病気と闘う子どもたちを支援するNPO法人『シャイン・オン・キッズ』。
シャイン・オン!キッズは、動物介在療法、アート介在療法、小児がん経験者のピアサポートなどを通して小児がんや重い病気と闘う子どもたちとその家族をサポートしています。

団体を立ち上げた背景や活動について話を聞きました。

病気で亡くなった息子がきっかけ

シャイン・オン!キッズの理事長、キンバリ・フォーサイスさんは、生後1ヶ月で白血病を発症した息子を2歳を目前に亡くしました。
日本の医療施設は世界でもトップクラスの医療技術を持つ一方で、入院環境の質や心のケアに遅れがあると実感したキンバリさん。そこから小児がんなどの重い病気と闘う子どもたちや家族の支援を決意します。

2006年7月には、シャイン・オン!キッズの前身であり、亡くなった息子の名前からタイラー基金が発足されました。

ビーズ・オブ・カレッジとは?

小児がんなど、重い病気と闘う子どもたちへの心のケアを目的とした「アート介在療法」であるビーズ・オブ・カレッジ。アメリカの看護師により開発されたプログラムで、シャイン・オン!キッズは日本で展開できる唯一の組織として認証を受けています。

ビーズ・オブ・カレッジ①(シャイン・オン!キッズより提供)

子どもたちは治療の過程を色とりどりのガラスビーズで記録していきます。例えば、輸血したときは赤いビーズ、髪が抜け始めたときは顔のビーズなど、処置や治療ごとに決められたビーズを医療スタッフと会話しながら子どもたちが自ら繋いでいきます。
ビーズを繋ぐことを通して、自身が乗り越えてきた治療を振り返り、勇気や希望を実感できるプログラムです。

この行動によって自分の人生に自信を持ち、自己肯定感を高めることができるといいます。自分に起きていることを可視化することで客観的に捉え、周囲の人にもどんなことを乗り越えたのか説明ができるようになるのです。

ふりかえりビーズ(シャイン・オン!キッズより提供)

2024年1月時点で、全国28の医療施設で実施しています。

治療を終えた子たちにもサポートを

シャイン・オン!キッズでは小児がんの治療を終えた子どもたちに対してもサポートをしています。その活動として2017年より、小児がん経験者のキャリア支援事業「キャンプカレッジ」をスタートさせました。

キャンプカレッジ(シャイン・オン!キッズより提供)

入院中の仲間へエールを送るために、ビーズ‧オブ‧カレッジの「ちからのブレスレット」ワークショップや、小児がん治療での経験談をプロの漫画家と一緒に4コマ漫画にまとめたり、闘病の経験を歌にして支援者の皆様にお披露目するなど、活動は多岐にわたります。

コロナ禍の2022年4月には、初の1泊2日の宿泊イベントを開催しました。医療者の監修のもと感染対策を徹底し、グランピング施設を貸し切って行ったそうです。運営に関わるスタッフ・ボランティアの数も最低限にし、一人も感染者を出すことなく終えることができました。同様のイベントを2023年10月にも実施しています。

キャンプカレッジ③(シャイン・オン!キッズより提供)

また2022年より、小児がん経験者とそのきょうだいが構成員となって「こども企画室」を立ち上げました。これに参加する子どもたちは「今同じ経験をしている子どもたちを応援したい」「小児がんについてもっと知ってもらいたい」「お世話になった病院の皆さんにお礼がしたい」など、他者への感謝や思いやりといった熱い思いを胸に秘めて活動しています。

2023年はオリジナルTシャツをデザインしてチャリティ販売も行いました。

チャリティ販売したオリジナルTシャツ(シャイン・オン!キッズより提供)

また、2023年12月にはこども企画室のメンバーがこども家庭庁を訪問しました。
全国の小児がん経験者の子どもたちから集めたアンケート結果をもとに、長い闘病生活で辛かったこと、必要な支援などについて、子どもたち自らが生の声をこども家庭庁のスタッフの皆さんに伝えました。

小児がん患者の闘い

治療を終えた子どもたちに対してもサポートをしているシャイン・オン!キッズですが、その思いについても聞きました。

「小児がんの年間発症数は2000~2500人と言われ、今は医療の発達により5年生存率は8、9割と言われています。一方で、長期入院という経験のみならず、成長期に行われる治療により、小児がん経験者の6割は何らかの晩期合併症と呼ばれる症状を抱えて生きていると言われているのです。
深刻な症状がなくても『疲れやすい』という症状は治療を終えた多くの子どもたちが経験しており、精神面ではPTSDやトラウマ、身体面でも低身長や臓器の問題を抱えることがあります」

さらに、ホルモン異常によって妊娠がしづらいなどの課題や、発達期に長期入院をすることで社会との断絶を経験するため、コミュニケーションの問題を抱える場合もあるとのこと。そうした子どもたちは治療を終えて社会に復帰した際に、さまざまな困難と立ち向かうことになるのです。

小児がん経験者の家族からは「入院中もとても大変だけど、病院という環境のなか、ある意味守られていたが、退院後はそのセーフティーネットがない」との声も多く聞くそう。

子どもたち自身が周囲への理解を求めるなど、積極的に関わるケースもあります。しかし、理解するきっかけすら作れないことを何度も経験すると積極的に関わることを諦めてしまう子もいるようです。

とても大変な治療を乗り越えた子どもたちが取り残されることなく、社会の構成員として人生を歩んでいくためにも、退院後の支援が大切になってきます。
彼らの自己肯定感を高める機会をより多く作ることや、自分の将来について考える機会を提供していきたいと考えて活動しているのが”シャイン・オン!キッズ”です。

シャイン・オン!キッズの活動に参加した子どもたちからは「同じ悩みや経験をしている仲間と出会い、語り合うことができた」と感謝の言葉が多数寄せられているそう。

活動をする上での大変さ

活動をする上で、同じ小児がんと言っても脳腫瘍の方もいれば白血病の方もいます。
疾患によって治療後の状況も変わり、数度の再発を経て、克服する方もいます。

このような方々を対象としてイベントを実施する際は、参加する方の症状に合わせた調整が必要になってくるそうです。
得意なこと、苦手なこと、特別な配慮が必要なことなど事前に細かく情報を整理し、必要であれば医療者による監修をいれるなどしてサポートに工夫をしているとか。

今後の目標

ファシリティドッグ、ビーズ・オブ・カレッジともに多くの病院から問い合わせがあり、導入を待っている病院もあるため、ニーズに合わせて、可能な限り活動を拡大していきたいとのこと。

ただ闇雲に増やせばよいということではなく、安全性を第一に、活動の質も大切に、また導入する病院の医療者の方々に負担のない形で取り入れていくようです。
さらに、一人ひとりのお子さんやご家族、現場の医療者の声を丁寧に拾い、ニーズに基づいた心のケアの活動を継続していきたいと考えているそうです。
また、活動の大半が寄付や助成金で賄われているため、資金調達の課題もあります。
解決しなければならないことはたくさんありますが、同じミッションや思いを持つ他団体との協働も視野に、シャイン・オン!キッズが掲げる「一人でも多くの子どもや家族の笑顔と勇気につながる活動」を続けたいとのことでした。

治療を終えたあともサポートしてくれる存在があることはありがたいことです。一人でも多くの子どもたちが明るい未来を歩いていけるよう、これからの活動も応援していきたいですね。

この記事の写真一覧はこちら