ミャンマーで軍事クーデターが起きてから2年。ニュースで知り得ることができないミャンマーを伝えたいと、プロジェクトを2021年に立ち上げ、かるたを通じてミャンマーの現状を伝え続ける高校生がいます。制作した「ヤンゴンかるた」に込めた思い、ミャンマーの人たちから学んだことを聞きました。

かるたで伝えるミャンマー

「私が知っているミャンマーは、すごく美しくて優しい人々が暮らす国でした。その日常がたった一日で変わってしまいました。クーデターが起こる前の平和なミャンマーをかるたを通じて知ってもらいたいです」

ヤンゴンかるたプロジェクトの代表をつとめるのは、高校2年生の野中優那さんです。ヤンゴンかるたとは、44枚の写真と短い言葉で、ミャンマーの人々の暮らし、文化、歴史を知ることのできるかるたです。

クラウドファンディングで制作したヤンゴンかるた(優那さん提供)

コロナ禍で学校に通うことができなかった時、同世代の人にミャンマーのことを伝えたいと、もともと好きだった百人一首から着想を得て、ミャンマーについてのかるたを手作りしました。かるたの絵札には、ミャンマーに住んでいた2年間、兄弟と一緒に現地で町を歩いて撮影した写真が使われています。

自身で撮影した写真をプリンターで印刷し、ラミネートをかけた手作りかるたからスタート「ミャンマーにはおみやげが少ないので、ミャンマーを伝えるひとつになればと思いつくりはじめました」(優那さん提供)

クーデターが起きた2月1日

ミャンマーでクーデターが起こった2021年2月1月、ヤンゴンで暮らしていた優那さんは、当時中学3年生でした。

「ミャンマーの若者たちは、SNSを活用して、世界に現状を発信していました。自国のことを考えている若者が多くいると感じました。コロナに対して自粛はできても、クーデターに対しては、自粛はできないという高揚感がありました」

それまではコロナ禍で外出を自粛していた若者が、クーデター翌日から街に繰り出し、歌を歌ったり、音楽を流したり、警察官に花束を渡したりと非暴力不服従で、平和的なデモ活動を行っていたそうです。

全国の講演会やワークショップでは、クーデターの様子も伝える(優那さん提供)

しかし、状況は次第に悪化。ネットが遮断されている夜中の間に起こった悲惨な光景が、翌朝ネットにあがってくることもあり、優那さんは夜が来るのが怖かったといいます。

「SNSで見ているものはごく一部で、実際はもっとひどいことが起きているんだろうなと思いました。苦しんでいるのは、国や未来のために立ち上がり闘っているミャンマーの人達です。私は何もできず、でもなんとかしたい、何かできないのかなという思いでいっぱいでした」

帰国して感じた違和感と危機感

かるたを制作した優那さんは、2019年7月から2021年3月まで、家族とともにミャンマーのヤンゴンで生活。ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダの前で伝統衣装ロンジーを身に着けて(優那さん提供)

2021年3月、高校入学のために日本に帰国した優那さん。ミャンマーから帰国してきたことを周囲に伝えると「内戦している国でしょ」「危ない国から帰って来られてよかったね」などと同級生から言われ、その言葉に違和感を覚えました。

「日本に帰ってきたから、ミャンマーのことは関係ないよねと言われているように感じました。今、私たちと同世代の若者が、自由も夢も未来も奪われて戦っているのに、なんでこんなに無関心なんだろうという憤りのような感情を抱きました」

しかし、優那さんは、自身を振りかえってみて、貧困や紛争について学んでいながらも、自分も諸外国の他の問題に対して無関心だったことに気が付きます。

「他の国で起きていることも他人事ではありません。世界の問題を知ることは自分たちの問題を知り、自分たちの国を守ることでもあると思います」

ミャンマーのことを知ってもらいたい

ヤンゴンかるたプロジェクトを立ち上げた野中優那さん(優那さん提供)

ミャンマーのことを知らない人に、ミャンマーのことを知ってもらいたい。悲惨な現状だけを知るよりも、そこに生きている人の息づかいや顔を見てもらい、もともとあった平和な日常を知ることで、今の状況は異常なことであるということを感じ取ってほしい。

優那さんは「学びに命のストーリーを吹き込みたい」と、ヤンゴンかるたプロジェクトを立ち上げました。

「ミャンマーが大変なことになっているのに、かるたなんてお気楽なとか、のんきだねと批判されると思いながら活動を始めました。でも、高校生のわたしだからできる方法でミャンマーを伝えていこうと思いました」

兄弟で立ち上げたプロジェクトには、ビルマ語専攻の学生なども加わり、一緒に活動をすすめる(優那さん提供)

「次の世代のために戦う」これは、クーデター以後、優那さんがミャンマーの人々から聞く言葉だそうです。

「当たり前だった日常がたった1日で奪われてしまう現状を見て、平和や民主主義は当たり前ではないと思いました。今もなお不安定な状況が続くミャンマーのことを忘れ去られないようにすることはもちろん、世界の問題にもっと目を向けてもらうきっかけになるように活動を続けていきたいです」

プロジェクトメンバーとともに、子どもたちへのワークショップも行う(優那さん提供)

ミャンマーの人々から学んだ「絶対に紛争の火種を残さないということ。そして、未来のために希望や平和の種まきをすること」を胸に、優那さんは仲間とともにこれからも活動を続けていきます。

学校教育の中にも積極的に入っていきたいと話す(優那さん提供)

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