そのとき、メンターから「それは、社会課題を身近に感じていないからでは?」と言われたことで、はっとさせられる。

「そういえば身近に社会課題があったなと思いました。実は、弟がウィリアムズ症候群という知的障害で、難病指定もされています。ダウン症にも近い症状で、人懐っこく音楽好きな性格的な傾向があります。また、母親も放課後デイサービスで児童福祉分野の仕事をしていることもあり、身近なテーマとしてインクルーシブファッションがありました」

このプログラムをきっかけに、インクルーシブファッションについて本格的に考えるようになった加藤さん。メンターの方がアップサイクル事業を若者たちと取り組んでいることにも大きく影響を受け、自分もものづくりをしたいと思うようになったという。

「何度もアイデアをダメだしされる中で、もっと世の中にない、面白いものをとメンターに求められ、よだれかけをおしゃれにするという取り組みに行き着きました。メンターからも、すべての人がよだれがついても気にならない社会を作りなさいと言われ、ぶっ飛んでいて面白いと感じています。でも、インクルーシブファッションという打ち出し方をすることには違和感を抱いています。障がい者を受け入れるためのファッション、というニュアンスになることは違うなと思っています。障がいの有無に関わらず、誰もがフラットに、おしゃれだから着るというものにしていきたいという思いがあります」

挑戦からつながった受賞と注目

昨年には、加藤さんと東京大学生3名のグループでNext Fashion Designer of Tokyo 2025に応募。インクルーシブデザイン部門の特別選抜賞に選ばれた。東京都が主催する、世界で活躍するファッションデザイナーの発掘・育成を目指して開催されたコンクールだ。この受賞をきっかけに注目度がより高まっている。

コンクールで受賞した作品(東京都産業労働局提供)

「出場者は服飾系の学生ばかりで、正直無理だと思っていました。私は裁縫とかできないので、感覚でこういうデザインがいいのではないかと意見を言い、それを仲間の大学生が形にするという役割分担でした。期間中はとにかく必死で取り組んでいたので、あまり覚えていないことが多いです。自分自身がデザインしたものが、最終審査で実際にプロのモデルさんが身につけてランウェイを歩く姿を見て、本当にファッションになっているんだ、と感動しました。また、汚れを受け入れるというコンセプトだったので、あえて真っ白なデザインにしたんですが、それがかっこいいと評判でしたね」

実用性と遊び心を融合させたブランド展開

2025年4月に株式会社SAFEID(セイフアイディ)という会社を設立し、11月からflexibibというブランドで、よだれかけを販売している加藤さん。知的障がいのある人だけでなく、加藤さん自身も食べこぼしたり、コーヒーをこぼしたりする、そういうのが隠せる便利なものという捉え方もしているという。

flexibib

また、good broken charm(グッド・ブロークン・チャーム)というブランドで、弟の描く文字をモチーフにしたパンツや靴下なども展開している。

「弟の文字はかわいくて、言葉選びも面白いんです。この前も、弟に、何か英語でおしゃれな感じで書いてと頼みました。すると、ちょうど仕事を早退して母から怒られていたところだったので『早退しない』って書いたんです。面白いなって思ってそのまま服にしちゃいました(笑)弟も楽しいみたいで、いつもノリノリで文字を書いています。最近は自分の事を『おしゃれ番長と呼んで』って言ってますね(笑)」

弟の文字が書かれているgoodbrokencharm

誰もが参加できる“フラットなフェス”を目指して

また昨年11月から、福祉やファッションと音楽や文化などがフラットに交わるフェスのような楽しい機会、場作りにも取り組んでいる加藤さん。「!⇆!」というタイトルで活動している。このタイトルには、誰も読めないことでみんな隔たりがないという意味を込めており、インターチェンジと読む。2025年度のグッドデザイン・ニューホープ賞にも入選した。

「先日もヒップホップイベントに出店したんですが、福祉とか全然関係なく、かっこいいとデザインしたものを購入してくれる人がいたのがとても嬉しかったです。また、ファッションに関心を持ってくれて、障がい者支援に関する施設でアルバイトを始めた友達もいます。そうやって、双方向に影響し合う形を生み出せて嬉しいなと思います。音楽やカルチャー、ブランドを通して、障がいの有無を自然に越えていける、そんな場づくりや作品づくりをもっともっとできたらと思っています。」

インターチェンジの様子

加藤さんの取り組みには、被支援者としての障がい者という点がまったくない。非常にフラットな取り組みで、まさに共生社会を体現している。これから加藤さんが仕掛ける越境的な場づくりに目が離せない。

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