「素敵なウェディングドレスを着たい」という思いは、多くの人が抱くものでしょう。

車いすユーザーの渋谷真子(@s_maco_)さんがXで車いすユーザーのためのウェディングドレス作りについて投稿すると「美しい」「素晴らしい」「広まってほしい」など多くの人からの注目が集まりました。

こちらのウェディングドレスは、渋谷さんと山形県立鶴岡中央高等学校の総合学科の生徒が一緒に作ったものです。

ウェディングドレス作りについて、渋谷さんに話を聞きました。

ウェディングドレスを作ることになったきっかけ

ーこのウェディングドレスを作ることになったきっかけについて教えてください。
私が住んでいる山形県鶴岡市には「つるおかシルク」という今も養蚕から絹織物まで一貫工程が残る、国内唯一の地で作られた日本遺産にもなっているシルクがあります。地元の高校、山形県立鶴岡中央高等学校の総合学科ではそのシルクを使ってドレスを作るという授業が以前から行われていました。そこで、私が「車いすの人も着れるウェディングドレスはあるけど、もっと全体をドレスで覆えるようにはできないか?一緒にやれないか?」と学校側にお願いをして製作することになりました。

ウェディングドレス②(@s_maco_さんより提供)

車いすユーザーになった経緯について

渋谷さんは2018年4月、茅葺きの葺き替え職人である父の仕事を継ぐため、会社員を辞めました。
しかし、その矢先の同年7月12日の仕事中、屋根から転落し脊髄損傷という障がいを負い、車いすユーザーになりました。

ー車いすユーザーになる前と後ではどのように生活が変わりましたか?
変わったことは多くあるため、一概には言えませんが…「気軽に自分の意思だけで動く」ということができなくなりました。その日にどこか1人で出掛けたいと思っても、車いすで行ける道なのか?段差があるのか?車いすでも行けるようなお店なのか?エレベーターがある駅なのか?車いす用の駐車場があるのか?など、さまざまな疑問点を解決しないと1人で動くにはハードルが高い場合が多くあります。
フットワークは軽い方ではありますが、ちょっとそこまで出ようと思うことがなく、計画して出るようになりました。

ー車いすユーザーになったときの心境を聞かせてください。
よく皆さんが想像するような落ち込んで泣くようなことはほとんどありませんでした。脊髄損傷は今の医学では治らないといわれている怪我です。だからこそ、自分が今ここで「歩きたい」と泣き叫んでも悔やんでも何も変わらないと思いました。それよりも、いつか医学が発展したそのときのために、筋肉や骨を維持しておくためにリハビリを頑張ろうと思いました。

ーそのあと、さまざまなことにチャレンジされるほど活動的になったきっかけなどがあれば教えてください。
活動的になったのは、当時海外の車いすユーザーをInstagramで見ていたことがきっかけです。多くの人たちが色んなことにチャレンジしてるのを見て、日本人もこんなマインドになってほしい、という思いもあり、私がいろんなことにチャレンジすることで、当事者も受け入れる側にもポジティブな考えが増えてくれたらいいなと思いました。

ウェディングドレスについて

ウェディングドレスを作るにあたって、渋谷さんの一番の希望は「タイヤも覆えて、尚且つ自分で漕げるようなドレスにしてほしい」ということでした。

ウェディングドレス③(@s_maco_さんより提供)

ー実際にドレスを着てみて、どう思われましたか?
「感動!」その一言です。高校生の発想力に驚きました。
1番難しい、タイヤをドレスで覆ってなおかつ自分で漕ぐ、そこをどうするか?という問題と、漕げたとしても、裾がタイヤに巻き込まれてしまう問題もありました。そういった数々の問題を高校生のアイディアで解決して、理想の想像した通り以上のドレスを着ることができてとても嬉しかったです。

ーこの投稿や取り組みには多くの反応がありましたが、どう思われましたか?
多くの方に、新しいドレスの形を知ってもらうことができて嬉しいです。これを機に、企業でも今回作ったようなドレスなどの選択肢が増えてくれることを願います。

ウェディングドレス④(@s_maco_さんより提供)

ー車いすユーザーにとって着るものなど、こだわりたい部分を諦めざる負えないときもあるかと思いますが、ウェディングドレスだけでなく他にも「こういう物があったらうれしい!」のようなものはありますか?
普段の洋服は、立てないからこそオールインワンやワンピースで後ろにファスナーがついている服はとても着にくいです。ですが、現代は洋服が多くあるので「頑張れば着れる!」という考えで似たような着やすい服を選んでいます。
ですが、そのときにしか着れないような服は違います。同じジャンルとしては白無垢と色打ち掛けもモデルとして着つけしていただき、写真を撮ったこともありますが、とても貴重な体験だったと思います。セパレート式の浴衣や着物を扱っているお店もありますが、白無垢と色打ち掛けを車いすでも着れるお店は多くないと思います。ドレスより着つけはボリュームもあるので難易度が上がると思いますが、一生に一度しか着る機会がないかもしれないからこそ、妥協せずに着ることができる選択肢があると嬉しいです。

車いすユーザーとして発信するきっかけ

現在、渋谷さんはSNSやYoutubeなどでさまざまな発信を行っています。

ー渋谷さんが車いすユーザーとして発信をするようになったきっかけを教えてください。
障がいを負ったときに、車いすで生活するイメージが湧きませんでした。しかしネットで「車いす」「脊髄損傷」と調べても論文のような情報しかなく、日常のことを気軽に発信してる人はSNSを探してもほとんどいませんでした。いたとしても、バリアフリーへの提言が多く、車いすであるが故に不都合なこと、嫌な思いをしたことが目につき、車いすになることは不幸なことなのだと感じてしまうような投稿が多かったです。
ですが、海外の人たちは遊びも恋愛もオシャレも全力で楽しんでいる投稿が多く「日本のマイナスなイメージを変えていきたい」「今後障がいを負ってしまう人たちにいろんなことができることを知ってほしい」と思い、発信をしていこうと思いました。

ー地元の山形や鶴岡についての活動や発信も多いですが、どのような思いから地元の発信をされているのでしょうか?
生まれ育った地域が好きだから、という一言に尽きます。私の生まれた鶴岡市田麦俣は限界集落です。ですが、文化財の茅葺き屋根と私の家の茅葺き屋根の2軒が自然のなかで並んでいる風景はとても綺麗です。しかしそういった文化も歴史も誰かに知ってもらわないと、訪れてもらわないといつかはなくなってしまいます。新しいものや便利な時代もよいと思いますが、自然を感じて歴史を残していく大切さを感じてほしいと思い、発信をしています。山形、鶴岡に来たことがないという方は、一度来たら食べ物の美味しさにも感動するので、是非とも訪れてほしいです。

今後の目標を実現するために

ー今後どのような発信をしていきたいですか?
引き続き、車いすユーザーにとって有益な情報を発信していくことは変わりませんが、車いすや障がいがある人が普通に身近で生活している、ということを知ってもらいたいと思っています。そのなかで、YouTubeやSNSの発信だけではなく、例えばアパレルブランドのCMに少し映ってみたり、グルメCMでエキストラなってみたりしたいです。
どうしても「車いすユーザー=高齢者」という映像がまだまだ多いので、そういった部分が変わってくれたら、また少し皆さんの認識が変わっていくのではないかと思います。

ーチャレンジしてみたいことはありますか?
楽しいチャレンジとして、最近念願だったスカイダイビングをハワイですることができました。そして次の大きな目標は宇宙に行くことです。無重力であれば下半身麻痺で歩けないことは関係ないのでは?と思っているので、その実験をしたいと考えています。宇宙関係者の方々と繋がりを作っていくところから今は頑張っています。

今後も積極的にさまざまなことにチャレンジしていきたいと話す渋谷さん。今回のウェディングドレスも、多くの人に希望を与えたことでしょう。

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