日常の中で、ふとした瞬間に人の温かさに触れることがあります。終電間際の満員電車で恐怖に包まれたとき、思いがけず差し伸べられた“見知らぬ手”が、その後の生き方まで変えてくれることもあるのです。
今回は、40代の会社員・佐藤さん(仮名)が体験した出来事をご紹介します。
終電間際の満員電車で
ある夜、佐藤さんは終電間際の満員電車に乗り込みました。
そこで数人組の酔った乗客に目をつけられ、「カバンが邪魔だ」と言われたり、「見ていただろう」と絡まれたりしました。
さらに、持っていたIT関連の雑誌を落とされ、資格試験のテキストを取り上げられては、学歴をからかうような言葉を浴びせられたといいます。
体が固まって動けなくなり、殴られるかもしれないという不安が募るなか、周囲の乗客は目を伏せ、誰も介入できない状況でした。
救いの一言
そのとき、「おっと、すみませんよ。私の友達に用かね?」と、スーツ姿の初老の男性が佐藤さんと集団の間に割って入りました。
自然でありながらも強い声は、重苦しい空気を一変させました。
「神様が現れたと思いました」と佐藤さん。
涙が出そうになるのをこらえながら、ただ「ありがとうございます。本当に助かりました」と繰り返すしかなかったといいます。
ホームで交わした短い会話
次の駅でその男性が降りると聞き、佐藤さんも慌ててついて行きました。
ホームに降り立つと、「大丈夫か?もう平気か?」と声をかけられたそうです。
「はい、本当にすみません…」と答えると、男性は「いいや、ああいう時は理屈が通じんからな。若い頃はよく似た目に遭ったよ。気にするな。お互い気をつけような」と笑顔で肩を叩き、そのまま去って行ったといいます。
名前も分からないまま、その姿は人混みに消えていきました。
体験から生まれた決意
この出来事をきっかけに、佐藤さんは「自分もあの人のようになろう」と強く意識するようになったといいます。
「以前は無関心を決め込むこともありましたが、以来、電車や街中で困っている人を見かけたら『大丈夫ですか?』と声をかけるようにしています。小さな勇気の連鎖が社会を優しくするのだと学びました」
家族や同僚に話すと
この体験を家族や同僚に話したところ、妻は「怖かったね、でも優しい人がいて良かった」と安心し、同僚は「俺も見かけたら何かしないとな」と共感してくれたそうです。
話すたびに当時の感謝の気持ちが蘇り、自分の行動にもつながっていると佐藤さんはいいます。
勇気は小さな一歩から始まり、その一歩が誰かの人生を支えることもあるのだと実感する体験でした。
