2022年10月末に日本を出発し、「6歳娘との母子世界一周旅行」というなんともユニークな挑戦をした、かかさん。放浪の旅をするバックパッカーは世界中にいるが、子連れとなると話は別だ。帰国を目前に控えた彼女らにメキシコシティで話を聞いた。

メキシコ・グアナファトの宿にて

予定表のない旅

かかさん母娘の旅は、先の予定がほとんど決まっていない。その日の宿を当日に決めることもしょっちゅうある。
「旅の中で、『この街にもっといたい』と強く感じることがあります。でもすべてを先に予約してしまっていると、諦めるしかない。それがもったいなく思えてしまって」
まだいたいのなら、いればいい。そんな「自分たちに正直な旅」を目指した結果、自然とこのスタイルになったのだという。

トルコ・イスタンブールからブルガリア・ソフィアまでは寝台列車で

不安はないのかと尋ねると、きっぱりと否定された。
「細かい予定は直前まで決めませんが、入国条件や情勢など必要な情報は徹底的に下調べしてあります。10代から旅をしてきて『調べるスキル』は身についているので、不安はありません」

子連れだからこそハプニングを前向きに捉える

とは言え、海外旅行にハプニングはつきもの。実際、今回も最初の訪問地であるタイを出国するときからフライトが欠航になった。エアビーで予約した宿の鍵が開かなかったこともあるという。不測の事態に、隣には6歳児。本当にパニックにならないのだろうか。

「乗れないときは、乗れない。開かないときは、開かない。泣こうが叫ぼうが事態は変わらないとわかっているので、慌てないですね」

北マケドニア・オフリドでは餌やりが日課。観光名所を巡るのではなく街に溶け込み暮らすように旅をした

もちろん落ち着いていられるのには、理由がある。フライトの遅延や欠航に備えてタイトな移動は組まない。エアビーで宿を借りる際は家主の連絡先を控えておく。過去の経験を踏まえ、かかさんは日頃からごく自然にハプニングへの備えをしている。

また冷静さの裏には、親子旅ならではの気遣いもある。
「子は親をよく見ています。わたしが不安になれば娘も不安になる。むしろ前向きにリカバリーする姿を見せて、『一つ躓いても別の道があるんだ』と学んでくれたらいいと思っています」

6歳の「どうして?」は今だけ

そんなかかさんが今回の旅で最もおもしろかったと振り返るのが、娘さんが発する素朴な疑問や感想だ。
アメリカでは「どうして車の道ばかりで人の道がないの?」。メキシコでは「どうしてスペインじゃないのにスペイン語なの?」。旅先で出会う人々の服装や行動がきっかけになり宗教への疑問もよく口にするという。

ウズベキスタン・サマルカンドの宿にて。食材の買い出しに現地の市場やスーパーを訪れると、物価や気候の違いなど子どもにとっても学びが多いという

「世界には色んな国があって、人も文化も多様です。日本の言葉や常識は、一歩外に出れば当たり前に通じるものではありません。それを娘が頭ではなく感覚で学んでいるのを見ていて『旅に出て良かった』と感じますね」

「自分で決める練習」をしてほしい

また、旅を通して娘さんは「以前よりも人前で堂々と話し、意見をはっきり言えるようになった」という。
元々は恥ずかしがり屋で引っ込み思案だった娘さんに、かかさんは旅のなかで繰り返し意見を求める機会を作った。たとえば宿選びも、選択肢を挙げて娘さんに決めてもらう。「お米を炊いて食べたいからキッチン付きがいい」など毎回明確な答えが返ってくるという。

アルバニア・ティラナでは1泊2,500円のエアビーで予約した宿に宿泊。母娘でキッチンに立った時間も旅の思い出

「子どもの頃から何でもずっと親に決めてもらっていたら、自分で決められない大人になっていくと思うんです。後悔も大事な経験。旅は毎日が選択の連続なので、良い練習になっています」
聞けば聞くほどに引き込まれてしまう、かかさん母娘の旅。ふたりはなぜこのユニークな旅を始めたのだろう。

後押ししてくれた夫の言葉

元々旅行会社に勤務し、大の旅行好きだったかかさんは、娘さんが生まれる前から「いつか親子で世界一周したい」と夢見ていた。
けれど新型コロナ流行で海外旅行が遠のき、ようやく世界が落ち着きを取り戻した2022年秋、娘さんの小学校入学まで1年を切っていた。焦る思いを抑えながら、とりあえず1か月のつもりでタイ行き航空券を取った。
しかし夜、仕事を終え帰宅した夫に航空券を買ったことを伝えると、返ってきたのは意外な反応だった。
「『待って、たったの1か月?』って言われたんです。せっかくなら世界一周すればいいのに、と」

スペイン・マドリッドからは日本のおじいちゃん、おばあちゃんへ手紙を送った

「互いを尊重し合う」夫婦の関係

傍から見れば驚くべき反応だが、かかさんは夫の言葉をごく自然に受け止めた。それは夫婦の間に、結婚前から揺るがない考えがあるからだ。
「夫とは『結婚しても親になっても自分は自分。一回きりの人生、やりたいことをやろう』と、お互いをサポートし合ってきました。だから今回も背中を押してくれたのだと思います」

トルコ・イスタンブールのカフェにて。疲れたら無理せず休憩するのが、ふたりの旅のスタイル

それから夫婦で娘さんに意見を聞いた。旅に出れば、卒園式には出られない。娘さんが卒園式を選ぶのなら今回の旅は諦めるつもりだったが、「お友達には会いたければまた会える。いまはかかと旅行したい」という答えが返ってきたという。

今は今しかない

改めてかかさんは、今回の母子世界一周をこう振り返る。
「娘を連れて世界一周をすると決めた時、周囲には反対する人もたくさんいました。でも、今って今しかないんですよね。先の心配で身動きが取れなくなってしまうより、本気でやりたいと思えることがあるなら、わたしは全力でそれをやった方がいいと思うんです。できない理由を探すのではなく、どうやったらできるかを考えたからこそ、今回の旅が実現しました」

メキシコ・オアハカのコーヒーショップではUNOに夢中に

3月半ば、母娘は無事に日本に帰国した。ふたりの旅は、この先どこに続いているのだろう。また世界のどこかでばったり再会し、わくわくするような話が聞けるような気がしてならない。

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