小さな子どもを育てていると1人ではどうにもならないときがあります。子育てを経験された人は、そのような場面を何度も経験してきたのではないでしょうか。

今回紹介するのは「水害時での中学生からのありがたい手助け」についてのエピソードです。

イラスト:23ca

水害時の給水場で

2人のお子さんを育てるマイコ(仮名)さん。ある夏、大雨で水道管が破裂し、市全体が断水してしまいました。旦那さんは入院中だったため、マイコさんが子どもたちを連れて給水場へ行くことに。

5歳の娘のカンナ(仮名)ちゃんと3歳の息子のサトシ(仮名)くんに手を繋がせ、マイコさんは水を入れた袋を詰めたクーラーボックスを両手に抱えていました。車を停めた所までは遠く、重たいクーラーボックスを休み休み運んでいたマイコさん。

すると、サトシくんが「抱っこ」とぐずり始めてしまいました。責任感のあるカンナちゃんは「母ちゃん、いま大変だからねぇちゃんと!」となんとか説得しようとしましたが、泣き止まないサトシくん。

クーラーボックスを置いて、サトシくんだけでも先に車に連れて行って待たせようかと考えましたが、夏の車内に1人残すのも不安。
とりあえず、泣き止ませるためにサトシくんを抱っこしたマイコさん。しかし、カンナちゃんも甘えたいのを我慢してサトシくんの面倒をみていたため、泣き出してしまいました。カンナちゃんは、”甘えたいとお手伝いしたい”の気持ちがごちゃ混ぜになって、涙が出てしまったようです。

マイコさんがどうしようかと困っていると、3人の中学生くらいの私服を着た男の子たちが駆けてきて「手伝ってもいいですか?」と元気に声をかけてくれました。
彼らはすぐにクーラーボックスを持ってくれ「どこまで運びますか?」と笑顔で聞いてくれました。泣いているカンナちゃんにも「どーしたん?」と声をかけてくれた男の子たち。
答えないカンナちゃんに「お母さんと手をつなぎたかった?」「弟と手をつなぎたかった?」「お水、持ちたかった?」と優しく聞いてくれました。

『災害時での中学生からのありがたい手助け②』イラスト:23ca

カンナちゃんが小さく「もつ」と答えると「じゃあ、これを下から支えて!」と男の子2人でクーラーボックスを持ち上げ、カンナちゃんが手をあげると届くくらいの高さで運んでくれました。
もう1人の男の子は、もう1つのクーラーボックスを持ちながら、サトシくんに「ずっと歩いとった?疲れた?」「頑張ったね!」とタッチをしてくれました。

車まで水を運ぶと「じゃ、気をつけて!!」と笑顔で走り去った3人。どうやら、また給水場に向かっているようでした。

その後車の中から見ると、3人の男の子たちは、お年寄りがお水を運ぶのを手伝っていました。断水で大変ななか、率先して周りの人たちを助けてくれていた男の子たち。
「今でも思い出すと胸が温かくなります」とマイコさんは話しました。

「手伝ってもいいですか?」の声がけ

このときの出来事について、マイコさんに話を聞きました。

ー助けてもらったとき、3人の男の子たちに対してどう思いましたか?また、なんと伝えましたか?
どうしようかと悩んでいるときだったので、感謝しかありません。重たい水を持つだけではなく、泣いている子どもたちにも声をかけてくれたおかげで、すっかり泣き止み、ご機嫌で連れて帰ることができました。
娘が手伝えるようにと、クーラーボックスを2人で難しい運び方をしていたことにも感服しました。娘は「お兄ちゃんのお手伝いをした!!」と大喜びでした。
しかし、きちんとお礼を伝える前に、走り去ってしまいました。「ありがとう、助かりました」の言葉しか伝えられなかったのが、今でも心残りです。せめて、暑いなかみんなを助けてくれる彼らに飲み物を渡したかったです。

ー男の子たちとはその後何か会話をしましたか?その際、どのような会話をしたのか教えてください。
その後、彼らとは会えていません。そのときは断水し始めたばかりでどこの施設も混乱し、保育所や学校など、臨時休校が多かったときなので、そのときを利用して手伝って回っていたのかもしれません。
その後は学校も再開し始めていたので、学校に通っていたのかもしれません。

ーこの体験を通して、何か意識していることや気持ちの変化などはありましたか?
困っている人に声をかけられる勇気や優しさに触れ、娘や息子にしっかりと伝えるようになりました。
実体験を通し、娘は困っている子がいると率先して声をかける優しい子に育ちました。
自分も困っている人がいると、少し、様子をみて助けを出せるようになりました。彼らのように「手伝ってもいいですか?」と声をかけると、応じてもらえやすいことを知りました。

ーこの経験を誰かに話したことはありますか?ある場合、どんな反応や返答がありましたか?
旦那と職場の人に話しました。「最近の若い子は人との繋がりがなくなっていると思ったけど、そういう子がいると希望がもてるよね、若い子に」と、みんなで笑い合いました。

ーこのような経験と同様、子育てをしていて大変なときはどんなときですか?
子ども2人を連れての買い物や病院、温泉などでの場面です。荷物もあるし、一気に2人を相手できないし。少しクールダウンさせる場所があれば別でしょうが、そういった場所はどこにもありません。
子どもが泣いたり、癇癪を起こしているとき、あらゆる手は尽くしてるのに、どうしようもないときが多々ありました。1人なら抱っこして落ち着けたり、甘やかしたりすることができますが、2人一気にだとそうはいかず…。子どもを連れての外出が嫌で、なるべく旦那がいるときだけにしていました。

周りには優しい人たちがいる

ー子どもと一緒にいて困ったとき、周りにどういった対応をしてもらえると嬉しいと思いますか?
声をかけてくれたら本当に嬉しいです。泣いている子どもをみて「お母さん、頑張ってるね」と声をかけてくれたおばあさんに心を救われたことがありました。
そのおばあさんは「子どもと接する機会がないから、触ってもいい?」と聞いてくれて「お母さん、頑張ってるのに泣いてたら、お母さんも泣きたくなるよ?」と優しく子どもに声をかけてくれ、子どもの頭をなでてくれました。
子どもも言葉がきいたのか、他人に見られたのが恥ずかしかったのか、泣くのをやめて手を繋いでくれました。子どもが泣くのは自分の子育てが悪いからかと不安になっているときだったので「頑張ってるね」の言葉に、自分の子育てを認められた気がして、涙が出そうになるくらい嬉しかったです。

ーこの経験を通して、同じような状況で悩む方にどのようなことを伝えたいですか?
自分なりに精一杯の子育てをしながら頑張っていると、助けてくれる人がいるということ。また、声に出していなくても頑張っていると認めてくれる人がいるんだということ。
「〇〇してもいい?」と声をかけられると、こちらも頼みやすいことがわかったので、自分が人を助けるときにもその言葉かけにしています。

誰かに声をかけるのは勇気が必要なこと。しかし、勇気を出して声をかけることで、救われる人がたくさんいるのでしょうね。

※こちらは実際にユーザーから募集したエピソードをもとに記事化しています。

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