香川県は犬の殺処分数が全国ワースト1(2020年度)。この実態を改善しようと、県内で36団体・個人の県登録ボランティアが奮闘している。まんのう町の荻田真由美さんは、個人でスタートした犬猫の保護活動を発展させて2021年5月に動物愛護団体「縁-en-」を結成した。ほぼ手弁当の活動で、メンバーと協力して全力疾走している。

SOS!多頭飼育崩壊の現場

民家の玄関先に10匹以上の猫が。多頭飼育崩壊の現場だ

山あいにある民家の玄関先が現場だった。やせた猫たちが寝そべっている。全部で16匹。多頭飼育崩壊と呼ばれ、えさを与える住民が避妊や去勢まで責任を持てないため、子犬や子猫が次々に生まれて手に負えなくなる現象だ。1件で30匹、50匹いるようなケースもある。

荻田さんはボランティア仲間を通じて相談を受け、えさを与えている高齢女性と話し合って捕獲に乗り出した。「この猫たちはTNRします」と荻田さん。トラップ(捕獲)、不妊手術、リターン(返す)のことで、飼い主があやふやな動物が繁殖によって増えないことを目指す。

捕獲かごに猫が入った

保健所から借りた捕獲かごに餌を置き、誘導する作戦。お腹を空かせた猫たちは警戒しながらも、すんなりかごに入っていく。「カシャン」という音とともに次々捕獲された。「ニャー」と少し暴れるが、「大丈夫だよ。ごめんね」と声をかけると落ち着く。約2時間で15匹を捕獲した。獣医師のもとで不妊手術し、同じ場所に戻される。16匹は耳をV字にカットされ、「不妊手術した飼い主のいない猫」の印である桜耳になる。

捕獲の様子を見ていた近所の男性は、「戻ってこいよ」と言った。「最初はね、近所に猫が捨てられたんよ。だんだん猫が集まってきて、ばあちゃんは、えさを与えるしかなかったんだね」

自宅兼シェルターに40匹の犬猫

縁の活動は捕獲よりも、里親を探すことがメインだ。9月の日曜日、譲渡会を覗いた。空き家を住居兼飼育施設(シェルター)としてリノベーションし、40匹の犬と猫が暮らす。毎月2回の譲渡会を開いており、広い会場を借りた際は180人が訪れたという。2021年度は、240匹ほど譲渡した。

耳が垂れているみずなは「ビビり」と言われる優しい犬。里親が見つかっている

ケージでは3匹の犬が来場者を待っていた。片耳が垂れている「つくし」、誰に対しても元気いっぱいな「せーじ」、里親が見つかった「みずな」。荻田さんは「かわいいね」と声を掛けて愛情を注ぐ。里親希望者と相性や条件がマッチングできたら、飼育環境を確認した上で譲渡される。

譲渡犬チャイが電撃里帰り

お昼過ぎ、縁から譲渡された犬のチャイが、1歳の誕生日を前に訪ねてくれた。荻田さんは「チャイ、美人さんになったね。お利口さん」と、嬉しそうに顔を近づける。小学生2人と父母の家族4人は、チャイと暮らす日常を楽しんでいるそうだ。

「実は犬が苦手で、すれ違うのも嫌だって思っていたほどなんです」と父親が自身の過去を打ち明けた。子ども2人が犬を飼いたがったので、自分のように苦手意識を持たせたくないと考え、家族で縁を訪ねた。

里親と一緒に遊びにきたチャイ

「全力で可愛がろうと決めて、譲り受けました」と母親は振り返った。子どもたちは、動物に対して物おじしなくなったという。一家は荻田さんに、チャイとの縁を結んでくれた感謝をカードに書いて手渡した。

縁の譲渡ルールは、家族の一員にしてもらうこと。犬猫とも家の中で飼ってくれる里親を探している。また、子犬・子猫は60歳以上の家庭には譲らない。単身世帯も譲渡対象外だ。

「一匹でも多くもらってほしいなら、譲渡ルールを緩めれば良いという声もあります。でも、せっかく繋いだ命なので、家族として迎えてくれる環境で飼ってほしい」

シニア世代も飼育サポートで活躍

「私は夫婦とも60代なので、小さい動物を譲り受けることはできませんが、自宅で預かって飼育サポートをしています」。メンバーの高木由美さんは、預かっている2匹の灰色子猫を見つめながら話した。

譲渡会で訪問者を待っている縁の猫

2匹は普段、他の飼い猫と走り回ったりして、伸び伸び過ごしているという。こうして家庭に慣れておくと、里親にもらわれた後も馴染みやすいため、預かりボランティアの役割は大きいそうだ。

専用室でくつろぐ病気の猫。ここが終の住処になる

「2階は病気の猫専用の部屋です」と荻田さんが案内した。白血病と猫エイズの両方を罹患している猫が9匹いる。不思議なことに病気の猫たちは、どっしり落ち着いていた。「看取っていく覚悟で育てています。家庭と同じような環境で暮らしてほしいので、リビングみたいな部屋にしています」と話した。

家庭のリビングをイメージした重病猫の部屋

もともと動物が好きだった荻田さんは2015年ごろ、ボランティア活動を開始した。最初は、迷子になったペットのチラシ配布からスタート。先輩ボランティアを手伝いながら2017年11月、県登録ボランティアになって活動を広げた。2023年春にはシェルターの脇にドッグランも整備する計画だ。

縁には36人のメンバーがおり、新規ボランティアを募集中。高木さんのような預かりの他に、チラシ配り、ゲージの掃除など負担の少ない活動もある。

片耳が垂れている「つくし」は好奇心旺盛

「我が子を嫁や婿に出すような気持ちで、譲渡しています」。荻田さんは明るい口調で言う。縁を巣立った犬猫の数だけ幸せが増えているなら、不幸から幸せが生まれる大逆転の活動だと感じた。

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