花や緑に触れることで五感を刺激し、子どもの生きる力を育む「花育」。園芸やフラワーアレンジメントなど、さまざまな方法があるなかで、生け花を通して花育を行うのはFlower Dance(千葉県流山市)の原麻衣さんだ。ユニークなのは、花材としてロスフラワー(規格外で廃棄される花)を使用していること。なぜロスフラワーを花材にしているのか、生け花を通し子どもにどんな力が身につくのか。話を聞いた。

ロスフラワーで生け花の間口を広げたい

中学生の頃に華道部に入部して以来、三大流派の一つと言われる「いけばな小原流」を習ってきた原さん。大学卒業後は一般企業に勤めるも、花への思いを捨てきれず、出産や育児を機にキャリアを見直すことに。何か仕事に生かせないかと、大好きな生け花や自身に関連の深い育児についての本や論文を読みあさった。

そんななか原さんの目にとまったのは「生け花は経営力を磨く」という、とある記事。生け花は判断力や決断力、創造性、俯瞰する力を育み、それは会社の経営に生かされるという内容だった。「それらの力は子どもが将来必要とする力でもある」独学で得た知識をもとに、生け花は子育てにも効果的だとひらめいた原さんは、2019年に生け花による花育活動を開始した。

原さんがロスフラワーを花育に活用するようになったのは、ママ友・三田さんの「農家からロスフラワーを買い取り、移動販売に活用したい」という一言がきっかけだった。

Flower Danceの原さん(右)と三田さん(左)(提供:Flower Dance)

ロスフラワーとは、まだ美しいのにもかかわらず廃棄される花のこと。花が一枚かけている、茎の長さや太さが規格に満たないなどの理由や、店頭で売れ残ってしまった、結婚式やイベントなどで短期間の役目を終えた…などの理由で、きれいな状態の花が、多くの場所で捨てられている。

三田さんのアイデアにより、仕入れたロスフラワーをさらに花育に活用するという発想を得た原さん。「ロスフラワーで困っている花農家の助けになりたい」という共通の思いを胸に、2022年3月にFlower Danceを立ち上げ、三田さんはロスフラワーの移動販売、原さんはロスフラワーを用いた花育活動を行うようになった。

農場から買い取ったロスフラワー。トレードマークである自転車を什器にして、おもに千葉県流山市で移動販売を行う(提供:Flower Dance)

現在原さんは、3歳から12歳の子どもを対象とした生け花教室「花育いけばな」を開催している。ロスフラワーを花育いけばなの花材として使うことで、新たな可能性が広がると原さんは話す。

「市場で仕入れるより花材費やレッスン料が安くなるので、その分多くの人に教室に参加してもらえます。そうすると、生け花や花育の間口が広がるんです。花育という言葉はまだ浸透していないし、生け花って敷居が高いイメージがあるじゃないですか。生け花へのハードルを下げて、もっと生け花や花育の良さを広めていきたいです」

市場に出荷できず、そのまま枯れるのを待つしかないひまわり(原さん提供)

失敗と挑戦を繰り返し、思考のクセをつける

生け花には、型や表現方法をはじめ、花の挿す位置や寸法など多くのルールがある。「大事なのは、技術の習得ではなく心を育むこと」という原さんは、どのように子どもに生け花を教えているのだろうか。

「花育いけばなでは、たとえば『葉っぱを主役にする』というような最低限の決まり事だけを守ってもらって、あとは楽しさ優先で自由に表現してもらうことを大切にしています。ある程度決まり事があるなかで、自分を表現するって社会と同じじゃないですか。ルールを守れていれば、つぼみを手で開いたり、切った茎で剣山のまわりを囲んでいたりと、本来の生け花ではしないようなことをしていても基本否定はしません。子どもならではの発想を大切にするようにしています 」

花育いけばなでは、毎回季節の花を用意。生徒に好きな色や形の花を選んでもらうことから始まる (原さん提供)

とはいえ、茎を短く切りすぎたり、花が折れてしまったりと、生け花に馴染みのない子どもだからこそ失敗してしまうこともある。

「花は生きているから、一回切ったら元に戻すことができません。大事なのはその後。失敗したからすぐ花を捨てるんじゃなくて『じゃあどうする?』と声をかけ、次の行動を自分で考えてもらうようにしています。失敗した後どうするか考える、それが思考のクセになると、日常生活で何か問題が起きたときも臨機応変に対応できるようになり、その子の持つ能力をより伸ばすことができると思います。どんどん失敗して、次に生かす練習をしてほしいです」

「葉を目立たせる」をテーマにした生徒の作品(原さん提供)

そのほか俯瞰力や創造力、決断力など大人にとっても欠かせない力を身につけられる生け花。子どもにこそ体験してほしい理由を原さんは熱く語る。

「人間の脳って3歳で80%、12歳でほぼ100%完成するといわれていて、小学6年生の頃には大人の脳とほぼ同じ状態になります。見たこと、聞いたことすべてを吸収できるこの時期に、思考のクセや自分の持つ力を育む経験をさせてあげることで、将来どんな状況になっても生きていける自立した子どもになってほしい。いつか生け花が、美術や音楽と同じように学校の授業の一つになることが、私の願いです」

そして、その生け花にロスフラワーを使うということで、子どもたちにとって、さらに良い教材になるのだ。

「黒い部分が奇形になっているひまわりを見て『真ん中がハートみたいで可愛い』と言ってくれたり、『葉っぱが汚いならそこだけとって飾れば良いじゃん』と自分なりに考えて使ってくれたりします。もったいない花があるということ、花を作っている農家さんが身近にいるということを学んでもらえる機会になると感じています」

ロスフラワーを使った生け花教室「花育いけばな」(原さん提供)

ロスフラワーと自身の好きな生け花を組み合わせ、花育を広めてきた原さん。クリエイティブで、個性があらわれるその活動は、原さん自身が生け花で培った力があってこそのものだろう。花育いけばなを通し、子どもたちの可能性が開花していくのが楽しみだ。

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