ライターは障がい児者の母親たち!“働ける選択肢”で親を応援する宮城発の福祉メディア

ライターは障がい児者の母親たち!“働ける選択肢”で親を応援する宮城発の福祉メディア

障がいがある人や、その家族の声なき声を伝えるメディア「Piece」。宮城県の石巻市にある一般社団法人Hito Reha(以下、ヒトリハ)が運営する、福祉と子育てをつなぐウェブメディアだ。Webサイトでの発信に加え、冊子も発行している。

通常のWebメディアと異なるのはライターたちの属性だ。「Piece」でライターを務めるのは、障がい児(者)の母たち。ライティング未経験の母たちが、ライターとして活躍している。障がい児(者)の母親をライターとして採用する理由を、ヒトリハの代表 横山翼さんに聞いた。

ヒトリハ
ヒトリハ

横山さんは、高校生のときに母親を、大学一年生の時に兄を突然亡くした。その直後に、起こった東日本大震災。犠牲者の数と被災地の惨状に胸を痛めた。自分と同じように、最愛の人を失った方に寄り添いたいと、大学卒業と同時に兵庫県から宮城県石巻市に移住した。

「本当は震災後すぐに支援に行きたかったのですが、身内の不幸から自分自身がなかなか立ち直ることができず、2013年にようやく石巻に足を踏み入れることができました。震災の爪痕が残る土地を見て、何か協力できることがないかと改めて思いました。大学で理学療法士の資格を取り、2014年に石巻にやってきました」。

石巻の病院や介護事業所で5年ほど働く中で、違和感を持ったことがあった。それは、リハビリテーションを提供することが多い、障がい児(者)とその家族を街中で見かけないこと。

「私は街歩きが大好きなのですが、カフェや温泉に、障がい児(者)やその家族はいなかったんです。だけど、障がい児(者)対象のイベントがあるとみんな街に出てくる。イベントだけではなく、日常生活の中で、誰もが集まれる場を作りたいと思いました」。

制度と制度の狭間にいるような人たちを救いたい

思いをカタチに。2020年、理学療法士や作業療法士の仲間たち4人でヒトリハを立ち上げた。子どものパーソナルトレーニングや、障がい児を育児する母親の雇用支援など、障がい児とその家族が、健常児と同じような日常を送るための場づくりやサポート活動を行っている。

「ヒトリハでは、活動の一環として、障がい児を育児する家族の相談を受け付けています。最初の利用者は、発達障がいの子どもを育てるひとり親家庭でした。障がいが起因となり、お子さんが学校を休むことが増えてきたとき、職場から、『仕事を続けることが難しいのではないか』という圧力がありました。その方は、結果的に仕事を辞めることに」。

相談内容に対して、解決策を見つけられなかったという横山さん。解決の糸口を見つけようと奔走する中で、健常児と障がい児を育児する母親の雇用率に差があることがわかった。

「健常児を育児する母親の正規雇用率は34%、非正規雇用率は71%。一方、障がい児を育児する母親の正規雇用率は5%、非正規雇用率は49%と、20%以上も低かったのです。障がい児を育児する母親は推定67万人。その内の30万人は働いていません。あえて働かないという選択をしたのであればいいのですが、働きたいけど、働けないという方が、約17万人いることがわかりました。これはよくないなと思ったんですよね」。

ヒトリハ
ヒトリハ

働きたいを叶えるために、自社メディアのライターとして採用

そこで横山さんは、障がい児を育児する母親で、働きたくても働けない人たちを対象に、働くきっかけを作るためのプロジェクトを開始する。自社メディアのライターを育てるという「Piece」プロジェクトだ。

「誰にでも言えることですが、働けない状態から働くというのは、すごくハードルが高いです。さらに、いきなり仕事を始めると、育児と家事との両立が上手くいきません。プロのライターになる人を育てるのではなく、働くきっかけとなる機会を提供しようということで、プロジェクトを開始しました」。

ライターに初挑戦する母親たちには、取材や写真撮影、執筆、営業に至るまでの研修を1カ月ほど行なう。業務はフルリモートで、全国からの参加が可能だ。取材と執筆は、複数人でチームを組み、進めるという。

ヒトリハではこれまで、10人の母親をライターとして雇用してきた。平均雇用期間は約5.7カ月。子どもの学年が上がったり、学校生活の状況が落ち着いたりしたタイミングで、新しい就職先を見つけてくる人もいるという。

ヒトリハ
ヒトリハ

「取材はオンラインで、執筆も家でできるので、お子さんの状況に合わせて、できる範囲で業務を行なっていただくという成果報酬型。育児・家事と仕事の両立にチャレンジしていく、入口としての設計です。途中で働く機会を見つけ、ライターを辞めていくことは、むしろ良いことだと思っています。子どもに寄り添う時間がこれまで以上に必要となり、今は、仕事どころではないから、一旦離れますという人もいます。状況に応じて、プロジェクトに参加いただいています」。

横山さんのもとには、プロジェクトに参加した母親たちから、嬉しい声が届く。仕事は、家計の補完という経済的な役割の他に、“やりがい”や“社会とのつながり”という、プラスの側面も生み出している。

「フルリモートなので、お母さんが初めてのことに挑戦する姿や、談笑する姿が、お子さんの目に入ります。お子さんが、『働いているお母さんの姿を見るのが嬉しい』と言ってくれているようです。一生懸命、自分と向き合い続けてくれるお母さんの姿に、申し訳なさを感じてしまうお子さんもいます。お母さんが働くことで、子どもにもいい影響があるようです」。

他にも、障がいがある子どもを育てるという、同じ境遇にいる人たちとチームを組むことで、育児について共感したり、相談したりすることができているという。母親たちが、本音を吐き出せる場にもなっている。

「Piece」プロジェクトは、ウェブメディアに掲載する記事の掲載料と、冊子の売上、助成金を収入源とし、プロジェクトの運営や母親たちの原稿料に充てている。原稿料は1本3~5万円と、一般的にWebライターと言われる職種の原稿料の相場よりも、かなり高めの設定だ。

2021年から発刊している冊子「Piece」は、障がい児(者)を育てる家族の本音を掲載。子育ての悩みや苦労に共感してもらうと共に、気づきから得た教訓を伝える、というコンセプトだ。2023年5月にリリースした「福祉と子育てをつなぐウェブメディア“Piece”」では、記事作成を通して、企業の課題解決に貢献することを目指しているという。

母親たちの幸福度につながるような選択肢を増やす

「働きたくても働けない人は、全国で17万人いますが、ヒトリハだけで支援するのは難しい。今僕たちが提供できるのは、フルリモートのライターという枠組みでだけです。今後は、カフェや作業所など、他の職種でも柔軟に働くことができるようになればいいなと考えています」。

現在、ヒトリハでは、雇用の幅を広げる取り組みを進めているという。

「働くことを希望しない人が、働かないという選択をした場合、幸福度は下がりません。ですが、働きたいのに働けない場合、理想と現実にギャップがあることによって、幸福度は下がると言われています。経済的な問題ももちろん大事ですが、お母さん一人ひとりの幸福度を上げていくことが大切。お母さんたちが、暗い気持ちになったり、自己肯定感が下がったり、悩んでしまうことがないように、幸福度につながるような選択肢を増やしていけたらと思っています」。

「Piece」プロジェクトは、障がい児(者)という枠以外にも、ひとり親世帯や不登校など、育児上の事情で、通常の仕事が難しいという親の参加も可能だ。育児中の親にとって、子どものことで想定外の事態が起こり、育児と仕事を切り離すのが難しいとき、両立しながら働けるという選択肢が受け皿としてあるだけで、救われる人がいるだろう。

ヒトリハが運営する「福祉と子育てをつなぐウェブメディア“Piece”」はこちら(https://hitoreha.com/piece/

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