異言語Lab.とは、謎解きゲームをメインにコンテンツを提供する団体だ。
謎解きゲームとは、色々な定義があるが、集まった参加者たちが謎を解いていくもの。
異言語Lab.が開発するゲームは他と一味違う。今回は、異言語Lab.のアテンドキャストリーダー、また幅広くろうの表現者として活躍している奥村泰人(おくむらやすと)さんに話を聞いた。

異言語Lab.=「異なる言語を楽しむ実験室(ラボラトリー)」

(異言語Lab.より提供)

奥村さんによると、異言語Lab.は、謎解き+手話(ろう者の言葉)を入れて組み込まれたエンターテイメント性の高いコンテンツを開発したり、手話を取り入れたワークショップやグッズ制作・販売を行ったりする団体。

「手話というと、福祉的なイメージが強いですね。例えば、講習会に通い、覚えて、ろう者・難聴者を助ける…いわゆる奉仕的なもの。そうではなく、手話という“異言語”のコミュニケーションを楽しむようなコンテンツを提供しています」

異言語Lab.が開発する謎解きゲームには、聴者とろう者・難聴者が団結しないと解けない課題がある。そうした中で、言葉が異なる者同士が、自然に「伝えよう」&「わかりたい」と試行錯誤する。ミッションを達成する毎に心の交流が生まれる仕掛けにもなっている。

「一つのゲームが終わる度に、参加者から声をもらうことがあります。覚えたての手話で、“ありがとう”、“おつかれさま”と。それが醍醐味!」
奥村さんらにとって、それが大きなモチベーションのもとになっているそうだ。

細々と切れず、つながっていた“縁”の先

(異言語Lab.より提供)

奥村さんが異言語Lab.の代表・菊永ふみさんと出会ったのが小学5年生のころ。ろう学校の休日の活動クラブだった。その後も中学生のときにも休日活動のイベントで会ったが、挨拶や他愛ない会話のみ。お互いに存在の認識はしていたが、特別に親しかったというわけではなかった。
奥村さんが大学生の頃、菊永さんが個人で主催していた謎解きゲーム(これが後の異言語Lab.のもとになるプロトタイプ)に参加した。
その時も、まだ自分が異言語Lab.に深く関わるとは予想しなかった、と奥村さんは言う。

奥村さんは、人に楽しんでもらえるような仕事に就きたい、舞台に立ちたいと考え、大学卒業後は就職せずフリーターの道へ。
その後は、手話講師をしつつ、ろう者・難聴者の施設に勤めるようになった。
当時、その施設に勤めていた菊永さんは異言語Lab.団体の設立を始めていた。そして、奥村さんのことを覚えていた菊永さんは、奥村さんに異言語Lab.で表現者としての仕事を依頼した。

異言語Lab.でマニュアルなしの試行錯誤

「うしなわれたこころさがし」(異言語Lab.より提供)

奥村さん自身、“表現者”への憧れが芽生えたのは、中学1年生のころ。劇団四季の「赤毛のアン」を観た時だったと言う。言葉はわからなくても、舞台で繰り広げられる独特の空気に衝撃を受けた。
いつか、「ろうの演者として、劇団四季に」と志すように。
異言語Lab.では奥村さんは参加者と異言語Lab.をつなぐ、キャストの担当を担った。

「ほぼ手探り状態でした。トライ&エラーをくり返ししつつ…。少しずつ異言語Lab.が大きくなり、人も増えました。次第に、後に続くろうのキャストの教育もするようになりましたね。それも、ゼロからスタートです。本当に、手探りで模索しながらやって行きました。ありがたくも色々な経験をさせていただいたと思っています」

異言語Lab.の出会いなどを下地に、奥村さんは今後、海外のエンターテイメントや演技の技術を学ぶために海外留学予定だ。

いつか「異言語Lab.は別の形でもいいんじゃない?」という社会に

子どもたちに向かって「(関西の方言で)名前」と手話をしている。(異言語Lab.より提供)

「誤解を恐れずにいうと、将来、異言語Lab.には“わざわざ、聴者とろう者・難聴者が団結しないと解けない謎解きはもう必要ないのでは?”と言われるようになりたいです。
つまり、垣根をなくせることができたら、と。勿論、多様性やインクルーシブが奨励されるようになり、社会的なニーズもあって、そこに自分が関わっていられるのは光栄です」

そう言う奥村さんは、何度か海外旅行した時、出会った人達の交流を通してカルチャーショックを受けた。

「旅行中、きこえる・きこえないで身体感覚は異なるけど、お互いが伝えようと、わかろうとする試行錯誤の温かさがあったんですね。言葉は通じないけど、心の触れ合いを感じることが多かった。日本が持つ障害者に対する理解は、国民性も含め様々な事情があって、すぐに改善は難しいかもしれません。けど、異言語Lab.を通して、色々な人と出会い、コミュニケーションを重ねて行くうち、そんな未来もあり得るんじゃないかなと思っています」

おいでよ、「異(ことなる)」を楽しみにきて!

(異言語Lab.より提供)

「異言語Lab.のことを知らない人に対して、“とにかくおいで!”と言いたいです(笑)。SNSなどで知識を学べることはありますが、出会わないとわからないことは沢山あります。会って、体験して、感じてほしい。そして、異(ことなる)を楽しむ人があたりまえの世の中になればいいですね」

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